卵を産む哺乳類である単孔類、カモノハシとハリモグラのゲノム(全遺伝情報)を高精度に解読し、それぞれの生態を表す遺伝子の特徴が判明した、と北海道大学などの国際研究グループが発表した。ヒトを含む哺乳類全体が、鳥類や爬虫(はちゅう)類と共通の祖先からどう進化してきたかを探る上で重要な情報も得られた。

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    カモノハシ(左)とハリモグラ(早川卓志氏撮影、提供)

カモノハシとハリモグラの2グループしかいない単孔類は、メスが卵を産み、卵からかえった子は母乳で育つ。カモノハシのゲノムは2008年に解読されたが精度が不十分で、ハリモグラは未解読。また、多くの哺乳類がお腹で胎児を育てる胎生となった謎を解明するには、単孔類など、胎生でない種も含めた哺乳類全体のゲノムの解明が不可欠だ。そこで研究グループは遺伝子の塩基配列を高速、高精度に読み出せる最新装置「次世代シークエンサー」により、両者の全ゲノム配列を解読した。

細胞には、さまざまな刺激を伝える分子を受け止める受容体がある。これらの遺伝子を調べた結果、嗅覚受容体遺伝子はカモノハシの299個に対し、ハリモグラは693個も持つことが分かった。オーストラリアとニューギニア島(インドネシア、パプアニューギニア)に生息するハリモグラは、アリ塚を壊すなどしてアリやシロアリを食べる。研究グループは、ハリモグラが匂いを手がかりにこれらを探す生態を反映し、嗅覚受容体遺伝子が多くなっているとみている。

また、フェロモン受容体遺伝子はカモノハシが262個で、ハリモグラの28個を大きく上回った。オーストラリア東部の川や湖沼で生活するカモノハシが効率よく仲間とのコミュニケーションや繁殖をするため、フェロモンを大きく役立てている可能性を示している。

苦味受容体遺伝子はともに少なく、特にハリモグラはわずか3個。匂いを頼りにアリやシロアリのコロニーを見つければ、長い舌で一網打尽に丸のみできるため、味覚をあまり必要としないようだ。卵を生むことや母乳の分泌に関する遺伝子なども解析された。

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    単孔類の遺伝子数の比較(発表資料を基に作成)

2つの種で共通の起源を持つ遺伝子のDNAを比べると、種が分化して時間が経つほど塩基配列の違いが大きいと考えられている。これを基に分化した時期などを推定できる。研究グループは解読したゲノムを基に、カモノハシとハリモグラが5460万年前に分化したことを明らかにした。また単孔類と胎生哺乳類の祖先が分かれたのが1億8760万年前、哺乳類全体の祖先が鳥類や爬虫類と共通の祖先から分かれたのが3億50万年前と、分化の時期を高精度で割り出した。

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    全ゲノム塩基配列の違いから推定した哺乳類の分岐年代(早川卓志氏提供、一部改変)

全哺乳類共通の祖先は30対の染色体を持っており、カモノハシの26対の染色体はそこから156回の再編成を経たと推定できた。ヒトでは23対の染色体を持つのに165回の再編成を経たことも分かった。

研究グループの北海道大学大学院地球環境科学研究院の早川卓志助教(ゲノム科学)は「ヒトから遠い単孔類の全ゲノムを解読でき、哺乳類全体の進化を理解するための基盤が整った。カモノハシとハリモグラはオーストラリアの大規模森林火災の影響を受けており、保全を考える上でも有用な情報になる」と述べている。

研究グループは北海道大学、東京工業大学、東工大発ベンチャーのdigzyme、日本モンキーセンター、オーストラリア・アデレード大学、デンマーク・コペンハーゲン大学などで構成。成果は1月6日に英科学誌「ネイチャー」電子版に掲載され、19日に北海道大学などが発表した。

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