米議会襲撃、白人至上主義者がヴァイキングと北欧神話に傾倒する理由

ドナルド・トランプ大統領支持者らが米連邦議会議事堂に乱入した事件をめぐり、上半身裸でバッファローの帽子を被った男を含む3人が逮捕・訴追された。「Qアノン」の「シャーマン」を自称するジェイク・アンジェリことジェイコブ・アンソニー・チャンズリー容疑者は、暴力的な不法侵入や治安を乱した容疑がもたれている。

チャンズリー容疑者は上半身裸で、顔をペイントし、バッファローを思わせる角のついた帽子をかぶっている。さながらParty City(アメリカ最大のパーティーグッズストア)のヴァイキングの衣装を着た人種差別主義者が、道を間違えてバーニングマン・フェスティバルに迷い込んだかのようだ。度々写真に撮られる彼の身体は、長らく白人至上主義者たちが好んだシンボルで覆いつくされている。

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腹部にはマイティ・ソーのハンマー「ムジョルニア」、乳首の周りには生命の樹「ユグドラシル」、心臓のすぐ上には、古代スカンジナビアのルーン文明のシンボルで、やがて憎悪の証として白人至上主義者の間で使われるようになった「ヴァルクヌート」。ちなみにムジョルニアは、ヒーザニズム(しばしば白人至上主義から派生した異端派をさす)を自称する人々にとっては、アイデンティティのシンボルでもある。

ユグドラシルやムジョルニアは、ネオペイガン(自然崇拝など、従来の宗教に囚われない多神教を信奉する集団)や古代北欧神話のファンにも人気なことからわかるように、その存在自体は必ずしも注意を喚起するものではない。だがヴァルクヌートとなると話は別だ。このマークの本来の意味については議論もなされ、絡み合う3つの三角形はヴァイキング時代の様々な遺物にも施されている。ヴァルクヌートという名前は、古代スカンジアビア語の「ヴァル」――殺戮の意味――と、結び目を示す「クヌート」を組み合わせた造語だ。

一部ヨーロッパ企業のロゴにも使われているが、ヒーザニズムを支持する人々は、オーディンに選ばれし戦士の仲間入りを果たす準備ができた――すなわち、大義のために戦士として死ぬ覚悟ができたことを示すシンボルとして使っている。Qアノンのように誹謗中傷的な陰謀論を標榜する保守派活動家がこのシンボルのタトゥーを入れた場合、必ずしも白人至上主義者であることを意味するわけではない。むしろ、歴史的背景には陰謀論的な世界観があり、信奉者は少なからず認識しているはずだ。


ネオペイガンのシンボルは、ヴァイキングの超男性的な美意識を表現している

当然ながら、実際のペイガンたちは、白人至上主義者が自分たちの宗教的・文化的シンボルを乗っ取り、憎悪のシンボル捻じ曲げるようすに恐れおののいている。『Culture Warlords(原題)』という新著でこのテーマを掘り下げたタラ・ラヴィン氏によれば、ネオナチのヴァイキング嗜好も、元をたどれば伝統的なヨーロッパの男性像と白人像に対する執着心にゆきつくという。「ネオペイガンのシンボルは、ヴァイキングの超男性的な美意識を表現しています」と、彼女はメールで説明してくれた。「ですが同時に、白人至上主義者のイデオロギーを、いわゆる時代を超えた神話に根付かせたいという願望も見て取れます。時代錯誤な、歴史的裏付けのない”完璧な”白人像に立ち戻りたいという願望です。そうやって自分たちの暴力行為を理想化された過去や、あらゆる形態のナショナリズム、とりわけ白人ナショナリズムと紐づけているのです」

こうした北欧神話のマークは過去にも恐ろしい人々に借用されてきた。有名なところでは、初期のナチスが北欧神話やゲルマン人のルーン文字を多用していたし(稲妻の形をした「SS」はとくに有名)、北欧抵抗運動、オ-ディンの戦士たち、国家社会主義運動といったネオナチグループも、ルーン文字オーザルをロゴに採用している。アーリアン・ブラザーフッド(刑務所内を本拠とするギャング)のメンバーは、鉤十字やケルト十字と並んでルーン文字やヴァイキングのシンボルを好んでタトゥーしている。オディニズム、またはワタニズムと呼ばれるいかにも白人至上主義的なネオペイガンの一派は、アサトル・フォーク・アセンブリーによって広く知られるようになり(創始者のスティーヴン・マクナレン氏は、死者を出したシャーロッツヴィルの極右連合集会にも参加していた)、なおも拡散を続け、各種ファシスト思想の集団と交配を重ねている(悪名高き白人至上主義者で、殺人犯のデヴィッド・レイン氏もファンの1人)。

ネオナチ系ブラックメタルシーンにはルーン文字があふれかえっている(私が最初にヴァルクヌートを知ったのも、ネオナチ系ブラックメタルバンドWalknutに出くわしたのがきっかけだった)。鉤十字にしても同じことが言える。古代宗教的なシンボルが、ナチスによって暴力的な意味合いを帯び、永遠に汚されてしまった。「鉤十字復古」運動なるものも存在している。自分たちの聖なるシンボルが盗まれ、ゆがめられてしまうのを目の当たりにする純粋無垢な人々には申し訳ないが、もはや手がつけられない状態になってしまったケースもある。


白人至上主義のイデオロギーとは無関係の者も大勢いる

だが同時にこれは、厄介な問題にもなりうる。ペイガンやメタルミュージシャンの中には、白人至上主義のイデオロギーとは(いかにも反ファシスト的な類のイデオロギーとも)無関係の者が大勢いるからだ。ヴォーカルがノルウェー人で、北欧神話を題材にした曲で死や終末論を謳う90年代の非ファシストバンドThorrs Hammerがいる一方、ポーランドには悪質な人種差別的ネオナチ系ブラックメタルバンドで、国際的なナチ系ブラックメタルシーンとも深い関係にあるThors Hammerが存在する。こうしたことからも明らかだ。サブカルチャーの狭い世界の外では、北欧神話のシンボルやルーン文字のタトゥーを入れている全員が必ずしもの政治的、文化的背景を理解しているわけではない。マーベルがソーとハンマーの伝説をメインストリーム化した今となってはなおさらだ。Heathens Against HateやHeathens United Against Racismといった集団が反人種差別的な選択肢を提供するなど、これらシンボルやネオヒーザニズムを白人至上主義者から奪還しようという動きも高まっている。

チャンズリー容疑者がそこまであからさまに反ユダヤ的極右過激派的な政治思想と関わっていなかったなら、彼のタトゥーも大した意味はなかっただろう。だが実際そうではないがゆえに、彼は絡み合った三角形を胸にある種のメッセージを発信していたとみられる。白人至上主義者から、あいつは自分たちとともに歩む道を選んだと思われるようなメッセージを。

From Rolling Stone US