JAXAと日立造船は2月2日、宇宙での全固体リチウムイオン電池の実用化に向けた実証実験に関する共同研究契約を締結したことを共同で発表した。

リチウムイオン電池(LIB)はスマートフォンを筆頭に、ノートPC、タブレット、デジカメ、携帯音楽プレイヤーなど、さまざまなモバイル機器の長時間稼働を実現して人々の生活に大きな変革をもたらした。しかし、そんなLIBでもまだ力不足の分野もある。電気自動車(EV)などへの利用ではまだまだエネルギー容量が不足しており、1回の充電での航続距離が短い、それを補うために多量のLIBを積むと重量の増加と車両価格の上昇が発生する。また充電時間が長いなど、ガソリン車とまだ肩を並べられないため、電池のさらなる高性能化が求められている。

そうした背景を受け、現在、世界的に電池の研究開発が進む。日本国内でも、ポストLIBとして、マグネシウム空気電池、亜鉛空気電池、フッ化物電池など、複数の種類の電池が国家プロジェクトとして進められている。そのほかにも大学や研究機関、企業などが独自に研究開発を進められている。

そうしたリチウムを使わないポストLIBは、開発目標時期が早くても2020年代半ば以降となっており、それよりも前の直近の2020年代前半から半ばを目標としてオールジャパン体制で力を入れて開発が続けられているのが、LIBの発展型である全固体LIBだ。

これまで充電できない乾電池のような1次電池にしろ、充放電が可能な電池(2次電池)にしろ、わずかな例外を除けば市販品の大多数が電解液を使用している。現状のLIBもその例には漏れず、そのことが大きな弱点を抱えていた。電解液は漏れやすく、リチウムは酸素と触れると激しく燃焼する危険性があるからだ。無理な急速充電を行ったり、ずさんに管理していたりしても破裂や発火の恐れがある。そのため、EVでは安全性を考慮して充電時間が長く設定されているのだ。

しかしこうした問題も、電解液ではなく固体電解質にしてしまえばすべては解決可能である。破裂や液漏れの心配がないため、出火の危険性はなくなり、急速充電も可能となる。また現状の液系LIBと比較して小型・軽量化も可能なため、エネルギー容量を増やすことが可能だ。つまり、同じ重量ならより多くのエネルギーを蓄えられ、同じ容量なら電池をより軽く作れるということである。

こうした背景から全固体LIBの開発は世界的にヒートアップしており、JAXAもそうした研究開発に関わる機関のひとつだ。JAXAは科学技術振興機構から受託した「イノベーションハブ構築支援事業(太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ)」において、「全固体リチウムイオン二次電池の開発」を共同で行う契約を、日立造船と2016年に締結。それから全固体LIBの共同開発を行ってきた。

現在も宇宙開発において現状の液系LIBが利用されているが、上述したように電解液を使用している点や、使用温度領域が狭い点から、真空かつ温度の高低差が激しい過酷な宇宙環境下では使用が困難なため、衛星などの設備内部に設置され、温度を管理しながら使用されている。

そのため、真空状態や厳しい高温・低温環境においても使用可能となる全固体LIBの実現を目指して、これまで共同で検討および試作の開発が進められてきた。そして今回、両者は試作した全固体LIBを実際の宇宙環境において評価・検証を行うべく、軌道上で実証実験を行うこととしたのである。

  • 全固体リチウムイオン電池

    全固体LIBのサンプル (出所:JAXA Webサイト)

実証実験では、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置される中型曝露実験アダプタ(i-SEEP)上の船外小型ペイロード支援装置(SPySE)に全固体LIBを設置。過酷な環境で全固体LIBが稼働できるかどうかの確認が実施される(JAXAは全固体LIBの搭載を通じてSPySEの機能検証も実施の予定)。全固体LIBは、日立造船が2016年に開発し、それをベースにJAXAと日立造船で共同開発してきた最新の全固体LIBが使用される計画だ。

  • 全固体リチウムイオン電池

    ISSの「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置されたi-SEEPとSPySEの外観図と全固体LIBの設置場所 (出所:JAXA Webサイト)

スケジュールは、これから全固体LIBの宇宙実証に必要となる装置の開発やその検証試験などが行われたあと、2021年秋以降にISSに向けて打ち上げとなる。そして2021年末より約半年間、実証実験が実施される予定だ。

全固体LIBにすることの大きな利点は、まず温度管理が不要となることだ。そのための装置が不必要となることから、宇宙環境で利用する設備の小型・軽量化に寄与するという。また、小型・軽量化は打ち上げ時にもメリットをもたらす。

そして温度管理が不要となるということは、それだけ電力消費を減らせるということである。宇宙空間ではふんだんに電気を利用できるわけではないため、低消費電力化はメリットが非常に大きい。今後、人類は再び月を目指し、JAXAも米国のアルテミス計画に参加しており、月へ向かう計画だ。JAXAはトヨタと組んで有人探査ローバを開発しており、より過酷な温度環境である月においてそうしたモビリティや観測機器などへの搭載も考えられる。さらに将来的には、火星探査機などへの活用も期待されるという。

共同開発された全固体LIBのスペックは以下の通り。

  • サイズ:65mm×52mm×2.7mm
  • 質量:25g
  • 容量:140mAh(15セル並列接続により約2.1Ahの電源とする予定)

特徴

  1. 固体電解質を用いるため、低温で凝固することがなく、また高温でも分解しないため、-40℃~+120℃という環境下でも安定動作が可能
  2. 電解液を使用していないため、液漏れがなく、固体電解質が難燃性のため、発火、発煙、破裂などの危険性がない
  3. 揮発成分を極小化した電池構成を実現し、真空下でもほとんど膨張することがない