とりあえず、以下の動画をご覧いただきたい。

ぺこぱによるChromebookのCM動画

ThinkPad X1 FoldのCM動画

上の動画はぺこぱによるLenovoのChromebookのCM動画。下は同じくThinkPad X1 Foldの動画だ。PCの宣伝といえば機能アピールが一般的だが、両動画では機能の紹介はない。Chromebookに至っては、本体すら登場しない。果たして、これでユーザーに製品を訴求できるのか? 両動画の狙いについて、レノボ・ジャパンのCMOに聞いた。

バスらなかったら意味がない

「私は昨年7月にレノボ・ジャパンに入社しましたが、それまではP&Gやジョンソン&ジョンソンなどの消費財のマーケテイングをやっていました。PCは高機能でテクノロジーが詰まったものですが、最近のPCはすごく高機能になり、消費者からすると性能はそれほど関心が高い部分ではなくなってきているので、ぞれ以前に興味をもってもらうきっかけをどう作るのかということが、マーケティングの課題だと考えています」と語るのは、レノボ・ジャパン CMO リュウ・シーチャウ氏だ。

  • レノボ・ジャパン CMO リュウ・シーチャウ氏

    レノボ・ジャパン CMO リュウ・シーチャウ氏

「Chromebookはターゲットが学生なので、その人が好きなタレントさんを使って製品に興味をもってもらおうとしました。それがぺこぱの動画で、ThinkPad X1 Foldの場合は、折り畳みのディスプレイがテクノロジーとしてのインパクトがあるので、そのインパクトをうまく生かせば、ROI高くマーケティングができるのではないかと考えました」と、リュウ氏は語る。

動画を作成した代理店は、おもしろ動画をバズらせるのが得意な会社ということだが、それでも「レノボさんのイメージと全然違うのですが、大丈夫ですか?」と確認されたという。

代理店が提案したアイデアの中には、かなり斬新なものもあったそうだが、同社では、その中からレノボのイメージとバランスを取りながらチョイスしたという。社内からも、とくに反対意見は出なかったという。

「ブランド動画もある中で、この動画の配信は全体の割合からすると20%くらいです。この動画の目的はバスらせることなので、その動画がつまらなかったらバスりません。このあたりは理解していました。グローバルのマーケティングに見せましたが、『おもしろいね』という反応でした」(リュウ氏)

レノボ・ジャパン 執行役員常務 河島良輔氏も、「レノボのマーケティングはユニークさを求めているので、このあたりはグローバルの戦略とも合っていると思います。『Different is better』が最近のレノボのスローガンになっています。違うことが良いことだというコンセプトでやっていますので、この動画のイメージがブランドの持っていきたい方向と近いと思います」と説明する。

  • レノボ・ジャパン 執行役員常務 河島良輔氏

最近は若い世代のPC離れがクローズアップされているが、そのあたりもこの動画を作成する背景になっているという。

「(若い世代のPC離れは)まさにそのとおりで、みんながスマホを使っている中で、PCを使う子供を増やしたいとなったときに、大人に響くシチュエーションでやっても子供には響きません。今の子供は何が好きで、何を見たらワクワクするのかというものに乗っかって訴求していくというのが、今回のきっかけになりました」(リュウ氏)

では、実際の動画の効果はどうだったのだろうか?

「反応は結構よく、通常のキャンペーンよりもツイッターのリツイートやエンゲージメントの数字が高く、店員さんからの評判も良かったです。私が店舗を訪問した際には、立ち止まって見ているお客さんを見かけました。キャンペーンの売上も良く、結果として数字でも表れています」と、リュウ氏は動画の効果を語った。

NECや富士通との差別化

レノボはNECに続き、富士通のPCも支配下にして、PC事業を展開している。では、これらのブランドとの市場の棲み分けはどうなっているのだろうか?

この点について河島氏は、「それぞれのポジションニングはクリアに分かれているので、とくに棲み分けをしなくても、区別はできています。たとえば、NECは国産ブランドで信頼感がああり、それをベースにスタンダードなものを届けています。レノボは信頼感を得ながら、少しやんちゃな活力のあるものを提供していますので、クリアに区別できています。レノボのPCの設計は海外で行っていますが、レノボは他の海外メーカーに比べ、コンシューマ市場に対してしっかり投資を行っており、どの国においてもシェアを持っています。そのため、PC市場に対して新しい試みを提供していくというミッションは無視できないと思っています。過去には、Yoga Bookで上も下も画面になっているものを提供するなど、個性的な製品を出してきました」と、もともとポジショニングが異なっていたので、とくに棲み分けは意識していないと説明した。

新型コロナウィルスの影響

コロナ禍の在宅やテレワークの増加で、PCの売上は伸びているといわれるが、同社はどうなのだろうか?

「当初の予定よりも、だいぶ伸びています。前年はWindows 7のサポート終了で大きな特需があり、翌年はその反動で落ちるという予測でしたが、前年と同じ規模か若干プラスになっています。そういう意味で、特需が2回来たというイメージです」(河島氏)

では、コロナ禍でPCに対するニーズは変わったのだろうか? この点について河島氏は、明らかに変わったと語った。

「これまではPCの買い替え需要が多かったわけですが、新型コロナウィルスによってテレワークやオンライン授業、巣ごもりによるゲームや動画といったニーズが高まり、使い方が明確になりました。デスクトップよりもノートPCが売れるようになってきましたし、モニターやスピーカーを一緒に購入するなど周辺機器のニーズも新しくできています。あと、オンライン販売が増えました」(河島氏)

今後の展開

今回の動画は、若者をターゲットにしているが、他のセグメントに対してはどうなのだろうか?

「今後はいろいろな層をカバーをしていく予定ですが、ブランドやラインナップによってターゲットが違うので、製品ごとに最適なクリエイィブやコミュニケーションを投げかけていきます。今後はテレワークや教育需要のほか、ゲームを含めたエンターテインメントが潜在も含めて1000万台程度あると思うので、そこを進めていきたいとい思いますし、若者への普及余地まだあると思います。若者には、NECよりレノボのほうが親和度があると思いますので、それをうまく生かしたいと思います。なお、若者への浸透はグローバルでのテーマになっています」(リュウ氏)

ただ、インパクトのあるおもしろ動画だけを展開していくわけではないという。

「ターゲットに合わせてその製品の良さを伝えることは、これまでずっとやっていましたが、これまでは単に『このディスプレイは曲がります』と伝えていたのを、曲がるのが自然に入ってくるコミュニケーションはどういうものだろうと考えたときに、たまたまあのような面白い動画になりました。今後も自然に頭に入ってくるというコミュニケーションを洗練させていきたいと思います」(リュウ氏)

また、TVCM、Web、Youtube、SNSなど、メディアをどう使い分けていくかについてリュウ氏は、「このセグメントにはこのメディアというよりも、ターゲットに対して、どういうアクションをしていけば、われわれのメッセージが伝わり、エンゲージメントが大きくなるのかを考えて、それに合わせてメディアを選んでいきたいと思います。以前はTVCMでキレイな動画を流していましたが、若い人がゲームの実況中継を見ているいるのであれば、そこで発信を多くしていかなければならないと思います。そのように、いろんな工夫をして、新しいトライをしていきたいと思います」と述べた。

そしてリュウ氏は最後に、チャレンジしていくという社内風土が重要だと語った。

「TVCMであれば、15秒や30秒という枠で考える必要がありましたが、Clubhouseであれば、こういったチャンレンジができるという風に、チャンレンジの幅が無限に広がっているので、社内チームの人には、『やったことがないからやめましょうというは、ないようにしましょう』と話しています。トライすることをチームのカルチャーにしていきたいと思います」(リュウ氏)