『ゲゲゲ忌2020』に見た、そのユニークな魅力と可能性~前編~

『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『河童の三平』『総員玉砕せよ‼』など数々の名作で知られ、2015年にこの世を去った漫画家の水木しげるさん。東京都調布市では、その命日である11月30日を『ゲゲゲ忌』と名付けるとともに、生前の功績を称えるさまざまな催しを毎年11月下旬に開催してきた。

5回目となる今年は、新型コロナウイルス蔓延という予期せぬ事態に直面することとなった。だが、感染予防に最大限留意しつつも、結果的には11月21日(土)~11月30日(月)という、例年と変わらぬ10日間にわたって実施され、常連参加者である筆者としてもホッと胸をなで下ろす気持ちだった。

以下、今回の『ゲゲゲ忌2020』の内容を中心に、本イベントの魅力をご紹介するとともに、5回目を迎えたことで、『ゲゲゲ忌』が新たな可能性とユニークな特色を持ち始めている点についても触れてみたいと思う。
(取材・文・写真:原口正宏/リスト制作委員会)
▲『ゲゲゲの鬼太郎』第5期のレギュラーキャラだった妖怪アマビエが私たちに見せているのは、水木しげるさんが描いた「妖怪画」のアマビエ。江戸時代に肥後の国に現れたアマビエは、諸国の豊作と同時に疾病の流行も予言した。その際に「私の姿を写し、人々に見せよ」と言って海に帰ったとされる。『ゲゲゲ忌2020』のメインビジュアルは、その伝承にあやかった構図になっているのだ

■スタンプラリーでリアル「水木ワールド」を体験
『ゲゲゲ忌』の催しの大きなコンセプトの一つとして、「水木しげるさんゆかりの地を巡るイベント」という側面がある。調布市は、水木さんが1959年に住居を構えて以来、56年もの歳月(つまり生涯の半分以上)を過ごした第二の故郷ともいえる地である。2008年には調布市の名誉市民に選ばれている。当然、生活と執筆にまつわる数々の思い出や創作のヒント、舞台のモデルとなった場所、水木マンガゆかりのスポットが多く存在する。

例えば、『ゲゲゲの鬼太郎』の原作で猫娘の棲み家として言及されている神社は下石原八幡神社、鬼太郎が住んでいるのは布多天神社の裏の所有者不明の土地……といった具合だ。また、調布駅近くの天神通りには鬼太郎やねずみ男などのオブジェが設置されているし、市内を走るミニバスの車体には鬼太郎と仲間たちの絵が描かれている。深大寺門前には水木マンガにちなんだ甘味メニューが楽しめる「鬼太郎茶屋」もある。さらに、覚證寺を訪れれば、可愛らしい石造りの鬼太郎とねずみ男がデザインされた、水木さんのお墓にお参りすることも出来る。つまり、調布の至る所にリアルな「水木ワールド」が潜んでいるというわけだ。しかも、最新作のアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期では、犬山まなが暮らす舞台が調布市と設定されており、相乗効果として「聖地巡礼」の意味合いも加わったことになる。
▲下石原八幡神社の境内にて。原作『ゲゲゲの鬼太郎』で、猫娘が棲んでいたとされる神社のモデル。

▲布多天神社の本堂裏に回ると、妖怪ポストが立っている。

初回以来、毎年実施されてきた「スタンプラリー」は、そんな水木マンガゆかりのスポットや、このイベントに協賛している店舗や施設を巡りながら、お馴染みのキャラクターをあしらったスタンプを指定の用紙に集めていく趣向。まさに、調布市ならではの地の利を生かした催しなのである。

(C)水木プロ (C)水木プロ・東映アニメーション


今回、候補となった全12箇所のスポットと、そこで押せたスタンプの絵柄は以下の通り。
1)調布市文化会館たづくり 1F ゲゲゲギャラリー/傘化け 
2)調布パルコ 1F 正面入口特設会場/悪魔くん
3)真光書店/子泣きじじい
4)調布駅北第一自転車駐車場&妖怪ポスト/一反もめん
5)天神通りオブジェ(お茶の菊川園)/ぬりかべ
6)布多天神社/砂かけばばあ
7)鬼太郎ひろば/目玉おやじ 
8)ベーカリーカフェ ふぁんふぁーれ/ねずみ男
9)下石原八幡神社/ねこ娘
10)覚證寺/水木しげる
11)農産物直売所 調布のやさい畑(深大にぎわいの里内/タヌキ
12)鬼太郎茶屋/ゲゲゲの鬼太郎
▲覚證寺にて。水木しげるさんのお墓があり、お参りすることができる。

スタンプ7個で、鬼太郎と目玉おやじのスタンプを押してもらえ、参加賞としてゲゲゲ忌2020年版ポストカードをもらえた。スタンプ12個をコンプリートすると、達成賞として鬼太郎ファミリーのスタンプを押してもらえ、ゲゲゲ忌2020のメインビジュアルが描かれた2021ゲゲゲのカレンダーと調布市が発行する、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の鬼太郎たちキャラクターの特別住民票をもらうことが出来た。
▲スタンプラリーの台紙。筆者が実際にスポットを巡りながら押したもの。
 
▲スタンプ7個を集めると参加賞としてもらえたゲゲゲ忌2020年版ポストカード。 

会期中、調布市文化会館たづくり1階にある「ゲゲゲギャラリー」には献花台が設置され、連日多くのファンが水木さんを偲ぶ気持ちとともに、色とりどりの花や手紙を供えていた。また、布多天神社の社務所で限定特別御朱印をいただけることも魅力だった。例年は鬼太郎とねこ娘の2種類のみだが、今年はコロナ禍鎮静への願いを込めたものであろう、アマビエ、クタベも加わって4種類となっていた。

▲下石原八幡神社と布多天神社でスタンプを押すと、限定特別御朱印をいただくことが出来た。鬼太郎、ねこ娘に加え、今年は疾病退散の願いを込めてかアマビエとクタベも追加されていた。

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■シアタス調布で行われる歴代『ゲゲゲの鬼太郎』アニメ上映会
アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の放映がスタートした2018年から東映アニメーションが企画に協力するようになり、本イベントにアニメ上映&トークという新たな魅力が加わった。前年の2017年にも、オープン直後のイオンシネマ シアタス調布で、無料上映という形で「京極夏彦氏が選ぶ! 水木しげる作品 アニメ上映会」が開催されたことはあったが、2018年は、映画館本来のプログラムとして、格段にバージョンアップが行われた。すなわち、1~6期すべてのアニメからエピソードを4話ずつ厳選、連日夕方の回に上映会が実施されるというスタイルになったのである。各期ごとに上映日が分かれているのもユニークで、上映の合間には、その期にちなんだゲストを招いてトークショーも行われるなど豪華な内容になっている。

今年は、上映&トークが行われる日数は過去2年間よりも抑えられ(土日と祝日、千秋楽の計6日)、ゲストの生出演も別会場からのライブビューイングとなったが、映画館に来られない遠隔地のファンにとっては「生配信」という形で自宅や離れた場所からでもリアタイ視聴出来るという幸いな面もあった。また、当日から1週間はアーカイブ配信を購入でき、これによって期間内なら何度でも観賞することが可能となった。
▲シアタス調布で連日行われたアニメ上映会。今回は『ゲゲゲの鬼太郎』第4~6期と『悪魔くん』からの名作エピソードをセレクト。

■「ゲゲゲ忌2020」ゲスト陣のパワーアップとあふれる水木愛
実際、今年のトークはゲストの顔ぶれや内容に、ひと工夫もふた工夫も凝らされたものが多かった。上映エピソードもよく吟味されており、登壇者の思い入れの深い回が的確に選ばれているように感じた。
以下、トークショーにおける各ゲストのお名前と概要を紹介する。

まず、11月21日(土)の夜は『悪魔くん』のスペシャルデー。ゲストは昨年同様、悪魔くん役の三田ゆう子さん、メフィスト2世役の古川登志夫さん、シリーズディレクターの佐藤順一さん、選曲の佐藤恭野さんが揃った。リモート収録ならではの工夫として、ゲストの背後にあるグリーンバックに、同作の主人公・埋れ木真吾の部屋の美術ボードが合成されているのが粋な演出だった。佐藤恭野さんが自ら用意してきたオカリナで、ソロモンの笛のメロディーを演奏するくだりなど、ライブならではのハラハラ感も楽しかった。

昨年は『悪魔くん』TVアニメ化30周年という名目があったが、今年も実施されたのは、東映アニメーション側のスタッフにとっても、昨年の同プログラムの反響が想像以上だった(会場でのオープニング大合唱や古川さん演じるメフィスト2世のセリフ「魔力『絶対水木さんを忘れない!』」がファンの心をとらえた)ことが、今回の企画につながったのだという。

続いて11月22日(日)の夜に行われた『ゲゲゲの鬼太郎』第4期スペシャルデー。ゲストはねこ娘役の西村ちなみさん、プロデューサーの清水慎治さん、シリーズディレクターの西尾大介さんに加え、初参加となるねずみ男役の千葉繁さん。2年ぶりの登壇となった清水さんは、憂歌団や京極夏彦さんを作品に起用した当時の思い出を次々と披露。千葉さんは、「演じる」という意識をほとんどもたずにねずみ男という役に入り込めた、とその愛着を語った。西村さんは、今年は千葉さんという「相方」がいるお陰で、ねこ娘×ねずみ男の掛け合い芝居にも熱が入り、千葉さんも期待通りのアドリブ連発となって、会場は大いに盛り上がった。

11月23日(月)の夜は『ゲゲゲの鬼太郎』第5期スペシャルデー。ゲストは鬼太郎役の高山みなみさん、ねずみ男役の高木渉さん、ねこ娘役の今野宏美さん、プロデューサーの櫻田博之さん、シリーズ構成の三条陸さんといった昨年のメンバーに加え、「2020年の顔と言ったらこの妖怪でしょ!」と誰もが思っていたであろう、アマビエ役の池澤春菜さんが登壇。今から13年前、『ゲゲゲの鬼太郎』の世界に、いやアニメの世界に初めてアマビエをレギュラー入りさせた第5期スタッフ(特に三条陸さん)の先見の明や恐るべしと言ったところか。今年の「ゲゲゲ忌2020」のポスターは、5期『鬼太郎』で作画監督や原画を務めた市川慶一さんが手がけたが、声優4名が参加した掛け合い芝居では、そのポスタービジュアルが完成するまでのメタフィクションストーリーが演じられた(人間界で話題になっているアマビエの写真を撮り、一儲けしようと企むねずみ男。だが、一足早く調布市の人間がアマビエに声を掛け、「ゲゲゲ忌」のポスターのモデルになってくれるよう依頼していた。ねこ娘はカメラマンを務め、アマビエは鬼太郎にも一緒に映ってくれるよう頼むといった内容)。

(C)水木プロ (C)水木プロ・東映アニメーション