未曾有の年となった2020年だったが、取材の現場には覚悟をもって競技に取り組むパラアスリートの姿があった。今だからこそ伝えたい、パラアスリートの魅力とは。取材したライターが印象に残った言葉とともにピックアップした。

コロナ禍でも練習三昧! テコンドー・田中光哉

相手に合わせて闘い方を変える、攻撃を誘ってカウンターを合わせる、1月の代表選考会で見せたクレバーな試合の進め方が印象に残っています。9月に行ったインタビューでも「相手が熱くなっているのを見ると、よしよしと思うことが多い。性格あんまり良くないんですよね」と、飄々と語ってくれて、格闘競技の選手にありがちな”気合い”や”根性”のようなイメージとはかけ離れています。
その一方で、コロナによる自粛期間は毎日道場に足を運び「たぶん、誰よりも練習していたと思います」と語るように、競技に真摯に取り組む姿勢も持ち合わせています。クレバーな戦術も積み重ねてきた基礎の上に成り立っているものなのだと感じさせてくれました。と、言いながらも最後に「本当に嫌でしたけどね」と苦笑いしながら付け加えていたのが、田中選手らしいところ。こういう選手の活躍は、パラスポーツの世界に新しい風を吹き込んでくれそうです。(増谷茂樹)

自粛中は支援者を募る時間に 馬術・稲葉将

「こんなにお金がかかるって知ってたら、馬術は始められなかったかも」。稲葉選手は、冗談交じりにこんなことを口にしていました。
事実、馬術には潤沢な資金が必要です。たとえば、「ムチはだいたい1万円。靴はオーダーだと10万円」。いい結果を得たければ、より能力が高い馬も必要です。しかし当然、そんな馬は高い! 稲葉選手の愛馬・カサノバも「ローンを組んで買い求めた」大一番に臨むための馬です。だから稲葉選手は、東京パラリンピックでメダルを獲りたい理由を「パラ馬術を多くの人に知ってもらえるから」と語ります。認知が高まれば、資金的にも競技は続けやすくなるはずです。
そんな馬術のシビアな背景があるから、コロナ自粛中、稲葉選手は練習できない時間をZoomで多くの人に会う時間に当て、支援企業を5社も増やしました。おっとりとした外見からは想像できない、セルフプロデュース力の高さや情熱。それも稲葉選手の力なのでしょう。(鈴木快美)

魅力的な言葉で発信! 水泳・木村敬一

インタビューで聞いた「多分、選手になる前にメダリストになっちゃったんですよ」という一言は、衝撃的でした。木村選手は当時、すでに銀メダリスト。詳細は記事を読んでいただければと思いますが、健常の強豪選手と同じ練習メニューで、基礎体力の違いにショックを受けたときの感覚として話してくれた言葉です。
タイムで勝てなくても、努力で負けてはいけない。そうでなければパラリンピックはオリンピックと肩を並べられないという感覚は、大会で何位になるかという視点を大きく飛び越える物差しだと思いますし、こういう選手がパラスポーツの価値を引き上げるのだろうと感じました。
木村選手は海外修行の思い出を個人のnoteに綴っていますが、これを読んでも物の見方、感じ方、それを楽しむ価値観が本当に魅力的。発信力もあるので、金メダルを獲得することで木村選手の魅力がより伝わることを期待しています。(平野貴也)

再開した大会で自己ベスト更新 陸上競技・中西麻耶

9月5日のパラ陸上日本選手権は、中止や延期を余儀なくされていた日本選手権レベルのパラスポーツ大会再開の場。選手たちの躍動する姿や笑顔を見て取材するこちらもうれしくなったもの。そんななかでも大きなインパクトを残したのが女子走り幅跳びに出場した中西麻耶選手のアジア記録更新です。
コロナ禍で練習拠点の競技場が閉鎖しても、決して練習のレベルを落とさず、河川敷や公園で練習を工夫し、あくまでも延期前のパラリンピック日程にピークを合わせてきたんだとか。住居も実家のある大分から大阪に移し、少し寂しいときもあるようですが、今では新たな環境にしっかりなじみ、家を空けるときには近所の方に愛犬を預かってもらったり、おすそ分けをもらったりといった交流があり「すごく楽しい」そう。変化の中でもたくましく生きる、パラアスリートの力強さを感じました!(瀬長あすか)

来る2021年も、より発信力を高めるパラアスリートたちに注目していきたい。

edited by TEAM A

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