皆さん、こんにちは。
科学コミュニケーター綾塚達郎です。

2019年12月、のちに新型コロナウイルス感染症とわかる新しいタイプのウイルス性肺炎の発生が中国で確認されてから1年が経とうとしています。発生当初は情報が少なく、各現場での対策は五里霧中の状態でした。しかし、世界中の多くの方のご尽力により情報が集まり、対策の仕方が以前よりもわかってきています。

今、本当にやるべき対策は?逆に、やらなくてよい対策は?
感染者が増加している中、どのように冬を迎えるべきか?

そんな疑問にお答えすべく、感染症対策のプロ・堀成美さん(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)に、現場での対策方法や考え方をニコニコ生放送でお伺いしました。また、2020年11月27日に大曲貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長)、2020年12月1日に熊谷俊人氏(千葉市長)にインタビューを行い、その収録動画も放送しました。

※両氏の肩書は執筆当時のものです。

ニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ~令和3年をどう迎えよう~」

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  • 放送内容の詳細はコチラ

この記事では、12月3日火曜日の18:00から放送された内容のうち、綾塚がファシリテーターを担当した前半部分を振り返ります。医療現場や行政における変化について、放送内容から話題をいくつかピックアップしました。

前半パートであるこの記事の目次
●医療現場はどう変わった?
(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長 大曲貴夫氏インタビュー)
●千葉市の例から学ぶ、先を見通すこと、広い視野を持つことの大切さ
(千葉市長 熊谷俊人氏インタビュー)
●終わりに
●番組放送内容一覧

●医療現場はどう変わった?
(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長 大曲貴夫氏インタビュー)

連日、感染者数(報告数)や医療の逼迫といった言葉が飛び交っていますが、実際のところ医療現場はどのような状況なのでしょうか。また、この状況をどう捉えるべきなのでしょうか。

大曲センター長によると、まず、2020年2月ごろの流行し始めた頃に比べると、患者がどのような症状の経過をたどるのか(自然経過)、ウイルスが侵入すると体の中で何が起こるのか(病態生理)、この2点についてわかってきたと言います。

これにより、患者の診療・治療方針が立てやすくなりました。例えば、患者のようすから重症化の可能性を考え、入院の要不要の計画を立てられる、発症日からの経過を考えて使う薬や処置を変えられる、といった具合です。とにかく手厚くするしかなかった初期と比べれば格段に対応はしやすくなっていると大曲先生は言います。

今年度初めの段階では、まだ手探りで対応するしかなかった

また、今回のインタビューの中で、新型コロナ陽性、陰性の診断で使われるPCR検査の体制が拡充されたことにも触れられていました。第一波では、コロナらしい症状が出ている患者に対して選択的にPCR検査を行っていました。一方で、今は網の目を広げ、新型コロナの感染が少しでも疑われる患者はすぐにPCR検査に回せるようになりました。こうすることで診断が速くなり、治療や入院を開始しやすくなりました。

感染者数に関わらず、PCR検査数はおおよそ右肩上がりに増えている(厚生労働省「国内の発生状況など PCR検査の実施件数 」2020年12月23日現在)

ただ、11月から徐々に感染が拡大し、第三波と呼ばれる今の状態は、そうした医療現場でも追いつかなくなってきている、と認識するべきでしょう。さらに、冬は新型コロナウイルス感染症以外の入院対応も増えます。病院に余裕が無くなると、新型コロナウイルス感染症だけでなく、その他の感染症や病気、事故によって、救える命が救えなくなる可能性があります。

冬に増える病院対応例「ヒートショック」

医療現場の知見、検査体制、季節ごとの病院利用、…と、新型コロナウイルス感染症をとりまく状況は常に変化します。終息に向けた道筋は、状況に合わせて変化する、一定のものはないと考えることが大切です。

●千葉市の例から学ぶ、先を見通すこと、広い視野を持つことの大切さ
(千葉市長 熊谷俊人氏インタビュー)

医療現場だけでなく、教育現場、商業施設、スポーツ、…、こうした現場は日々たくさんの対応に追われています。特に新型コロナウイルス感染症の流行下では、それもギリギリな状況で回していることがほとんどでした。そのような中で少し先の見通しや広い視野を持つことは、大切ではありますが大変難しいことでもあります。どうするべきかのヒントを得るために、千葉市の実践例を見てみましょう。

たとえば、気にするべき感染症は新型コロナだけではありません。風疹や麻疹、季節性インフルエンザもあります。

千葉市の熊谷市長は、夏には冬のことを考えていたと言います。ニュージーランドやオーストラリアといった、季節が逆の南半球では、インフルエンザのような別の感染症について連日大きな話題となっていました。こうした情報を参考に千葉市は医師会と連携を取り、より多くの人が季節性インフルエンザの予防接種を受けられるように調整をかけていました。

南半球の国々の様子から、日本の冬にやるべきことの参考情報を得ることができる

また、新型コロナウイルス感染症の件は、それだけの対応として終わらせるのでは被害が大きすぎると熊谷市長は言います。むしろ、もっと広く感染症について興味をもち、対策をとれるようになるチャンスとして利用するべき、と提案されていました。

この秋、予防接種の体制を手厚くしたのはインフルエンザだけではありません。千葉市は、高齢者肺炎球菌の予防接種についても補助、啓発を行いました。肺炎球菌はそれ自体、めずらしくはありませんが、高齢者肺炎の大きな原因となっています。肺炎に注目が集まる時だからこそ、別の肺炎についても啓発する良いチャンスとなりえるだろうと熊谷市長は言います。

高齢者肺炎球菌は以前より定期接種の啓発対象となっていた(厚生労働省「肺炎球菌感染症(高齢者)」2020年12月23日現在)

また、新型コロナウイルス感染症流行下では、当初、多くの教育活動が自粛せざるをえない状況がありました。ただ、情報が蓄積する中で、子どもが感染する、子どもが感染源となるリスクは低いこともわかってきました。こうした情報が揃ったのち、根拠なく教育活動の自粛が続けられるのは本当に正しい判断なのでしょうか。

子どもにとっての半年や1年には、そのときでしか成長できないことがたくさんあります。本当にやめるべきか、科学的に突き詰めて考える必要があると熊谷市長は話します。「大人にとっての1年と子どもの1年は違う」。

「休校や遠足の中止というのがすぐに悪いというわけではないですが、医療衛生部門と話し合い、保護者の皆さまにしっかりと説明をしたうえで判断するべきです」(熊谷氏)

千葉市では医療衛生部門としっかり協議が行われました。もちろん、こうした動きに対して、教育現場の先生方やそれを支えるスタッフの皆さま、保護者の皆さまなど、多くの方のご理解と労力を必要としたはずです。こうした皆さまには本当に頭が上がりません。結果、修学旅行をはじめとした多くの行事が感染症対策下で実施されました。冬になったら状況は悪くなることが予想できたので、秋のうちにと急いだそうです。

新型コロナウイルス感染症だからこう、といった一点に目が奪われると、その他の大事なものが見えなくなります。リスクを科学的に評価しながら、できることを前向きに探すことが大切です。

●おわりに

いかがでしたでしょうか。私自身、放送内容についてもっともっとお伝えしたいことがありましたが、前半パートをメインで担当した私の記事ではここまでとしたいと思います。後半パートのまとめ記事も同僚の高橋明子が書いています。
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20201228-123-1.html

お伝えし切れなかった内容についてはぜひ番組アーカイブを覗きに来てください!

関連リンク

  • 「わかんないよね新型コロナ」の概要
  • この回の後半パートのまとめ

●番組放送内容一覧

◎医療現場は今どうなっている?

■大曲貴夫医師にインタビュー(07:52)
・第一波(春)、第二波(夏)、第三波(今)と、状況はどう変わってきましたか?(08:00)
・第三波の発生は、第二波の続きが起こしているのでしょうか。それとも別の背景があったのでしょうか。(11:05)
・10月24日より、状況に合わせて軽症者は自宅療養が可能になりました。それでもベッド数は足りないのですか?(14:25)
・新型コロナ感染者用のベッド数はすぐに増やせるものなのですか? また、病床使用率はどう見るべきですか?(16:00)
・知見の蓄積によって現場の医療は変わりましたか?(18:45)
・初診で、患者さんが新型コロナかどうか判断しやすくなりましたか?(22:35)
・新型コロナ感染症の後遺症について教えてください(24:02)
・後遺症を抱える方々のことをもう少し教えてください(26:30)
・4月の出演時は「まじめに休みなさい」と話されていました。今、あらためて視聴者の皆さまにメッセージをお願いします。(28:00)

■大曲医師のインタビューを受けて
・主語を大きくしすぎないことの大切さ(31:15)

■病床の確保や増加が難しい理由
・病床と、医療を支える人の数(33:20)
・4月から意外と進んでいない、技術と仕組み(37:35)
・冬季は入院患者が増えがち(38:20)
・冬は退職する人が増えて人手不足になりがち(40:30)
・医療物資は足りている?(41:20)


◎行政での新型コロナ対応は何がポイント?(43:15)

■熊谷俊人市長(千葉市)にインタビュー(44:45)
・具体的な差別行動の事例を挙げながら、「コロナ差別ゼロのまち宣言」を出した経緯は?(45:15)
・対策は現場ごとに変わるはず。現場とのコミュニケーションで大切にしたことは?(47:21)
・千葉市は情報公開や具体的対策が早かった何か教訓があったのですか?(48:38)
・一度やめたことの再開は難しいもの。修学旅行など、子どもの学びの機会の再開に踏み切ったときのことを聞かせて下さい(50:27)
・いろんな情報が飛びかっていた。判断に必要となる科学的情報を、市長ご自身、そしてチームはどう追っていたのか(53:51)
・さまざまな情報が行き交い、「わからない」とする情報も多かったはず。その中で、どう情報の取捨選択をしたのか(57:01)
・判断が難しい場面も多かったはず。現場との意思疎通や現場の行動を促す工夫は(47:42)
・肺炎球菌など、ほかの感染症のワクチン接種の補助をいち早く始めたその背景は?(58:33)
・市長自らSNSで発信し、差別につながりそうなコメントには迅速に返信している。返信すべきコメントの取捨選択は?(1:01:11)
・視聴者の皆さまにメッセージをお願いします(1:02:43)

■熊谷市長のインタビューを受けて
・感染拡大初期の対策の混乱を、社会の活動のために前向きに整理していく(1:06:10)


◎【休憩】科学コミュニケーター松島による、はやぶさ2講座(1:09:00)


◎換気、会食、加湿などなど…この冬、気になる対策や行動の話(1:28:00)
・ウイルスをもらう、うつす経路を断つのが対策(1:28:35)

■換気と加湿について(1:31:28)
・2003年築以降の住居等は、自動的に換気される仕組みがある(1:35:05)
・換気の必要性は状況次第。家庭での換気は必要?(1:36:05)
・換気をしない室内の飛沫(ゆる絵でご紹介)(1:40:30)
・会食時の対策例①(1:45:00)
・会食時の対策例②(1:49:00)
・加湿器に消毒薬は入れない(水にしましょう)(1:55:45)
・対策のために、加湿は意味がある?(1:56:52)
・加湿と換気は両立が難しい(1:59:22)
・加湿器の購入・使用は、維持の方法と責任者をセットで検討する(2:00:50)

■家庭や日常での現実的な対策について(2:05:05)
・そもそも家庭内感染は増えているの?(2:05:25)
・家庭や日常で対策のレベルを上げた方が良い時は?(2:08:55)
・"会食"は夜の宴会に限らない。ランチやお茶会も要対策(2:11:55)
・しんどくないレベルでやる。ここぞ!で対策レベルを上げる(2:13:30)
・保健所はデータの宝庫。少しずつわかってきている。(2:15:13)
・帰省するなら何に気を付けたらよい?(2:16:50)
・現実的な選択肢を前向きに増やすことは、精神衛生上も良いはず(2:17:50)
・新型コロナ以外の予防接種の動向。公費で打てる期間を逃さず打ちましょう!
(2:19:15)
・やるべき対策は、初期に言われていたこととあまり変わっていない(2:24:20)

◎質問おこたえタイム(2:26:00)
・インフルエンザと同じ対策で良いの? インフルは本当に減ってるの?(2:26:45)
・手洗いしすぎで手が荒れて、痛くてつらいです(2:28:30)



Author
執筆: 綾塚 達郎(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
大学では牛と稲を育てる研究をしていました(修士卒)。民間の教育会社で働いたのち未来館へ。ファシリテーション、執筆、ご来館者との展示前対話といった科学コミュニケーション活動を日々行っています。農業に関するテーマをよく扱っています。また、科学コミュニケーションの手法として演劇や五感を刺激するワークショップなど新しい伝え方へのチャレンジも行っています。