なぜ船外機はそんなにハイパワーなの!? ヤマハの「F/FL425A」は5.6L・V8で何馬力?|木下隆之の初耳・地獄耳|

マリーナに行くと、たくさんのバイクメーカーのブランドに出会う。船外機と呼ばれる小型のエンジンには、それぞれのブランド名が誇らしげに記されている。ホンダ、ヤマハ、スズキ。世界を代表するバイクメーカーの名が賑やかなのだ。特にヤマハのシェアは圧倒的で、約40%に及ぶというから圧倒的である。

船外機は、ボートの後端に簡単に取り付け可能なタイプを示す。船体に内蔵するタイプは大袈裟だけから、安易に積み替えはできないけれど、船外機ならば自由に積み替えができる。もっとパワーが欲しいと思ったのなら、さらにバージョンアップも可能だし、1基では物足りず、2基でも、いやいや3基を並列に組み込んでいる猛者もいる。

ヤマハが船外機の発売を開始したのは1960年。空冷125cc単気筒だった。豊富に水のあるマリンで空冷というのが興味深い。のちに水冷になって行くのは道理。年々パワーアップ競争も激しくなり、2020年に発表した「F/FL425A 」はなんと、V型8気筒、5559ccだというから腰を抜かしかける。アメ車のビッグユニットを積んでいるようなものなのだ。最高出力は425馬力に達する。そんなモンスターを3基影しているクレイジーがいるというのだから呆れるだけだ。

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という話を編集担当Kにすると、彼も呆れ顔で両手を広げて見せた。アメリカ人みたいなアクションをするのは彼の癖である。

「なんで、そんなパワーが必要なんッスかね。のんびり釣り糸を垂れていればいいのに…」

僕らの前には、ミドルサイズのフィッシングボートがプカプカと浮かんでいた。出航の準備のようで、竿やバケツやクーラーボックスといった機材を忙しく積み込んでいる。

なるほど担当Kの疑問も理解できる。僕も昔は、フィッシングボートにパワークルーザーのようなハイパワーがなぜ必要なのか、必要性が理解できなかった。およそ5馬力程度の小さなエンジンで、トコトコ漁場に向かえばいいのだと思っていた。時の流れを忘れてキスやサワラを釣り上げるのが釣りの楽しみなのであろうと。

だけど、実情は大きく違った。 まず、海上を疾走するにはとてつもないパワーが必要だということだ。ボートが海を切り裂くには、驚くほどの抵抗がある。「象を曳いているようなものだよ」と言われるほどの抵抗なのだ。だからパワーが必要だ。燃費1km/Lもザラである。燃料喰いなのは、水の抵抗が凄すぎるからである。

パワーが求められるのは、目的地に早く到達したいからでもある。本格的トローリングする彼らの漁場は広い。たとえば神奈川県を拠点とすれば、大島や伊豆半島沖は、半日で巡る漁場である。さらに遠出した、利島、新島まで遠征することもある。かじきやマグロを釣るには、のんびりプカプかなんてしていられないのである。だからハイパワーなエンジンが必要なのだ。

トローリング大会では、オイシイ漁場にもっとも速く到着したボートに糸を流す権利が与えられるという。釣果で勝つためにも、目的地まで早くたどり着くエンジンが必要というわけだ。

マリーナで船外機を眺めていると、それはまるで世界GPが行われている鈴鹿サーキットのように見える。

〈文=木下隆之〉