国立がん研究センターと日本電気(NEC)は、人工知能(AI)を活用して大腸がんやその前がん病変のポリープを見つけるために開発した診断システムが、医療機器として承認されたと発表した。この診断システムは、AIにディープラーニング(深層学習)の手法で学習させた大量の画像情報を基に病変を検知、医師に伝えて病変発見を確実にする仕組み。承認により、このシステムの実力が公式に認められた形で、NECは国内で販売を開始し、欧州でも近く始める予定。同センターは「内視鏡医とAIが一体となって検査を行うことで診断精度の改善、向上が期待できる」としている

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    診断システム「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」の概略図(国立がん研究センター提供)

この診断システムは「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」。がん研究センターとNECの研究グループは、NECの顔認証技術を応用。早期大腸がんやその前がん病変約1万2000種類に及ぶ約25万の内視鏡画像一枚一枚に国立がん研究センター中央病院の内視鏡医が所見を付けた上でAIに学習させた。

これにより、システム内のAIは診断対象の内視鏡画像を速やかに解析。早期大腸がんや前がん病変を検知すると、通知音とともに円マークでその部位を示して内視鏡医に知らせることができる。内視鏡医は注意深く観察し、病変の見逃しを回避できるという。

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    「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を用いた大腸がん検出例。緑色の円内が病変部(国立がん研究センター提供)

研究グループは、AIが学習していない350種類の病変を対象に、開発した診断システムの有効性を検証した。その結果、比較的判断しやすい隆起型の病変では約95%、判断しにくい表面型でも約78%を正しく検出した。これらの結果を臨床医の診断結果と比較すると、例えば隆起型病変に対しては経験豊富な内視鏡医と同程度の診断性能があることが分かったという。

大腸がんは男女合わせると患者数が最も多い。前がん病変である腫瘍性ポリープから発生することが明らかとなっており、人間ドックや大腸がん検診で前がん病変が発見された場合は、積極的に内視鏡で切除している。しかし、病変が小さかったり、大腸の内壁に似ていたりする場合は、内視鏡医が熟練していないと見逃される問題があった。

米国の研究では、がん化しやすい腺腫性のポリープを内視鏡で切除すると、大腸がんになる率を76〜90%防ぎ、死亡率を53%減らせたとしている。また別の研究報告では、大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんになったケースが約6%あり、その58%は内視鏡検査時の病変見逃しだったという。

「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」に関する一連の研究開発は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業や日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業などの一環として行われた。

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