「遡及」という言葉は、日常生活で使われる機会は多くないものの、ビジネスシーンではしばしば見かける言葉です。法律が絡んでくることも多い言葉なので、しっかりと意味や使い方を覚え、ビジネスシーンで活用していけるようにしましょう。

  • ビジネスシーンでよく使われる「遡及」という言葉の意味と使い方を覚えておきましょう

    ビジネスシーンでよく使われる「遡及」という言葉の意味と使い方を覚えておきましょう

遡及の意味・読み方

遡及とは、「過去に遡って影響を及ぼしたり、効力を及ぼしたりすること」といった意味で使われます。読み方は「そきゅう」ですが、「さっきゅう」と読んでも間違いではありません。

遡及の「遡」は、「さかのぼる」という意味で使われますが、「溯」を使うことも可能です。

遡及と同じ読みの言葉

遡及には同音異義語が複数あります。読み方が同じでも意味が違うので、それぞれ適切な状況で適切な「そきゅう」を使えるよう、意味と使い方を覚えておきましょう。

訴求

「訴求」は、「広告や販売などを使って、購買意欲をかき立てる」という意味で使われます。「訴える」という漢字が使われていますが、裁判に関係する熟語ではないので注意が必要です。

ビジネスシーンでは、「購買層ごとに商品の魅力を訴求するには、それぞれの購買層が好むタレントを使った広告も効果的です」のように、マーケティング関連の話題の中で使われます。

遡求

「遡求」は遡及と1文字違いですが、意味は全く違いますので、使うときに間違えないように注意が必要です。

「遡求」は「償還請求」と同義で、「手形や小切手の支払いがなかったり、支払われる可能性が低くなったりした場合に、所持人が代償としての金額支払いを請求する」という意味で、遡及よりも使われる頻度は低い言葉です。金融関連、経理関連の仕事でよく使われるでしょう。

遡及の使い方・例文

遡及は、ビジネスシーンでどのように使われているのでしょうか。例文を参考にしながら、遡及のビジネスシーンでの使い方を学び、自分でも使えるようにしていきましょう。

■遡及して

「遡及して」は「遡及する」という動詞の活用形で、遡及後のことまで話が及ぶときに使います。ビジネスシーンで契約をする際、「違反があったときには、契約時まで遡及して金利を請求すること」のように契約条件を付けられます。

法律関連では、「新法の適用は4月1日に遡及して行う」のように使われます。

■遡及的に

「的」をつけると性質を表す言葉になるので、「遡及的に」は「過去に遡って影響や効力を及ぼす性質」という意味で使われます。

ビジネスシーンでは、「違約金は遡及的に扱われるので、違反発生時点から計算される」といった言い回しで使用できます。

■遡及精算

「遡及精算」とは、昇給の決定時期と支払い時期に差があった場合にその差額分を精算し、あとからまとめて支払う経理処理のことです。

例えば、昇給の時期は年度初め(4月1日)と決められているものの昇給額の決定が6月にずれ込んだ場合、4月と5月の給与は前年度の基準のまま支払われます。

本来その間にもらうはずだった昇給分の金額は遡及精算され、新しい給与額で支払われる6月の給与に加算して支払われます。

■遡及差額

「遡及差額」は「本来支払うはずだった金額との差額」の意味で使います。

例えば、昇給の辞令が6月に発令されるものの給与が年度初めに遡及して増額される場合、すでに給料が支払われている4~5月に上乗せされるはずだった昇給分の金額は、「遡及差額」として6月の給料に上乗せされます。

  • スマホを操作する様子

    ビジネスシーンでも「遡及」が使われる場面が散見されるため、事例をしっかり覚えておきましょう

遡及の類語

遡及と同類の意味を表現したいものの、遡及を使うのが適当でない場面では、遡及の類語を知っていると適切な表現ができます。

ここで紹介する遡及の類語の意味や使い方を覚え、ビジネスシーンに合った適切な言葉を使って表現できるようになりましょう。

遡る

「遡る」は「さかのぼ(る)」と読み、「ものごとの過去に立ち返る」という意味で使います。「違反していた時点に遡って、税金の計算をやり直す」といった言い回しに遡及を使うと、「違反していた時点に遡及して、税金の計算をやり直す」となり、ほぼ同義になります。

逆行

「逆行」は一般的に「ぎゃっこう」と読みますが「ぎゃくこう」とも読め、「順序や流れに逆らって進むこと」の意味で使われます。「時間を逆行する」ことが、遡及と同類の意味になります。

また、「時間を逆行する」と「ある時点まで遡及する」は、ほぼ同義となります。言葉の置き換えだけでは同じ意味の文章になりませんが、前後を補うことで近い意味の文章が作成できます。

過去に及ぶ

「過去に及ぶ」は、遡及の意味の一部である「過去へ立ち返る」の意味になるので、類語として使用できます。「違約金の計算は過去に及んで行われる」と「遡及して行われる」は、ほぼ同義になります。

遡及の対義語

遡及の類語を習得したら対義語も押さえましょう。語彙力も多くなり、文章表現も豊かになります。

ビジネスシーンでは対義語を用いた比較の文章もよく使われるので、遡及の対義語の意味と使い方はセットで覚えておきましょう。

将来

「将来」という言葉を知らない人や、使ったことがない人はほとんどいないでしょう。しかしながら、「どういう意味か」と聞かれて即答できる人も少ないでしょう。「将来(しょうらい)」は、「これから先」という意味で使われます。

遡及は過去の方向を見て「遡及的に〇〇する」、「遡及して〇〇する」というのに対し、将来はこれから先の方向を見て「将来的に〇〇する」、「将来は〇〇する」と用います。

未来

「未来」も知らない人や使ったことがない人はいないと考えられる言葉です。しかしながら、意味の説明になると少し躊躇されるのではないでしょうか。

「未来」には、「これから来る時」という意味があります。「未来」は「将来」と同義であり、同じように使えます。しかし、「将来的」とはいいますが、「未来的」という表現はありません。

ビジネスシーンでは、「遡及して〇〇するよりも、未来に向かって〇〇する」といった言い方ができます。

先々

「先々(さきざき)」は「前々」と書いても同じ読み方で、「これから過ごす遠い先」という意味で使います。「未来」や「将来」ともほぼ同義で使え、「先々のことを考える」、「先々不安だ」といった表現でよく用いられます。

ビジネスシーンでも、将来的な見通しや予定を語るときに使われることが多く、「先々のことを考えると今のうちに準備しておきましょう」「先々の仕事を視野に入れて、早めに資格を取っておこう」のように活用できます。

遡及の英語表現

遡及を英語で表現したい場合は、「retroaction」を使います。昇給した際の差額分となる「遡及差額」は、以下のように英語で表現できます。

He won a retroactive wage increase of two months.(彼は2カ月前に遡及して昇給を得た)

「遡及的」を表現する場合は、「retroactive」のほか、「ex post facto」と表現することもできます。

遡及の意味や使い方を知ろう

遡及という言葉を日常生活の中で使うことはあまりありませんが、ビジネスシーンや法律が関係する状況においてしばしば目にします。法律や契約が関わる話の中で遡及という言葉が使われたとき、意味がわからず流してしまうのは危険です。

本記事で紹介した例文などを参考にしながら意味や使い方を把握し、遡及が使われた文章の内容をきちんと理解できるようにしておきましょう。