文部科学省(文科省)傘下の科学技術振興機構(JST)は2012年1月20日、理事長記者説明会を開催し、2014年4月から始めた「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」の最近の成果概要などを解説した。

JSTの濵口道成理事長は「2021年1月までにSUCCESSの出資先は32社に達し、さらにその中の2社がスタートアップ企業としてSUCCESSから“EXIT”して成長期に入った」と、その実績内容と成果を語った。

この「SUCCESSから“EXIT”したスタートアップ企業」とは、2020年12月25日に東証マザーズに上場したファンベップと、2020年9月28日に中部電力の子会社化となったメディカルデータカードの2社を示している。後者のメディカルデータカードは、9月28日時点でJSTが2回SUCCESSとして出資した資金相当の株部分を中部電力が買い取り、同社の連結子会社化している。中部電力は、将来の成長事業を社内に取り込むオープンイノベーション戦略としてM&A(企業・事業の合併や買収)を実施した形となる。

今回の説明会では、メディカルデータカードの創業者である西村邦裕 代表取締役社長と洪繁(こうしげる)取締役会長が招かれ、同社の事業内容などの解説を行った。

西村氏は「メディカルデータカードは現在、医療機関と患者個人とをつなぐ医療情報プラットフォームとなる医療機関向けWebサービスである“MeDaCaPRO”と、患者個人向けのスマートフォン用アプリケーション“MeDaCa”の2つのサービスを提供している」とし、特にMeDaCaは患者自身が自分の医療情報を管理できる点で意味があることを強調した。

同社がSUCCESSの投資先となった経緯について西村氏は、「2013年に慶応義塾大学がJSTのCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムの中で『健康長寿の世界標準を創出するシステム医学・医療拠点』として採択され、その拠点が進める医療情報として電子カルテを共有する態勢づくりの一環として『患者個人が医療情報を持ち運ぶ』という発想を得て、その具体化を図るスタートアップ企業として2014年10月に創業された」と説明する。

JSTはその起業を支えるためにSUCCESSとして、2017年7月と2018年4月の2回、出資しており、この出資金を基に、同社は事業化を強力に進めてきた。

同社が事業化を進めている医療情報プラットフォームは公的なサービス事業に育つと読んだ中部電力は、2019年にメディカルデータカードに出資し事業連携を図り、2020年9月にさらに出資額を増やし、連携子会社化したことになる。

中部電力は、先端技術や革新的なビジネスモデルを有するベンチャー企業(スタートアップ企業)やベンチャー投資ファンドへの投資を行うために、コーポレートベンチャーキャピタル「中部電力コミュニティサポートファンド」を設立済で、5年間で50億円規模の投資を実施予定と公表している。なお、中部電力コミュニティサポートファンドによると、メディカルデータカードは、2014年10月創業時の資本金は7800万円、2020年3月時点は2億200万円と記述している。

日本の既存の大手企業が新事業を開発しているスタートアップ企業に対しM&Aを実施する動きは強まって来ているが、実際には日本ではまだ少ないのが実情である。

  • MeDaCa

    図1 メディカルデータカードが事業化している患者個人向けのMeDaCaの概要 (出所:メディカルデータカードWebサイト)