自転車でのひき逃げが多発? ややこしい罰則を紐解くと「自転車保険」の大事さがよくわかる

自転車のひき逃げ罰則がややこしい

新型コロナウイルス感染症のせいで自転車の利用が増えているという。そのせいもあるのか、近ごろ自転車の“ひき逃げ”がよく報道される。「ウーバーイーツ」の配達員が自転車で配達途中、20代の女性に衝突してケガを負わせ、救護せず立ち去ったとか。元有名プロレスラー「キラー・カーン」氏が、やはり20代の女性をひき逃げしたとか。

少し前に、超人気俳優・伊藤健太郎さんが、そちらは四輪でのひき逃げで逮捕され、もう大々、大報道された。ひき逃げの罰則もよく報じられた。「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(道路交通法第117条第2項)だ。けっこう重い。多くの方の意識にすり込まれたんじゃないか。

じゃあ自転車のひき逃げはどうなのか。じつは、ひき逃げの罰則はちょっとややこしいことになっている。そのへん、なんとかわかりやすく説明してみますので、どうかおつきあいください~。

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そもそも「ひき逃げ」とは何なのか?

そもそも、いわゆる「ひき逃げ」とは何か。同法第72条第1項の「交通事故の場合の措置」に違反することだ。法律的には「措置義務違反」という。第72条第1項は前段の「救護義務」と後段の「報告義務」に分かれている。まずは前段から。

「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」

これが措置義務のひとつ、救護義務だ。「交通事故」の定義は「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」(同法第67条第2項)とされている。「車両等」には自転車も含まれる。「物」は相手の車両だけでなく、電柱やガードレール、人の衣服なども含まれる。ちなみに法律は「っ」を「つ」と表記する。私の誤記ではないので(笑)。

「交通事故に係る運転者その他の乗務員」とある。「その他の乗務員」とはバスの車掌、引越トラックの助手なんかをいう。以下、「助手等」とする。ここでポイントは「交通事故に係る運転者その他の乗務員」ってとこだ。救護義務を負うのは、事故を起こした運転者だけじゃないのである。たとえば信号無視による交通事故が発生し、無視した側の運転者が重傷で意識不明だとしよう。その場合、軽傷ですんだ被害車両の運転者(被害者)や助手等に救護義務があるのだ。

それでだ、第72条第1項前段、救護義務の罰則は、なんと3種類に分かれている。1番目は同法第117条第1項。こうだ。

「車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

「軽車両を除く」となっている。だからこの罰則は自転車には適用されない。「運転者が」となっているので助手等にも適用されない。次は2番目、第117条第2項。こうだ。

「前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」

事故を起こした側、加害者が救護義務を怠ると、懲役も罰金も2倍になる! これが伊藤健太郎さんのひき逃げのとき出てきた重い罰則なのだ。「前項の場合において」とあるので、やはり自転車と助手等には適用されない。

そして3番目は、自転車の運転者と、助手等の罰則、第117条の5第1号だ。同条は第2号まである。柱書きと第1号のみを以下に。

「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
 一 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反した者(第百十七条の規定に該当する者を除く。)」

ウーバーイーツの配達員や「キラー・カーン」氏のひき逃げに適用されるのは、これなのだね。どうです、道路交通法ってややこしく組み合わさっているでしょお。

事故が起こったら110番通報!しないとどうなる?

最後に第72条第1項後段、「報告義務」について。これは長いよ。

「この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」

要するに、事故が起こったら110番通報しなさいってことだね。罰則は第119条第1項第10号。第1項は第15号まである。以下、柱書と第1項第10号のみ。

「次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
  十 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者」

報告義務違反はだいぶ軽い。ただし、注意しなければならないのは「人の死傷があつた場合において」というくくりがないことだ。つまり? そう、物損事故でも法律上は報告義務があるのだ。

ひき逃げ罰則を簡単にまとめてみる

さあ、ここまでをものすごくシンプルにまとめるとこうなるかな。いわゆるひき逃げの罰則は…。

1、加害車両の運転者の救護義務違反:10年以下の懲役又は100万円以下の罰金
2、加害車両じゃなくても運転者の救護義務違反:5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
3、自転車の運転者と、何であれ助手等の救護義務違反:1年以下の懲役又は10万円以下の罰金
4、すべてについて報告義務違反:3月以下の懲役又は5万円以下の罰金

以上は「逃げ」についての罰則の話だ。自転車の事故自体は以下のどれかで裁かれる。

過失傷害:30万円以下の罰金又は科料(刑法第209条)
過失致死:50万円以下の罰金(刑法第210条)
重過失致死傷:5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金(刑法第211条後段)

単なる不注意に加え、赤信号無視などの違反があると「重過失傷害」「重過失致死」になる。そういう裁判をたくさん傍聴してきて、ぜひとも言いたいことがある。自転車事故でも数千万円の賠償責任が生じることがある。「個人賠償責任保険」に加入しているかどうか、加害者にとっても被害者にとっても天国と地獄の違いですぞ!
個人賠償責任保険は「自転車保険」とも呼ばれ、自動車の任意保険や住宅・アパートの火災保険の特約として契約することが多い。掛け金は安い。同居の家族の自転車事故もカバーしてくれる。この保険に入らずに自転車に乗り、お子さんに自転車を与えている人は、ヤバイですぞ!

〈文=今井亮一〉
交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を発行し続けている。