大阪大学(阪大)は12月3日、動物の体表に見られる複雑な模様パターンが、シンプルな模様モチーフを「混ぜる」という意外な仕組みによって作り出されてきたことを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大学大学院 生命機能研究科の宮澤清太招へい研究員によるもの。詳細は、国際科学誌「Science Advance」に掲載された。

シマウマの縦縞や一部の魚類に見られる迷路のような模様など、自然界にはさまざまな模様パターンが存在する。動物たちは、弱肉強食の過酷な自然界で生き残るための必要性から、進化の過程でそうした模様を身にまとったものと考えられている。しかし、そもそもそうした模様はどのようにしてできてきたのかがよくわかっていなかった。

最近の研究から、テントウムシの水玉模様など、一部のシンプルなパターンについては、どのようにしてできたのかという手がかりが得られつつあるという。こうしたシンプルな模様は、体の特定の構造物やあらかじめ区画分けされた領域を「ぬりえ」のように色付けしていくことで描かれてきたと考えられている。

しかしより複雑なパターン、例えば入り組んだ迷路模様などは、上述した説では説明がつかない。「ぬりえ」の下絵に相当するような区画分けや基準となる構造物が見当たらないため、単純な「ぬりえ」の仕組みでは描けそうにないという。そのため、複雑で精緻な模様パターンがいったいどのようにして生じてきたのか、その進化的なメカニズムは依然として不明だった。

その謎を解くため、宮澤招へい研究員は今回、魚類1万8000種余りを対象に、大規模な模様パターンの解析を実施。水玉模様やしま模様、迷路模様といった、さまざまな模様モチーフの間にどのような関連性があるのかが調べられた。

その結果、淡色斑(黒地に白い水玉)や暗色斑(白地に黒い水玉)のようなシンプルな斑点モチーフと、これらとは見た目が大きく異なる「迷路模様」との間に、予想外の強い関連性が発見されたという。複雑な「迷路模様」を持つ種は、淡色斑もしくは暗色斑を持つ種が近縁に存在する場合により出現しやすい、という傾向が見られたとした。

  • 動物の模様パターン

    1万8000種を超える魚種の模様パターン解析(左上)から、模様モチーフ間の関連性が解明された。複雑な迷路模様とシンプルな斑点モチーフ(淡色斑・暗色斑)との間に強い関連性が見られることがわかった(右下) (出所:阪大Webサイト)

一方、コンピューター上でさまざまな模様パターンを作らせるシミュレーションによる解析から、こうした強い関連性を説明づける仮説が得られたという。シミュレーションでは、異なる模様を持つ仮想的な動物同士を掛け合わせることで、模様パターンを「混ぜる」ことが可能だ。

そこで淡色斑と暗色斑が混ぜ合わせられたところ、生まれてくる仮想的な交雑個体には、必ず「迷路模様」が現れることが判明したのである。ここから考えられることは、「迷路模様」を持つ動物が、淡色斑の種と暗色斑の種の「種間交雑」によって模様が「混ざる」ことで生じてきた、という可能性だ。

  • 動物の模様パターン

    (左)交雑シミュレーションにおいて斑点模様を「混ぜる」と、「迷路模様」が現れるという。(右)実際に交雑由来であることがわかった「迷路模様」を持つ魚と、斑点模様を持つ親種 (写真1:瀬能宏氏、神奈川県立生命の星・地球博物館、写真2:鹿児島大学総合研究博物館、写真3:松浦啓一氏)(出所:阪大Webサイト)

宮澤招へい研究員は、続いてフグの仲間が持つ模様パターンとゲノム情報を解析し、「模様の混ぜ合わせ」仮説の検証が行われた。その結果、「迷路模様」を持つ複数の魚が、実際に淡色斑の種と暗色斑の種の「種間交雑」によって生まれたものであることが確認されたという。さらに詳細な解析が行われ、こうした「模様の混ぜ合わせ」がほかの主要な魚類でも生じていて、模様パターンの多様性の創出に関わってきたという可能性も示唆されたとしている。

  • 動物の模様パターン

    動物の模様パターンに見られる特徴的な多様性 (出所:阪大Webサイト)

体の形やサイズなど、動物の主だった特徴は、近縁な動物ほど似ていて、系統的に遠く離れるほど異なっているのが普通だ。ところが、模様パターンだけを見てみると、系統的に近い「親類」のような動物の間でぜんぜん似ていない、ということが多々あるという。

その逆に、遠く離れた「赤の他人」のような動物間で驚くほどよく似た模様パターンが見つかるケースも珍しくないとする。今回の研究で明らかとなった「模様の混ぜ合わせ」という仕組みは、こうした興味深い生物多様性の謎を解くヒントとなるかもしれないとしている。

また今回の研究は、異種間の交雑が動物の進化に新たな原動力をもたらす可能性を示したという点で、より一般に生物進化のメカニズムを考える上でも大きな示唆を与えることが期待されるとした。