トランプ逆転を信じた、陰謀論「Qアノン」信者の落胆と困惑 

陰謀論「Qアノン」の説によれば、ジョー・バイデン米大統領の就任式は「嵐」の日、すなわちドナルド・トランプ前大統領が立ち上がって邪悪な敵を逮捕する瞬間だと考えられていた。

就任式は10日間の暗黒の後に迎える「大いなる覚醒」の日。メディアやインターネットが遮断され、トランプ氏の敵はみな自分たちの犯罪が緊急放送で暴かれて一斉逮捕され(Qアノン信者が小児性愛者と信じて疑わないジョー・バイデン氏も含む)、グアンタナモ・ベイに送られて裁きを受け、ゆくゆくは刑に処せられるはずだった。

だが現実には、就任式では暴力も、復讐も、混乱も見られなかった。1月6日の議会乱入を受けてワシントンDCは閉鎖され、Qアノン信者が州兵に偽装して式典に潜入するつもりだ、という先のFBIの報告にも関わらず、ジョー・バイデン大統領の就任式は比較的地味に執り行われた。暗号化メッセージアプリTelegramでは主要なQアノン系インフルエンサーの多くが、「嵐」が起きなかったことに対して猛り狂うことも怒ることもなく、喪失感を消化しようとしていた。

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なかには血気盛んに、しばしば繰り返されてきたスローガンのごとく「計画をを信じろ」と信者らに熱心に呼びかける者もいた。「今日は待ちに待った日だ!」 。Telegramでもとくに有名なQアノンチャンネルにこう書きこんだ者もいた。「神と愛国者に使命を果たさせよ。正午に何が起きるかは気にするな。そのあとの展開に注目せよ」。別のユーザーは「俺たちは解き放たれた。いよいよだ。俺たちならどんなことも切り抜けられる」と書いた。忠誠を貫く読者の一部は、こうした激励のメッセージに心を慰められた。だがそれ以外は、小児性愛者の左派に対する血に染まった復讐という妄想が実現しなかったことに怒り、激しく失望した。「終わった。もう終わりだ。6カ月間もQに執着していたなんてバカみたいだ」という書き込みのあとには、涙を流す絵文字が続いていた。別の書き込みはもっと核心をついていた。「結局、全部くだらなかった。でもさらにくだらないのは、自分がそれを信じていたことだ」

意外にもQコミュニティの一部インフルエンサーの間には、静かな諦めモードが漂っていた。匿名のユーザー「Q」が頻繁に投稿していた掲示板8kunの元運営者で、大勢からQ本人だと目されていたロン・ワトキンスはTelegramにこう書き込みした。「自分たちはすべてを捧げた。これからはできる限り前を向いて、普段の生活に戻っていかなくてはならない」


プラットフォームからの締め出し

バイデン大統領の就任式に対する頑ななQアノン支持者の反応は「正直なところ、多種多様です」と言うのは、調査報道サイトBellingcatで過激思想を研究するアリック・トーラー氏だ。「僕は大勢が一斉に否定するだろうと思っていました。『お前たちは分かってない、実際に起きているのは……』と。ですが、むしろ諦めや困惑でした。間違いなくQはこの先何年も存続するでしょうが、大勢がただ茫然としています。文字通り何年も夢見ていたこと(一斉逮捕、刑の執行、啓示)がなぜひとつも起きないんだろう、と」。このように反応が様々なのは、Qアノン・コミュニティではよくあることだ、と憎悪犯罪・過激思想研究センターのケヴィン・グリシャム副所長も言う。「一枚岩の集団とは言えません。いくつもの小グループから構成されていて、各々が核となる新年を各々に解釈しているんです」

ローリングストーン誌が以前報じたように、こうした落胆ぶりは大統領選挙日以来、Qコミュニティの内部でふつふつと沸き起こっていた。バイデン氏の勝利宣言以降、ベテラン支持者は現実の出来事とQの預言のつじつまを合わせるのに苦労していた。「計画を信じてはいるが、みんな確証が欲しいんだ」とは、行き場をなくしたあるユーザーの11月の投稿だ。ここ数カ月間は「Qアノンにとって重要なターニングポイント」だった、と言うのは『Q Anon Anonymous』というPodcastの共同ホストを務めるトラヴィス・ヴュー氏。彼はローリングストーン誌にこう語った。「ソーシャルメディアの禁止措置とドナルド・トランプ氏の敗北が重なったことで、彼らは今後がらりと進化せざるを得なくなるでしょう」

プラットフォームからの締め出しが、そうした進化に重要な役割を果たしている。コミュニティ規約違反でFacebookやTwitterといった主要プラットフォームや、議事堂暴動計画に一役買ったと批判され、先週閉鎖されたParlerのようなアプリからも追放されたQアノン信者は、他の過激派がたむろするTelegramなどメッセージアプリのスレッドに群がるようになった。Qアノンの預言が実現しなかったことに失望した人々が、明らかに暴力的なグループに引き寄せられる危険は明白だ、とグリシャム氏は言う。筋金入りのQアノン信者が次第に過激な連中の言い回しに触れ、そこへ悲痛や落胆が重なれば、「なんらかの非常に危険な状況が起こる可能性もあります」と同氏は言う。


「2021年は栄光の年になるだろう。これは静かなる戦争なのだ」

トーラー氏は落胆したQアノン信者とその他周辺グループの交配を大きな脅威とは見ていない。前者は他とは一線を画すイデオロギーをもつ、独自のグループとみなしているからだ。「私はTelegramユーザーの多くがQアノン目的で集まっているだけだと思っています。たとえば、Q目的で4chanや8kun――Qが投稿していた掲示板サイト――を利用していたベビーブーマー世代や中年の主婦が、その他多くの掲示板に足を踏み入れたりはしないでしょう」と彼は言う。だがコンテンツ規制のガイドラインが緩やかで、個々のスレッドへの讃歌が容易なことから、「Telegramは、控えめに言っても、ずっと敷居が低いです」。 同氏の予想では、仮にコミュニティ内部で分裂が起きる、あるいは落胆したハードコアな信者がムーブメントから脱落したとしても、Qアノン支持を自称する人物が議員に当選し、今年初めには反人身売買運動#SaveTheChildrenがソーシャルメディアで定着したことをふまえれば、今後Qコミュニティはさらにメインストリーム化しかねない。

「それまで外部の扇動的運動とみられていたティーパーティ運動を共和党が取り込んだように、Qの大枠――中核ではなく、「ソフトな」部分――は次の大統領選で共和党内部に浸透するでしょう」と同氏は予測する。「(3年ほど)前までは、生粋のQ支持者が選挙に当選するなんて想像もできませんでしたが、今じゃ議会も含め、あちこちで当選しています。預言や終末が訪れませんでしたが、こうした政治的勢力は幾分形を変えながらも、衰える兆しは見えません」。グリシャム氏も同じように、コミュニティ内にたぎる怒りが引き金となって、おそらくは地方レベルまたは州議会で抗議活動が増えるだろうと予測している。「『戦闘には敗れたが、これからも戦い続ける』といった気風をひしひしと感じます」

Telegramの中でも14万2000人以上の購読者を抱えるチャンネルの投稿も、これを物語っている。「2021年は栄光の年になるだろう。これは静かなる戦争なのだ」

from Rolling Stone US