デジタルカメラをはじめとするオリンパスの映像事業はオリンパス本体から切り離され、今年の1月1日にOMデジタルソリューションズに譲渡されました。OMデジタルソリューションズが販売する一発目の製品となるのが、プロ向けの超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」。2019年1月下旬に開発発表を行ってから約2年の時間をかけて発売にこぎ着けたレンズ、鳥認識AFを追加したフラッグシップ機「OM-D E-M1X」で使うと鳥肌モノの性能でした。

スペックの割に小型軽量、ズームリングの使い勝手も良好

開発発表を聞いた時から気になりまくっていた「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」にやっと出会えた。今日に至るまで、アレコレさまざまな環境&状況の変化を目の当たりにしてきた無責任な傍観者として、ときに「オリンパスのあの白いレンズ、ひょっとしたら出ないまま終わってしまうのではないか」などという無礼千万な思いを抱くことも正直あったのだけど、まずは無事に発売にこぎ着けられたようでメデタシメデタシ。ぶっちゃけ「ヒャ、ヒャクマンエーンっ!?」の値付けにはちょっぴりビックラこきましたが(量販店のポイント込み実勢価格は税込み88万円)。

  • OMデジタルソリューションズ(旧オリンパス)のテレコンバーター内蔵超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」。実売価格は税込み88万円前後。発売日は1月22日だが、「予約が想定よりも多く、予約分の多くは発売日に届けられない可能性が高い」としている。組み合わせているカメラはフラッグシップモデル「E-M1X」で、2020年11月中旬に実売価格が大幅に下がり、税込み19万円前後で買えるようになった

実物を手にしての第一印象は「お、こりゃ思っていたよりも小さいな」だった。開発発表モノとしての扱いでショーケース内に鎮座している姿を過去に何度か拝んできていたわけなのだけど、実際に手にすると、その大きさは、傍目で見るよりもずいぶんコンパクトに感じられる。

重さも、数字(1,875g)よりは軽い感じ。レンズ自体の重量バランスが良いのだろう。一眼レフ生活が長かった過去を引きずりつつ受け止める「800mm(相当)の開放F4.5」というスペックからすると、この「小ささと軽さ」は驚異的だ。額面通りに「400mmのF4.5」と受け取った場合も、またしかり。これぞ「マイクロフォーサーズシステムの強み」を感じる瞬間である。

近傍の第三者に対し、ことさらにデカさを強調する要素があるとすれば、それはカーボン製のレンズフードかもしれない。フードは、軽いがリッパにデカいからだ。でも、おかげで撮影中レンズ前端を支えるために使えたりもする。個人的には、フードをロックするノブに左手の人差し指を絡め、親指をズームリングに添える構え方が一番しっくりきた。こうすれば、安定した構えと撮影中のスムーズなズームリングの操作が両立できる。

  • 落合カメラマン流の構え方。フードに出っ張っている固定用ノブに左手の人差し指を引っかけてカメラを安定させつつ、左手の親指でズームリングを操作するというアクロバチックな方法だ

ちなみに、このズームリングには、指一本を一点に添えたまま端から端まで画角変更ができる“適切に小さな回転角”が与えられている。よって、動体に対峙している時などに一瞬、画角を引いて(広げて)被写体の存在を確認し、改めてテレ端でピントを掴み直す……なんていう実践的な使い方への対応力も非常に高い。私は、もっぱら親指一本で操作。あとほんの少し軽く回せた方がベターであると思ったりもしたのだけど、このままでも使い勝手はすこぶる良好だ。

  • テレ端400mmで撮影した太陽。35mm判換算800mm相当の画角では、この大きさで捉えられる(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO64、1/8000秒、F22.0、-3.7露出補正)

  • 超望遠レンズならではの圧縮効果が手持ちで簡単、かつ確実に得られ、しかも臨機応変な画角調整もできてしまうところに、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの魅力が集約されていると捉えることも十分に可能。唯一の難点は、このレンズを使うためにE-M1Xが欲しくなるという底なしの苦悩を抱えるところか(笑)。E-M1X、前と比べるとすんごく安くなってるし。こりゃ困ったな……(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、1120mm相当、ISO250、1/1250秒、F6.3)

  • 逆光をものともしない描写に思わずニンマリ。細部の緻密な描写再現にも好印象だ。そのうえ、小さく軽くて操作性の構築にも抜け目がないとくりゃ、マイクロフォーサーズのシステムを選択する「意味」に、ここで再び気づかされるのも道理。最近、ニコンZ50に浮気しまくりの私は胸がキュンとしちゃいましたよ。でも、我が愛機E-M1 Mark IIには認識AFがない……(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO200、1/2000秒、F5.0、+0.7露出補正)

  • 人物撮影時にも威力を発揮する認識AFが「C-AF+TR」時のみの動作であるところはちょっと残念。静止している被写体に対してもピントのスキャンを継続することがあるC-AFの動作により、ピント位置が微妙に前後している最中のレリーズになることが多く結果、撮影コマごとに微妙にピントを外す事例が見られるからだ。これは、ピントを拾いにくい状況下では逆に「保険」にもなり得る動作ではあるのだが、ここは撮影者自身の責任において、ゼヒS-AFでの被写体認識もできるようしていただきたいところではある(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO200、1/2000秒、F5.0)

描写は言わずもがな、最短撮影距離の短さに目を見張る

もちろん、描写もカンペキ。どんなジャンルの撮影に使うとしても開放F値で撮ることが多くなるキャラクターのレンズだと思うのだけど、開放で撮ることには何の躊躇もいらない。内蔵のテレコン(1.25×)使用時にもその画質評価はブレず、さらには別立てで1.4倍や2倍の純正テレコンを使っても(内蔵テレコンとMC-14やMC-20との二丁がけで撮っても)画質的に実用性が大きくスポイルされることはない。

というワケで、テレ端では、そのままで開放F4.5の800mm相当、内蔵テレコンの使用で1000mmF5.6相当、内蔵テレコン+MC-14で1400mmF8相当、内蔵テレコン+MC-20で2000mmF11相当の画角(いずれも35mm判換算)が得られることになる。内蔵テレコンは、ファインダーをのぞきながらなんとか右手の指一本で「入/切」が切り替えられるし、好みに応じ切り替えレバーを反対側に移設するカスタマイズも可能だ(有料)。ただ、1.25倍ゆえ画角的には驚くほどの違いは出ない。400mmが500mmになる……つまり、800mm相当の画角が1000mm相当の画角になるということで、その変化が大きいか小さいかは撮影者自身がその都度、判断することになるだろう。とはいえ、そこで得られる“余裕”は高く評価すべき。トリミング耐性をフォローするという意味における存在意義は明らかなのだ。

  • 150mm(300mm相当)

  • 400mm(800mm相当)

  • 500mm(1000mm相当)

  • レンズのみで得られる画角の違い。150mmと400mm(各々35mm判換算300mm相当と800mm相当)の差はとてつもなく大きいのに対し、内蔵テレコンを使う、使わないの差はこのぐらい。もっと被写体に接近している状態であれば、内蔵テレコンの有無による印象差はもっと大きくなるので、効果のほどは使い方次第といったところか。画質的にはまったく問題なし

一方、MC-14もしくはMC-20との併用は、「遠くのモノをより大きく写す」ことより「驚異の最短撮影距離1.3mの実力に華を添える(撮影倍率をさらに高める)」ための手段であると捉えた方がインパクトは大きいようにも感じている。通常時0.57倍が確保されている最大撮影倍率は、内蔵テレコン使用時には0.71倍となり、さらに内蔵テレコン+MC-14では1.01倍、内蔵テレコン+MC-20で1.43倍の等倍超えとなるからだ(いずれも35mm判換算)。この“寄りの実力”はハンパない。深度合成機能(複数枚の画像を合成し見かけ上の被写界深度を広げる機能)との併用も可能なので、今まで撮れなかったものが撮れるようになる可能性は極めて高い。これは、コトによると、このレンズをテレマクロ撮影専用として導入するという離れワザもアリ? 

  • 400mm(800mm相当)

  • 500mm(1000mm相当)

  • 560mm(1120mm相当)

  • 700mm(1400mm相当)

  • こちらは、素の400mmと内蔵テレコンを入れての500mm、400mm+MC-14の560mmと内蔵テレコン+MC-14の700mm(1400mm相当)の比較。大気の揺らぎの影響を受け細部の描写を比較しにくい状況も、MC-14使用時に若干のコントラスト低下を認めつつも解像力そのものにはネガティブな印象を抱かずに済むことがわかる。なお、ここは個人所有のMC-14を使用ということで、所有していないMC-20での比較はやっておりませんので悪しからず

  • 最短撮影距離は全域で1.3mという驚異の“寄り”が可能なレンズでもある。この作例は、テレ端でも最短でもない絵柄重視の撮影距離&画角設定で撮ったものなのだけど、ピント位置の解像描写力や素直なボケ味など、本レンズの実力の一端は感じていただけるハズ。まさしく“遠近両用”で使い倒せる素晴らしいレンズだ(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、500mm相当、ISO2000、1/2000秒、F4.5、-1.7露出補正)

で、今回はOM-D E-M1Xと組み合わせて試用したのだけど、正直ヤバかったっスね、このコンビ。もちろん良い方に。E-M1Xは、先ごろのファームアップでAFの被写体認識に「鳥認識」を新設しているのだけど、これの使い心地が想像以上に良かったことに加え、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROが示す実力のベクトルがE-M1Xのキャラクターにまさしくドンピシャだったからだ。正直、私の中におけるE-M1Xの評価は、その「大きさ」をネックにさほど高くはなかった。でも今回、思いはグルリと反転。底値を打っていそうな今こそがE-M1Xの買い時なのではないかなどと、にわかに落ち着きを失いつつあるコロナ禍の年明けだったりするのである。お、落ち着けーっ、自分~っっ!

  • E-M1Xは、被写体認識AFに新たに鳥認識を実装。こんな状況でもピントを合わせるべき被写体を難なく認識するなど、その認識率と実用性は相当に高い(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO200、1/2000秒、F5.0)

  • 肉眼では惑わされそう迷彩柄も、E-M1Xの鳥認識AFの前ではナンの役にも立ちません。こんなにヤヤコシイ風景の中でもイッパツでピントを合わせてくれるのだからお見事(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO2500、1/500秒、F4.5、-1露出補正)

  • E-M1Xの最新ファームで新搭載となった鳥認識AFは、全体のフォルムのみならず、ある程度寄っていれば瞳や頭部を認識。このような微妙な状態では、瞳を認識したり頭部認識になったりと認識枠がせわしなく拡大、縮小を継続するが、いずれにせよ従前のクルマや飛行機、電車に対する認識AFよりも「被写体を認識してくれることのありがたみ」は数段、明確。測距点自動選択AFでは代えが効かないからだ(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO+MC-14、1400mm相当、ISO800、1/2000秒、F8.0)

  • 肉眼では被写体の状況を確認しにくいこんな明暗差のある状況下においても被写体認識AFはしっかり機能。人間やEVFの能力を超えた部分でちゃんとピントを拾ってくれるという事実は、一度味わえばその効能がズバッと身にしみる(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO1000、1/2000秒、F4.5、-0.7露出補正)

  • ただし、各社各モデルの被写体認識AFに等しくありがちな「被写体を認識する人とピントを合わせる人が別」とでもいうべき挙動はE-M1Xにも普通に見られる。つまり、ご覧のような状況では「被写体をしっかり認識しているのにピントが合うのは別の場所」ということが普通にあり得るのだ。これは、次世代の認識AFで解決してもらいたい要素のひとつ。進化に期待したい(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、800mm相当、ISO640、1/2000秒、F4.5、-0.7露出補正)

  • 認識すべき被写体が複数存在する場合は、同時に複数の認識枠が出る。鳥認識に関し同時に被写体を認識できる数は不明も、従前のインテリジェント被写体認識AFの機能をそのまま引き継いでいるのだとすれば、同時認識数は最大で8(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、426mm相当、ISO200、1/1250秒、F8.0)

  • E-M1Xと150-400mmのコンビでは、動体の追い写しがすごくやりやすかったのが印象的。カメラを微妙に動かした時の手ぶれ補正機能との協調に関し、カメラの振り始めに引っかかりを感じさせず、その後も正確に被写体をフレームインさせ続けられる点において、キヤノンEOS R5/R6をも凌駕する実に好ましき手応えが得られている(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、756mm相当、ISO3200、1/800秒、F4.5、-1.7露出補正)

  • 1000mm相当での手持ち撮影。内蔵テレコンのアリ、ナシ入れ替えは、ファインダーを覗いたままでもギリギリ指一本で操作できた(もう少し手が大きいと、もう少し楽に操作できるはず)。また、内蔵テレコン使用時の画質低下は、理論上はともかく実質的には皆無といって差し支えない。必要を感じた時には迷うことなく使えると思っていい(E-M1X+M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、1000mm相当、ISO2500、1/2000秒、F5.6、-0.7露出補正)

  • M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROと鳥認識AFに対応したE-M1Xの組み合わせにより、マイクロフォーサーズシステムならではの魅力を改めて体感した落合カメラマン。E-M1Xは、実売価格が一気に10万円以上下がって10万円台で買えるようになったこともあり、衝動買い間違いなし!?