マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の長期金利について解説していただきます。


米国の長期金利(10年物国債利回り)がジリジリと上昇を続けています。長期金利上昇の主な背景は、(1)バイデン大統領の経済対策実現の見通し、(2)金融緩和長期化の観測、(3)ワクチン普及によるコロナ終息への期待、それらによって景気回復期待や将来のインフレ率上昇予想が強まったこと。そして、(4)投資家が保有債券の損失に備えて国債を空売りしていること(市場要因)などです。

2月19日付け「米ドル/円と金利の相関が復活」をご参照ください。

もっとも、足もとの景気が依然として脆弱ななか、時期尚早な長期金利の上昇は景気回復の妨げになりかねません。そのため、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が2月23-24日の議会証言で、長期金利の上昇をけん制するかどうかが注目されていました。

議会証言は、23日に上院銀行委員会で、24日に下院金融サービス委員会で行われ、パウエル議長が経済見通しや金融政策について語りました。それぞれ半年に一度行われているもので、内容はほぼ同一です。パウエル議長はそこで、長期金利の上昇をけん制することなく、むしろ景気回復に対する「(金融市場の)信頼の証し」だとして、ある程度容認する姿勢を示しました。

もともと、中央銀行が長期金利をコントロールするのは難しいとされています。短期金利は政策金利にほぼ連動します。FRBは現在の「ゼロ金利」政策を今後3年程度続けるとの意向を明確に表明しているので、期間3年ぐらいまでの短期金利はほぼゼロ%に張り付いています。一方で、長期金利は上述の理由から上昇しているため、イールドカーブ(利回り曲線)は右上がりの傾斜が急になって(スティープ化)しています。

長期金利の上昇にFRB議長がお墨付きを与えたことで、イールドカーブはさらにスティープ化するかもしれません。バイデン政権の対コロナの経済対策(The American Rescue Plan)は、約2兆ドル規模の原案に近い形で3月中旬ごろまでに成立する可能性が高まっています。

また、中低所得者の支援やインフラ投資を柱とした中長期の経済政策(Build Back Better)も、3月には大統領の2022年度予算教書の中で詳細が示されるはずです。仮に景気回復への配慮から増税などの財源が十分に手当てされなければ、財政赤字拡大の懸念が長期金利を一段と押し上げるかもしれません。いわゆる「悪い金利上昇」です。

株式市場は長期金利の上昇を懸念し始めているようです。仮に、株価が大きく調整するような場面でもFRBは長期金利上昇を容認するのか。容認しないとすれば、関係者による口先介入だけでなく、長期国債の購入量を増やすなどの対応をするのか。今後の展開が大いに注目されるところでしょう。