村上春樹「切ない気持ちになりました」と語る、“記憶が消えて失われてしまった悲しみ”とは?
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」。2月28日(日)の放送は「村上RADIO~怒濤のセルフカバー~」と題して、村上さんが以前から“やってみたかった”というセルフカバー特集をオンエア。原曲とセルフカバーバージョンを、村上さんが思い出を語りながら選曲しました。この記事では、中盤2曲についてお話された概要を紹介します。


◆Sylvie Vartan「La Plus Belle Pour Aller Dancer」/『French Pops Best Selection』
◆シルヴィ・ヴァルタン「アイドルを探せ」/『Bon Bon French』
次はシルヴィ・ヴァルタンのヒット曲「アイドルを探せ」です。これは1963年に公開された同名映画の主題歌で、日本でもずいぶん流行りました。その30年後の1994年に、彼女はアコースティックでこの曲を吹き込み直しています。これがなかなかいいんです。リラックスしていて、パリっぽく小洒落(こじゃれ)ていて。聴いてみてください。

◆George Harrison「My Sweet Lord」/『All Things Must Pass - New Century Edition』
◆George Harrison 「My Sweet Lord(2000) /『All Things Must Pass - New Century Edition』
次はジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」、1970年のヒットソングです。僕はこの頃、新宿のレコード店でアルバイトをしていまして、このレコードをたくさん売ったことを覚えています。懐かしいです。あとで、盗作問題で訴えられて、かなりごたごたはしましたが、それはそれとして素敵な曲です。
ジョージは2000年にLP「All Things Must Pass」のデジタル・リマスターCDを出すにあたって、ボーナス・トラックとして、アレンジを少し変えてこの曲を吹き込み直しています。タイトルは「My Sweet Lord (2000)」です。



このあいだ、何かの拍子にふと思い出したことがあります。「My Sweet Lord」と同じ1970年だったかな、僕は大学生だったんだけど、夏休みで神戸に帰郷していました。映画でも観ようかと思って三宮(さんのみや)の街に出たんです。ちょうどそのときロバート・アルトマン監督の映画「M*A*S*H」と「ウッドストック」が封切られたところで、隣り合った映画館で上映していました。どちらもすごく観たかったんだけど、どっちか1つ選ばなくちゃならない。さんざん迷った末に、どちらか1つを観たんです。でも、そのときどっちを選んだのかが、いくら考えても思い出せない。

もう50年以上前の話だし、どうせ前後して両方観ちゃったんだから、どっちでもいいようなものだけど、そのときどちらを観たのか思い出せなくて、結構切ない気持ちになりました。あんなに一所懸命考えて決めたのにな、と。でもそういうことってありますよね。大したことじゃないんだけど、ちょっとした記憶が消えて失われてしまったことの悲しみというか……。

というわけで、今日はジョニ・ミッチェルの「ウッドストック」の新旧吹き込みをかけようと思ったんですけど、The L.A. Expressをフィーチャーした新録のほうがライブになっていて、ライブは勘定に入れないというセルフカバーの原則に引っかかってしまいました。また今度かけますね、すごくいい演奏だから。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~怒濤のセルフカバー~
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時:2月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/