ここ数年、サブスクリプションサービスの普及によって、世界中の映画やドラマをより手軽に鑑賞できるようになりました。落ち込んでいる時でも元気になれるもの、人生のバイブルになるもの、涙が止まらなくなるものなど、さまざまな題材やジャンルがありますが、今回は人生に気づきを与えてくれる、目から鱗が落ちるようなセリフやシーンの詰まった作品をご紹介。家で過ごす時間が増えた今こそ、世界の映画やドラマから素敵な視点を学んでみてはいかがでしょうか。

『エール!』
家族と夢のあいだで揺れ動く少女の成長を描いたフランス映画

最初に紹介するのは、2014年にフランスで大ヒットを記録した感動作『エール!』。

フランスの片田舎で暮らすベリエ家は、「家族はひとつ」を合言葉に、牛の世話から自家製チーズの販売までを家族総出で行う仲良し家族。ただ、高校生の長女ポーラ以外は家族全員耳が聴こえないため、村の人々や仕事相手とのやりとりはすべてポーラが担当しています。そんなポーラは飛び抜けた歌唱力の持ち主なのですが、彼女の歌声を聞くことのできない家族は知る由もなく……。音楽教師にパリの音楽学校のオーディションを受けるよう勧められたことを知ると両親は大反対。ポーラが都会へ行ってしまったら村人とコミュニケーションを取ることができなくなってしまうと主張する母に、ポーラはこんなことを言います。

「私は一生チーズを売る運命なのね。耳が聴こえるから!」

家族の愛をテーマに、家族に障がいがあるというだけで夢や選択肢が奪われてしまうのかを問いかける本作品。ベリエ家の出した答えとは? 作中には、聴覚障がいを疑似体験できるシーンや思わず涙してしまうシーンも……。と言ってもまったく重くなく、ポーラの美しい歌声と、毒舌のお父さんやおちゃめなお母さん、おませな弟によるエスプリの効いた笑いが満載なので、気軽な気持ちで楽しめるはず。

『ワンダー 君は太陽』
世界で800万部を突破した人気小説を映画化

トリーチャーコリンズ症候群という遺伝子疾患のため、人とは違う顔で生まれてきたオギーを天才子役のジェイコブ・トレンブレイが演じ、世界各国の観客を泣かせた映画『ワンダー 君は太陽』。オギーの明るくてやさしい両親をハリウッドの大スター、オーウェン・ウィルソンとジュリア・ロバーツが演じています。

幼い頃から何度も手術を繰り返してきたため、9歳まで自宅学習を続けてきたオギー。家族のあたたかい励ましを受けて学校に通いはじめるものの、案の定、顔をからかわれてしまいます。見兼ねた校長がいじめっ子とその両親を呼び出すと「うちの子は悪くない」、「あんな顔の子が同じクラスにいることのほうがおかしい」と開き直る親子。校長は諭すように言います。

「オギーは見た目を変えられません。我々の方が見る目を変えなくては」

この作品の魅力は、オギーだけでなく、両親、オギーの姉のヴィア、ヴィアの親友、オギーのクラスメイトたちなど、周囲の人たちの葛藤や成長が描かれていること。それぞれの視線で鑑賞してみるのもおすすめです。

『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子 』
車いすの少年と父の無謀とも言える挑戦に胸が熱くなる

アルプスの麓の美しい街を舞台に親子の成長を描いた映画『グレート デイズ!夢に挑んだ父と子 』。

主人公は、フランスの田舎町で車いす生活を送る17歳のジュリアン。無口な父親ポールは、ジュリアンと正面から向き合おうとしてくれません。ある日、父親が若い頃にトライアスロン選手だったことや、トライアスロンの中でも最も過酷と言われる“アイアンマンレース”に障がいのある息子と挑戦した男性がいることを知ったジュリアンは、「パパとアイアンマンレースに出たい」と父に打ち明けます。しかし、ポールは「無理だ」の一点張り。そんな中、ジュリアンが通う養護学校に呼び出された父親は、クラスメイトたちからこんなことを言われます。

クラスメイト 「この学校では人生の希望を学びます。走る、泳ぐ、自転車。どれも私たちの夢です。ジュリアンと夢を見てください」
ポール    「……それは、リスクが大きい」
クラスメイト 「でもワクワクするの。私たちの夢でもあるんです」

ジュリアンの人生には様々な障がいがありますが、好奇心旺盛で無鉄砲で親にも反抗する、どこにでもいる17歳です。周りを巻き込みながらエネルギーを爆発させるジュリアンの姿は実に爽快! ジュリアンと共に変わっていく両親の姿にも注目してください。

『レイジング・ディオン』
人気俳優マイケル・B・ジョーダンがプロデュースするドラマ

2019年に行われた特別上映会に参加する主要キャストたち。前列中央の2人が、ディオン役のジャサイア・ヤングとエスペランザ役のサミ・ヘイニー
©︎Getty Images Sport

Netflixオリジナルドラマ『レイジング・ディオン』は、事故で父を亡くし、母ニコールと2人で暮らす小学2年生のディオンが、自身のスーパーパワー(超能力)に気づくところからスタートする物語。今回は、ディオンの親友エスペランザに関するエピソードをご紹介します。

新しい小学校に馴染めず孤立していたディオン。唯一、まともに話しかけてくれるクラスメイトは、電動車いすに乗るエスペランザでした。賢くて思いやりのあるエスペランザは、ディオンがスーパーパワーを持っていることに気づいても他言しなかったことから2人はお互いを親友と呼ぶように。しかし、ある時、「エスペランザだって歩きたいはず」と思い込んだディオンは、パワーを使ってエスペランザの体を車いすから引き離し、宙高くに浮かせてしまいます。エスペランザは「そんなこと頼んでない!」と激怒。その理由を理解できないディオンは、能力者仲間の中年女性シャーロットに相談します。シャーロットは、車いすだったら絶対飛びたいはずと思い込んでいたディオンに、エスペランザの気持ちは彼女にしかわからないと諭し、ディオンにこんな質問をしました。

シャーロット「彼女はどうして車いすのなの?いつから?これまで歩いたことはあるの?」
ディオン  「……」
シャーロット「友達なのに今まで一度も聞いたことがないの?」
ディオン  「考えたこともないよ。あれがエスペランザだもん!」
シャーロット「そう!あの子が聞きたい言葉はそれだと思うわ」

ブラック・ライブズ・マター運動にも積極的に参加し、いち早くハリウッドのインクルージョン化を推進した俳優としても知られるマイケル・B・ジョーダンが、出演・製作総指揮を務める本作。何気ないセリフに、障がい者、黒人、LGBTq、シングルマザーたちの本音が詰まっています。小学生から鑑賞できるので、お子さんと一緒に楽しむのもおすすめです。

『最強のふたり』
車いすの富豪とごろつきの介護人の笑って泣ける友情物語

アメリカをはじめ、インドやアルゼンチンでもリメイクされた人気のフランス映画『最強のふたり』。実在する四肢麻痺の実業家と元介護人のドキュメンタリー番組が監督の目に留まり、映画化された真実の物語。

パリの大きな屋敷で暮らす富豪のフィリップ。頸椎損傷で首から下を動かせず、24時間の介助が必要ですが、気難しい性格ゆえにどの介護人も1ヶ月足らずで辞めてしまいます。そんなとき、住み込みの介護人に応募してきたのは、スラム出身で何の資格も持たない黒人青年ドリス。無礼で雑な言動ばかりのドリスに困惑するフィリップでしたが、次第に心を許し、友情を育んでいきます。
ある日、フィリップは友人に呼び出され、ドリスが前科者だと知ります。さらに友人は用心するよう忠告しますが、フィリップはまったく気にしない様子。

「容赦ないところがいいんだよ。あいつ、私の状態を忘れて、うっかり電話を差し出すんだ。彼は私に同情してない」

過去や身分に惑わされないフィリップとドリスに清々しさすら感じる本作。障がいや貧困などのテーマを含みながらも、前向きな気持ちになれる作品です。ちなみに、フィリップを演じたのは、モデルとなったポゾ・ディ・ボルゴ氏の知人で世界的セレブとも交流のある大御所俳優、フランソワ・クリュゼ。一方のドリスを演じたのは、スラム出身の俳優兼コメディアン、オマール・シー。異なる背景を持つ2人の名優が、フィリップとドリスの関係性をよりリアルに表現しています。

『奇跡の人』
ヘレン・ケラーを題材にした不朽の名作

視覚と聴覚の重複障がいのある少女ヘレン・ケラーが家庭教師のアニー・サリヴァンと出会い、物に名前があると理解するまでを描いたアメリカの舞台作品。1959年の初演以降、60年に渡り、映画、ドラマ、舞台で繰り返し作品化されている名作です。
可哀想な子だからと両親が甘やかしてきたせいで、手掴みで食事を取り、気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こす野生児のように育ってしまったヘレン。しかし、サリヴァンは人間として生きることの喜びをヘレンに知ってもらいたいと奮闘します。今回紹介するのは、ヘレンの両親から「先生のやり方は厳しすぎる」と批難されたときのサリヴァンのセリフです。

「ヘレンの一番の障がいは目でも耳でもありません。悪いのは、過保護と哀れみです」

後に、ラドクリフ大学(現在のハーバード大学)を優秀な成績で卒業したヘレンは、世界各地で講演活動を行い、障がい者教育や福祉の発展に尽力。没後50年以上経った今でも、世界中の人がヘレン・ケラーの偉業を語り継いでいます。しかし、ヘレンがサリヴァンと出会わなければ、どうなっていたか……。タイトルの『奇跡の人』が誰を指すのかを考えながら観て欲しい作品です。

映画の魅力のひとつは、感性が豊かになること。ほんの少しの時間、他人の人生や異世界を疑似体験したり共感したりすることで、視野が広がって生き方が変わることも。多様性が重視されている今こそ、価値観をアップデートしてくれる作品を楽しみたいですね。

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photoby Getty Images Sport