中部大学 応用生物学部 応用生物化学科の大西素子教授を中心とする研究チームは、ぶどう糖をはじめとする糖化製品メーカーのサンエイ糖化と共同で、糖と酸の両方の性質を持つ難消化性オリゴ糖「マルトビオン酸」に、骨中のコラーゲン成分の流出を抑え、骨成分の維持に役立つことをヒト臨床試験で明らかにしたと発表した。

また、併せてマルトビオン酸は難消化性オリゴ糖であることから、同臨床試験において便通改善効果や胃腸の調子を整える機能も有することが確認され、「骨の成分の維持に役立つ」「お通じを改善する」などの機能性表示食品の関与成分としてマルトビオン酸が消費者庁に受理されたことも併せて発表した。

日本における骨粗しょう症患者は、1,300万人と推計され、骨粗しょう症の予防には、成長期における最大骨量の確保と、骨量がピークを迎える20代以降の維持が重要であり、必須栄養素であるカルシウムの適切な摂取が重要だとされている。

このカルシウムの貯蔵庫である骨は、骨芽細胞(骨を作る細胞)による骨形成と、破骨細胞(骨を壊す細胞)による骨吸収を繰り返すことで、1年間に20~30%の骨が入れ替わっている。これを骨代謝といい、特に閉経後の女性は、女性ホルモンの分泌が低下することにより骨代謝のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ることで骨密度は急激に低下し、骨粗しょう症のリスクが高まることが知られている。

  • 骨密度と年齢の関係を表した図

    女性の骨密度変化(出典:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版) (出所:中部大学)

研究チームは、以前から古来より食経験のあるハチミツに含有する成分である「マルトビオン酸」に注目し、骨の健康維持機能に関する効果について評価を行ってきた。今回の評価試験では、マウス大腿骨から採取した骨髄細胞を用いた細胞試験において、マルトビオン酸を細胞に添加することで破骨細胞の分化を抑制することを確認したほか、卵巣を切除した閉経モデルマウスにマルトビオン酸を含む飼料を与え80日間飼育する動物試験を行ったところ、マルトビオン酸を含まない飼料を摂取したマウスと比較して、大腿骨中のカルシウムや骨密度の減少が有意に抑えられることが確認されたという。

さらに研究チームでは、ヒトに対する効果を検証するために、40~60代の中部大学女性職員を対象に、マルトビオン酸を含む顆粒を1日4g、4週間摂取するヒト臨床試験を実施。その結果、マルトビオン酸の摂取前と比べて、閉経後1年以上経過していると自覚する33人では、骨吸収の指標になる骨由来のコラーゲン成分(DPD,u-NTx)の尿中への排泄量が有意に減少し、マルトビオン酸を継続摂取することで骨成分の流出を抑えることが明らかとなったという。

  • 骨代謝のしくみとマルトビオン酸の骨代謝改善効果を表した図

    骨代謝のしくみとマルトビオン酸の骨代謝改善効果を表した図(出所:中部大学)

同研究で得られた成果により、機能性表示食品の関与成分としてマルトビオン酸が消費者庁に受理されたことから、今後、健康食品や一般食品への利用が拡大することが期待されると研究チームでは説明している。

なお、マルトビオン酸が骨に及ぼす効果の研究は、中部大学 応用生物学部 応用生物化学科の大西素子 教授、同 川合潤也氏、中部大学 大学院 応用生物学研究科 応用生物学専攻の西尾彩花氏、サンエイ糖化の末廣大樹氏、同 深見健氏らによる研究チームによる成果で、食品科学専門誌「フードサイエンス・アンド・ニュートリション」に掲載された。

また、マルトビオン酸の便通改善効果や胃腸の調子を整える機能については、大西教授、末廣氏、深見氏らによる成果として日本応用糖質科学会の英文誌「ジャーナル・オブ・アプライド・グリコサイエンス」に掲載された。

研究チームはこのほか、マルトビオン酸のミネラル吸収促進効果や骨密度改善効果を有することを動物実験にて見出しており、ヒトに対する効果についても現在調査を進めているとしている。