作家・岸田奈美、免許がないのに「ボルボ」を購入した“泣ける”理由とは?
放送作家の高須光聖が、世の中をもっと面白くするためにゲストと空想し、勝手に企画を提案していくTOKYO FMの番組「空想メディア」。2020年12月13日(日)の放送では、作家・岸田奈美さんが登場しました。


(左から)高須光聖、岸田奈美さん



◆父が好きだったボルボを母のために購入
高須:東京にきてどれぐらいですか?

岸田:3年目ぐらいですね。

高須:家族も東京に住んでいるの?

岸田:いえ、私が出稼ぎに出てきている状態ですね。

高須:なるほど。お母様と弟さんは神戸で住まれているんですね。

岸田:そうです。面白い人と出会えたり面白いことに遭遇しやすい場所って、やっぱり東京なんですよね。人が集まるところに面白いことも集まってくると思っています。

高須:そっかぁ。

岸田:なんとか頑張って本を売って東京で有名になったら、その後はお母さんと弟と一緒に住みたいです。“お金を貯めて家を買おう”という気概だったんですけれど、最近すごく大きな買い物をしちゃったんですよ。

高須:何を買ったの?

岸田:車です。

高須:車を買うことってええことやん。

岸田:実は私、免許を持っていないんですよ。それなのに、車を買った。ここからがいい話なんですよ! 泣けます。

高須:“泣ける”って、わざわざ言わなくていいのに(笑)。

岸田:(笑)。昔、お父さんが好きだった車がボルボだったんですよ。岸田家が愛したボルボだったんですけども、お父さんが亡くなってから外車を維持することが大変になってしまったんです。なので、泣く泣くボルボを売りに出したんですね。「お父さんが好きだった車を売っちゃったね」って、ずっと私とお母さんは気にしていました。だから、家族の目標として「いつかお金を貯めてボルボを購入する」というのを掲げていたんですよ。

高須:なるほど。

岸田:私のお母さんは、車椅子に乗っていて足を動かすことができないんですが、手だけで車を運転することはできるんですよ。

高須:手だけで運転できる車があるんやね。

岸田:はい。手だけで運転を制御できるように、車がカスタマイズされているんです。1人でビュンビュンと車を運転していますよ。

高須:すごいねえ。

岸田:車椅子もお母さんが自分で畳んで、後部座席に置くことができるんですよ。だけど、そういうふうに運転できる車って、車高が低い車なんですね。つまり、ボルボのセダンじゃないと乗れないんです。それに加えて、家の駐車場に入るサイズを考慮すると「ボルボ・V40」という、小さめなセダンしかなかったんですよ。だけど、V40は生産が終了している車だったんです。日本に数台しかありません。

高須:そうなんだ!

岸田:問い合わせてみても、再生産の予定はないとのことでした。だから、「買うなら今しかない! 今を逃すと一生ボルボに乗れないかもしれない」って思ったんですよ。だけどV40は、お母さんの給料だけでは買える価格ではありませんでした。

高須:そっかぁ。

岸田:私が書いた本の印税を使うことを考えましたが、そもそも印税が入ってくるのって数ヵ月後なんですよね。

高須:それで、お金の工面をどうしようか悩んだ訳ね。

岸田:実は私、ローンが組めないんですよ。だけど「行ったれー!」って気持ちで払いました(笑)。

高須:いい買い物をしたね。「お父さんが好きだったボルボにもう一度乗りたい」という夢が叶ったわけやね。

岸田:貯金はほぼゼロになってしまいました(笑)。

高須:それでもええやんか。ボルボの購入は、面白い人生を生きるための1つの布石になったと思うよ。買ったことで、人生がより面白くなっていくはず。

岸田:つらいことやトラブルがあっても「愛せるところ」を見つけて、楽しい方向、面白い方向に持っていけるようにしたいっていう気持ちはたしかにありますね。それと私は、自分のまわりでいい影響を与えてくれた人に対しての恩返しというか、時間とお金をドカンと使ってあげたくなるんですよ。ボルボの購入は、まさにその気持ちで動いた結果です。お母さんは車椅子で歩けないけれど、ボルボに乗ってビュンビュン走っていけば、きっとさらに面白いことが起こると思うんです。

◆自分が“選んだ”家族を心から愛する
岸田:エッセイを書いていると、たまにまわりから「障がいのある家族だから、こんなに責任感が生まれるんだね」って言われることがあるのですが、私はその言葉にすごく違和感がありました。

“障がいがある可哀想な家族だから仲がいいのかな?”とか、“家族だから面倒を見ることができるのかな?”といったことを自問自答してみたのですが、私はそんなふうには思えなかったんです。そういう葛藤があるなか、写真家の幡野広志さんに出会ったんですね。幡野さんは、私が書いた本の家族写真を撮ってくださった方です。

その方から「奈美ちゃんって、お母さんから『障がいのある弟の面倒を見なさい』とか『障がいのある弟がいるんだから我慢しなさい』って1度でも言われたことある?」って聞かれたんですね。「ないです」と答えたら、「奈美ちゃんは自分の意志で弟と一緒に生きていくことを選んだから、こんなにも弟のことを好きでいられるんだと思う」って言ってくださったんですよ。

高須:なるほど。

岸田:幡野さんは続けて、「家族って選べるんだよ」という話をしてくださいました。理由を聞いたら、NASAの特別室の話をしてくださったんですね。宇宙飛行士が宇宙に向かう際、家族は特別室でロケットを見守ることができるらしいのですが、そのなかに入ることができるのは宇宙飛行士の親や兄弟ではないんですよ。

高須:えっ!?

岸田:入ることができるのは、自分が選んだ配偶者(パートナー)と2人の子ども、そして子どもの配偶者のみです。NASAにとっての「家族の定義」は、血縁関係ではなくて「自分で選んだ家族」なんですね。

高須:なるほど。

岸田:その話を聞いて、今まで自分が抱えていたモヤモヤがパーッと晴れたんですよ。私は障がいがある家族がいるから頑張っているわけではないんです。優しくて明るくて面白いお母さんと、しゃべることができないけれど、独自の面白い視点を持っていて、まわりから愛されている弟がただただ魅力的なんですよ。その2人が私にとってたまたま家族だったんです。

高須:(そう思えるようになったのは)すごいねえ。

岸田:そういうふうに思えたら、家族の好きなことを堂々と書けるようになったんです。こんなに素敵な家族を選んだ自分が誇らしいから「私の話を聞いてください」と言えるようになりました。

<番組概要>
番組名:空想メディア
放送日時:毎週日曜 25:00~25:29
パーソナリティ:高須光聖
番組公式Facebook:https://www.facebook.com/QUUSOOMEDIA/