毛髪を作る器官「毛包」を繰り返し再生させる細胞を、能力を保ったまま体外で大量に増やす方法を開発したと、理化学研究所などの研究グループが発表した。マウスの実験で効果や安全性を確認しており、臨床研究を準備済みで共同研究企業を探しているという。脱毛症治療への応用が実現すれば世界初の、複数種の細胞からなる器官丸ごとの再生医療となる。

動物のほとんどの器官は発生の過程で形作られ、出生後に作り直されることはない。唯一、毛髪の付け根にある毛包が周期的に退縮と再生を繰り返して毛髪が生え替わる。毛包には、基となる未分化の細胞「幹細胞」が複数種類あるが、再生を可能にする仕組みは分かっていなかった。

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    培養した幹細胞からできた毛包をマウスに移植し、生えた体毛(理化学研究所提供)

研究グループはまずマウスから採取した毛包幹細胞の集団に対し、与える栄養などを変えた約220通りの培養を試みた。その結果、特定の条件で6日間に約190倍に増えることを突き止めた。この条件で培養した幹細胞集団の能力を調べると、81%で3回以上、毛が生え替わった。また、この幹細胞集団から1種を除くと、3回以上生え替わる毛包が激減した。一連の実験により、毛包幹細胞集団の培養条件や再生に必要な幹細胞を特定した。この培養条件は、ヒトに由来する細胞にも効果があったという。

さらにこの幹細胞が、マウスの体毛やヒトの頭髪の毛包の特定部分に存在することを解明。この部分には「テネイシン」と呼ばれる糖たんぱく質があり、この幹細胞の維持に役立っていることも分かった。

こうした成果を脱毛症治療に応用しようと、研究グループは昨年6月、患者による臨床研究について特定認定再生医療等委員会の承認を受け準備を整えた。ところが実施を予定していたベンチャー企業が10月に経営問題で事業停止に陥り中断。これを受け理研は、研究を共同で進める企業や寄付金を募集している。

理研生命機能科学研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー(再生医学、発生生物学)は「毛包再生の社会実装には世界の大きな期待があり、一刻も早く臨床研究を行いたい。世界初の器官再生医療は、ほかの臓器再生にも波及する意義がある。脱毛症患者が精神的、肉体的な課題を克服してQOL(生活の質)を高めることや、日本の産業振興に役立ちたい」と述べている。

研究グループは理研のほか北里大学、岩手医科大学、東京メモリアルクリニックで構成。成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に10日付で掲載された。

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