「カニバる」という単語を聞いたことがあるでしょうか。主にビジネスシーンで使われる言葉ですが、社内で耳にした方もいれば、何となく知っているが詳しい意味はわからない、という方もいるでしょう。

本記事では「カニバる」の意味や由来、実際にどのような場面で使うかをご紹介します。

  • 「カニバる」とは

    カニバるってどういう状態?

「カニバる」「カニバリゼーション」とは

「カニバる」とは、“共食い”を意味する「カニバリゼーション(cannibalization)」を由来とするビジネススラングで、「自社競合を起こす」という意味を持ちます。具体的には、自社製品・サービス・ブランドが競合し、自社内でマーケットのシェアを奪い合うような状態を指します。

以下では、このカニバリゼーションのデメリット・メリットや発生原因について紹介します。

カニバリゼーションのデメリット

ビジネスマーケットにおいて、社内で競合してしまうカニバリゼーションは大きなデメリットをはらんでいます。意図せぬカニバリゼーションが発生すると、本来であれば他社との競争に勝つためや差別化を図るために使うべき資産や体力を、社内での競争に使ってしまうことになります。

カニバリゼーションのメリット

カニバリゼーションにはメリットが存在しており、意図的に引き起こすケースもあります。社内で似たような製品・サービスを開発・提供することで、マーケットを同社製品で埋め尽くし、マーケットのシェアを盤石にすることができるためです。

社内競争によって製品・サービスの質も高められれば、高い品質を保つことでマーケットの硬直化を防ぐことができます。カニバリゼーションを効果的に活用することで、マーケットのシェアを独占しつつ、高い品質を保つことも可能にするというわけです。

意図せぬカニバリゼーションの避け方

意図せぬカニバリゼーションが起こる原因は、同じターゲットに向けた製品・サービスを社内で作ってしまうということにあります。

特に、大企業で事業部門間でのコミュニケーションロスが起きた際に、こういったことが起こり得ます。企業規模が大きいためにターゲット層の共有などができておらず、同じ層向けに製品やサービスを用意していることに気が付かないことがあるのです。

カニバリゼーションを防ぐには、会社内できちんとコミュニケーションをとることが有効です。

  • カニバリゼーションについて

    社内で密な情報共有を行うことでカニバリゼーションを防げる

カニバリゼーションの事例

<例1>

例えば、企業のオウンドメディアで似たような記事が複数掲載されている状況を指して「記事がカニバっている」と言うケースがあります。

記事を多くの読者に届けるための手法として、Google検索での上位表示を狙う方法があります。しかし、同じメディアが似たような記事を複数配信している状況では、Googleの検索エンジンが、どちらの記事の方が価値が高いかを認識しづらくなるため、結局どちらの記事も検索上位に上がりにくくなってしまうのです。

<例2>

また、オリエンタルランドが運営する東京ディズニーランド(TKL)と東京ディズニーシー(TDS)の関係性もカニバリゼーションの事例としてあげられます。

かつて、TDSができた際には、TDLと来場者を取り合ってしまうような状況だったといいます。

しかし、今やTDSとTDLはそれぞれのコンセプトも、メインとするターゲット層も異なります。TDLは子ども向けのアトラクションや世界観を、一方のTDSは大人向けのアトラクションや世界観を作り上げることで、差別化を図りました。結果として今日ではTDLとTDSそれぞれで異なる顧客層を取り込めるようになりました。

これは、カニバリゼーションをうまく改善したケースと言えます。

  • 「カニバる」はこういう状態

    差別化を図ってカニバリゼーションを防ごう

カニバリゼーションと「ドミナント戦略」

カニバリゼーションと似た考え方に、「ドミナント戦略」があります。

ドミナント戦略とは、チェーン店が複数店舗を同じ地域に設置し、その地域のシェアを勝ち取るという――という手法です。これは、カニバリゼーションの発生原因と表裏一体の手法でもあります。

例えば、あなたの家の最寄り駅に同じブランドのコンビニが3店舗(A店、B店、C店)あったとしましょう。駅から徒歩1分の位置にA店、道を挟んだ反対側にB店、B店の2店舗隣にC店、と密集しているのを見たとき、あなたはどの店舗を利用しますか?

基本的には、そのうちのいずれか1店舗を利用することでしょう。ある日はA店、ある日はB店、と日によって利用する店舗を変えるかもしれません。

この場合、コンビニの運営会社から見れば、本来そのエリアで得られていた売り上げが3店舗に分散してしまうため、店舗単体の売り上げが伸びないのはもちろん、企業全体としての売り上げを伸ばすことには直接つながっていないように見えます。

この、“同じコンビニブランドで売り上げを奪い合っている状況”は「カニバリゼーションを起こしている」とも言えます。

なお、ドミナント戦略においては、「出店地域での知名度を高める」「流通効率を上げる」等の目的を持ち、意図的にこういった店舗展開をしているため、結果としては売り上げの増加につなげています。

「カニバる」の使い方・例文

「カニバる」を実際に文章としてどう使うかを簡単にご紹介します。

  • 【名詞】カニバリ
    「その製品はすでにカニバリが発生している」
  • 【動詞】カニバる
    「いまそのサービスを出すと、あの部署とカニバるからやめておく」
  • 【進行形】カニバっている
    「あの部署の製品とカニバっている」
  •  「カニバる」の使い方

    「カニバる」の使い方

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以上、「カニバる」の意味や実際の事例をまとめました。

なお「カニバる」はあくまでもビジネススラングなので、使用場面には十分注意が必要です。社内で親しい間柄の相手に使う分には問題ありませんが、社内の公式な場や社外の人に対しては「自社競合」などと言い換えるのがベターです。