ジェイコブ・コリアーが語る、音楽家が新しい世界に飛び出すための方法論

11月27日に日本盤がリリースされる最新作『Djesse Vol. 3』が、第63回グラミー賞の「アルバム・オブ・ザ・イヤー」を含む3部門にノミネートされたジェイコブ・コリアー。ここではWeb先行公開した箇所も含む、「Rolling Stone Japan vol.12」(2020年9月25日発売)に掲載したインタビューの完全版をお届け。コロナ禍におけるクリエイターの新しい方法論と、2020年を代表するアルバムの制作背景に迫る。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。


Three Grammy nominations including ALBUM OF THE YEAR????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! pic.twitter.com/N07iSrytLK — Jacob Collier (@jacobcollier) November 24, 2020
魔法のように高度な音楽理論と、突拍子もないアイデアを組み合わせてしまうジェイコブ・コリアー。アカペラの多重録音に楽器演奏も自らこなし、ベッドルームからのYouTube配信で名を馳せた彼は、ここ数年で世界観を広げるように大物たちとコラボを繰り広げ、ジャンルを超えた快進撃を見せてきた。それはコロナ以降も変わらず、最新アルバム『Djesse Vol.3』を発表し、いくつものリモート・ライブを実施。自宅に籠っているとは思えないアクティブさで話題を提供し続けている。この状況下に「音楽の化身」は何を考えていたのか。


ジェイコブ・コリアー
1994年生まれ、ロンドンを拠点に活動中。様々な楽器を操るシンガー/作曲家/プロデューサーとして、2度のグラミー賞に輝いている天才マルチ・ミュージシャン。2011年から多重録音のアカペラと楽器演奏による動画を自宅のベッドルームからYouTubeで配信すると、クインシー・ジョーンズの目に留まり2016年にデビュー。一躍スターとなり、ハービー・ハンコック、ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムスなどと共演/コラボを果たす。


―もともと『In My Room』(2016年の1stアルバム)で活動していたあなたはそこから飛び出して、『Djesse』プロジェクトで誰も見たことがない壮大な世界を描いてきました。それがCOVID-19により移動が制限され、また『In My Room』に戻らなければならなくなった。でも、最近の活動を見ていると、ロックダウンで家に閉じ込められているのに、なぜか不自由そうに感じなかったんですよね。

ジェイコブ:その通り。人生で初めてツアーに出て、それにようやく慣れてきたところで、今度はまた部屋に戻れと言われ、とても不思議な感じだった。でも、このロックダウン期間はやり忘れていたクリエイティブなことに取り組む良い機会になったんだ。僕の中にはやりたいことはいっぱいあって、でも一日中走り回っている時は座って頭で考えるだけで、実行できなかった。今はすぐに実行できるんだ。

―まず最初に何をしたんですか? イギリスでは3月23日からロックダウンが始まったと思いますが。

ジェイコブ:欧州/USを廻る10〜11週間のツアーが始まることになっていて、3月27日からリハの予定だったけど、すべてキャンセルになった。『Djesse Vol.3』は当初3月末にリリースする予定だったけど、最終的には8月まで時間をかけて完成させることができた。僕としてはミキシングやプロデュースに十分な注意を払うことが出来たし、さらに新曲を書き、大好きなコラボレーションも追加できた。それはすごくありがたかったね。他にもNPRの「Tiny Desk (Home) Concert」や、Jimmy KimmelやJules Hollandといった番組のためにビデオを作ったり、マスタークラスで教えたり、『TED』用に家から生配信したり、音楽を作ったり……いろんなことを考えて、いろんなことを楽しんだよ。


2020年7月、米公共ラジオ局NPRの「Tiny Desk (Home) Concert」に出演。ロンドンの自室から、4人のジェイコブによる多重演奏が届けられた。

今日のテクノロジーがあれば、人は一つになって音楽を作れる

―ロックダウンの期間は練習や研究、実験をする時間にもなったのでは?

ジェイコブ:そうだね、再び本来の意味で音楽を作ることが出来たのは良いことだった。ある段階まで行くと、音楽を仕事としてやることになってしまう。ツアーをして、ステージで演奏して……でもアルバムの完成後は、仕事というのを抜きに、ただ楽器を演奏して実験する時間が持てているよ。それって僕が世界で一番好きなことだったのに、ここ何年もやれていなかったんだ。

―この期間に何か新しくマスターしたことはありますか?

ジェイコブ:ひとつはサウンドを作ることーーミックスしてプロデュースすることーーに関して、上達したんじゃないかな。それは『Djesse Vol.3』にも反映されているはず。これまでは実際のサウンドよりも音楽(music)に意識が行ってたけど、今回は音楽の中のサウンドということを考えた。つまり音楽をinternalize(内在化)し、「このサウンドをどう感じさせたいか」「このサウンドはどこに配置されたいのか」というようにね。要するに、”サウンドが作る宇宙全体”に関心が向くようになった。もうひとつは演奏自体をする時間が増えたこと。特にドラムとベースとピアノ。これまでは曲を書いている時、「ちょっとベースで試してみよう、ここはピアノで試してみよう」という風に「ついでに」弾くものだった。でも今は、ちゃんと一つの楽器に向かい、好きなレコードに合わせて弾いたり録音したり……それが演奏の上達につながったと思う。うまくなるには、継続的にやらなきゃダメだってことだね。

―リモートでのライブをいくつかやっていましたね。まだ不十分なテクノロジーを使って、試行錯誤しながら、リアルタイムの遠隔セッションを試みた理由を教えてください。

ジェイコブ:いま、やりたくてもやれないことの一つが、他のミュージシャンとのジャムセッションだ。クリス・マーティン(コールドプレイ)、ダニエル・シーザー、トリー・ケリー、JoJoなどとセッションを行なったけど、イージーではなかった。まずは何より、物理的に離れていることの違和感だよね。もう一つの問題はインターネット上で通信のレイテンシ(遅延時間)が0.5〜1秒くらい発生してしまうこと。そこでセッション中は、僕が頭の中で誤差を修復しながら、つまり常に0.5〜1秒の”未来で”演奏するようにしたんだ。つまり、相手が僕のちょっと後、もしくは前から入ってくると想定し、オーディエンスから聴いてシンクロした状態にするんだよ。

#TogetherAtHome with @coldplay s own stratospheric Chris Martin, live on Instagram yesterday evening! The full video is over on IG, if youd like to dive upon it. @GlblCtzn @WHO pic.twitter.com/pW5TUEhGSj — Jacob Collier (@jacobcollier) May 8, 2020
インスタライブで実現したクリス・マーティンとの共演。ジェイコブはピアノも演奏。

―それはすごい(笑)。

ジェイコブ:今日のテクノロジーをもってすれば、人は即座に一つになって音楽を作れる。たとえ何千キロ離れていようと。『Djesse Vol.3』のコラボレーションの多くもリモートで行った。例えばタイ・ダラー・サイン、マヘリアとの「All I Need」もそう。タイ・ダラーはLA、マヘリアはロンドンからーー彼女は僕の家からそう遠くはないんだけどーートラックを送ってくれて、それを僕の自宅のこの部屋でミックスした。

キアナ・レデとの「In Too Deep」の場合は、LAのキアナの家に録音用のマイクを送り、彼女のコンピューターにあるプログラムをインストールして、リモートデスクトップで遠隔操作できるようにした。録音は僕も彼女もクリック一つでリアルタイムで行なえて、それが僕のスピーカーから聞こえる。実際は何マイルも離れているのに、まるで彼女がすぐ隣にいるみたいに一緒にセッションを行ない、音楽を作れるんだからすごいことだよね。これまでもオーケストラ、ロックギタリスト、R&Bシンガー、クワイアなどとやって来たけど、このアルバムは世界中のアーティストとリモートでもこれだけやれるんだってことが証明出来た一作になったね。


2020年5月、TV番組「Jimmy Kimmel Live」で披露された「All I Need」のリモート・パフォーマンス。ジェイコブは自宅のバスルームで演奏、タイ・ダラー・サインとマヘリアが鏡越しに共演。

クラウドファンディングの可能性ー技術と情熱、やさしさを共有する意味

―あなたはクラウドファンディング・プラットフォーム「Patreon」も活用していますよね。

ジェイコブ:今の時代、ファンとアーティストの間に距離はそこまで必要ないんだ。20年前はアーティストが音楽を作ったあと、レーベルに提出し、それがパブリシスト経由で雑誌に載って、ようやく個人に届いていた。今はアーティストは個人に直接届けられるし、その逆もありだ。Patreonはまさに21世紀型インターアクションとファンドレイジングの形だと思う。しかも段階がいくつかあって、遊びの要素もあるので、これまで以上にアーティストとファンの関係は密になる。僕のPatreonにいるのはかなり熱心なファンばかりだから、彼らにはとっておきの特典をつけるんだ。Zoomでのファンミーティングを月に一度やって曲を演奏したり、彼らの質問に答えたり。「Logic Session Breakdown」というのもあって、そこで『Djesse Vol.3』の曲を解説したり、そういうことを実現出来る場があるのは素晴らしいことだね。

今、世界中のミュージシャンが稼げなくて苦しんでいる。ミュージシャンの多くはライブ・パフォーマンスが主な収入源だから。僕は想像力を働かせて、それに代わる別の方法を考えたいんだ。音楽を作り続け、このライフスタイルを持続させるためにもね。でも、より大切なのは人とつながること。音楽にできることがあるとしたら、世界を一つにすることだ。ロックダウンだからと言ってそれができなくなる必要はない。


Patreon(パトレオン)は2013年、米サンフランシスコで設立されたプラットフォーム。2020年9月現在、20万人のクリエイターと600万人のユーザー(パトロン)が登録し、年間の総支援額は10億ドル(約1060億円)。アーティスト第一主義を掲げ、ファンとコネクトしながら長期的に活動できるよう、一括課金型ではなくサブスクリプション型を採用している。

―ライブの収入が絶たれたバンドメンバーやスタッフのために、自宅から一人楽曲制作する様子を8時間ライブ配信して、1日で31000ドル(約330万円)をクラウドファンディングで集めたりもしたそうですね。そこでもPatreonを活用したみたいですが、そのことについて聞かせてください。

ジェイコブ:実は2016年にも、『In My Room』のレコーディング費用をすべてPatreonでまかなったんだ。Patreonを使ったのはその時が初めてだった。そして「#IHarmU」というキャンペーンを始めた。アマチュアやプロのミュージシャンを問わず、世界中のファンに15秒のメロディを送ってもらい、今座ってるこの椅子に座りながら僕がそこにハーモニーを乗せ、それを何人ものジェイコブが歌って演奏するのをビデオにしてSNSにあげたんだ。最終的に130くらいのメロディが送られてきて、数年越しで70くらいにハーモニーを付けた。『In My Room』はお金を僕に払ってくれたファン全員によって作られた、とてもクールなプロセスだった。

しかし、まだいくつかのメロディが残ったままだったので、それを利用して何か助けることは出来ないかと考えた。そこで8つのメロディを次々と、全くの無音からフルのハーモニーまで重ねる様子をYouTubeで生配信したんだ。大変だったけど、楽しかったよ。今、バンドやクルー達には収入がない状態なので、彼らへの募金を募ったんだ。ツアーに出る予定で仕事を約束していたから、それが叶わなくなり、わずかでもお金を彼らに渡すのは僕の責任だと感じた。思っていた以上に、みんなからのやさしさを受け取れて、少しでも友人達のためにお金を集められて満足しているよ。


2016年に公開された「#IHarmU Vol. 1」にはジェイミー・カラムも参加。


2020年5月、1日で3万ドル以上の寄付を集めた「#IHarmU Epic Marathon」の様子。

―先ほど話していた「Logic Session Breakdown」は、自身が作った楽曲のLogicの編集画面をシェアして、ソフトの仕組みを解説するというもので、1年くらい前にスタートしましたよね。どういう意図で始めたんですか? 

ジェイコブ:僕は自分のアイデアや、曲の仕組みや音楽一般について説明するのが好きなんだ。音楽ってすごく面白い言語だからね。よく「このクレイジーな音はどうやって作っているの?」という質問がくるから「じゃあ、それに答えよう」と。普段から家の中にある変なモノを使った音だったり、ツアー先で携帯に録音したーー飛行機の音とか人が歩いてる音とかーーそういった音はすべて曲の一部になるから。

そうやってクリエイティブになるためのドアをたまに開けて中を見せて、何があるかを話すのはとても面白い機会じゃないかと思うんだ。誰もがクリエイティブになるという意味でね。見た人が「どんなものを使ってでも音楽が作れるんだな」と驚いたり、インスピレーションを受けるのを見ると、僕も嬉しくなる。正式な音楽教育を受けてなくても、何かのエキスパートじゃなくても、アイディアを実現させたい気持ち、それが変化を起こしている過程を見る気持ちがあれば、それでいい。「Logic Session Breakdown」がそれを証明してると思う。

僕は何か特定の楽器の達人というわけではない。ただ、絶対に結果を出してみせると決めているんだ。あと、自分の気持ちに寄り添うものを追求することに関しては完璧主義者だ。それを説明すると、リスナーの音楽の聴き方自体が変わるみたいだよ。僕の音楽に対してもね。

―そんなふうに手法がシェアされることで、みんな大きな学びを得ていると思います。そして、あなたはPatreonを介し、スキルをシェアすることから収入を得ると。

ジェイコブ:これまでとは違うお金の生み方だけど、僕にはすごく理にかなっていると思えるよ。



第62回グラミー賞で「最優秀アレンジメント インストゥルメンタル/アカペラ部門」に輝いた「Moon River」のMVと、「Logic Session Breakdown」の一環で同曲について解説した動画。

やりがちなことをいかに「やらないか」 一つの世界に固執せず、好奇心を追う

―新作『Djesse Vol.3』のコンセプトを教えてください。

ジェイコブ:『Djesse』はアルバム4枚分のプロジェクト。1つの大きなアルバムの中に4つの宇宙がある。それぞれの宇宙にはそれぞれのジャンル、サウンド、コラボレーターがいる。『Vol.1』はメトロポール・オーケストラのアコースティックなサウンドや、クワイアを用いた壮大な宇宙だった。『Vol.2』は同じアコースティックでもフォーク寄り。ソングライティングやロックの要素、ライトなファンク、アフリカ、ポルトガルなど世界の音楽をつなぎたかった。

で、『Vol.3』はと言うと、ヒップホップ、R&B、エレクトロニック、デジタル・サウンド、ポップミュージックを全部一緒にしたようなもの。そのスペースに見合うサウンドにしたかったから、ビッグなコラボレーターが必要だった。僕にとってはポップミュージックとヒップホップ、フォークとクラシックの間にはなんの差もなくて、全て一緒なんだ。それを実践することで説明するのがエキサイティングなんだよね。そこでT-ペインやジェシー・レイエズ、タイ・ダラー・サイン、マヘリア、トリー・ケリー、キアナ・レデに連絡し、この四部作の旅のうちの1/4のサウンドを織り成すファブリックを作り上げた。これまで以上にサウンドデザインを意識したとさっき話したけど、「変な」(weird)サウンドに仕上がった点が気に入っている。人ってシリアスに考えすぎて、変なものを忘れちゃう。でも人生ってそこまでシリアスじゃない。今回、ダークで変なスペースに入りながら音楽を作れたこと、それを『Djesse』のストーリーの一部にできたのはとても楽しかった。

それと実は、アルバムに収録したよりもずっと多くの曲を書き、その過程でコラボレートを続けて、最終的に重要な曲を選んだんだ。例えばトリー・ケリーとの曲は2017年に書いたものだけど、「Light It Up On Me」は2カ月前にようやく書けた曲だったりする。つまり、曲は僕の人生経験という意味でも、数年分に及んでいるんだ。飛行機の中、ツアー中のバスの中、世界各地でラップトップに残したストーリーを全部家に持ち帰り、意味が通じるように一つにする。そこがクールなんだよ。


第63回グラミー賞「ベスト・R&B・パフォーマンス」部門にノミネートされた「オール・アイ・ニード」



―『Djesse Vol.3』ではあなたの音楽の特徴でもあった、世界中の音楽からインスパイアされた斬新なコーラスワークや複雑なリズムが前面に出ていない印象です。シンプルでファンキーなリズムと、ハーモニーの範囲内だけでできる音楽の可能性を追求しているようにも思いました。ジャケットの色が青と黒と白だけなのと同じように、音に関しても色のパレットが少ない気がしました。

ジェイコブ:なるほど。こういうことをやりたいとはちょっと前から考えたんだ。昔から僕は「過剰なくらいに盛ってしまう」マキシマリストだった。でも「今回はハーモニーはやらない」とか「クレイジーなリズムは避けよう」と考えてそうしたわけじゃない。作りたかったのは、人として心を興奮させられる音楽。そして、そういう興奮させられるものは「自分が知らないこと」であることが多いんだよ。『Vol.3』に多くあるプロダクション、サウンドの要素は、これまでの自分が知らなかった世界だ。知らなかったけど、すごく興味を持ち、やり始めてみて思った。これをやりつつ、従来のようにクレイジーなほどに密な音楽情報ーーハーモニーとかリズムとかーーを盛り込んだら、あまりにも混雑しすぎてしまうってね。だから『Vol.3』のチャレンジは、自分がつい「自動的にやりがちなこと」を、いかに「やらないか」ってことで、その上でストーリーのつじつまを合わせるか、だったね。

かと言って、もう今後やらないと言ってるわけじゃない。極端なハーモニーは僕が大好きなことだから! でも、今回は実験することが重要だった。来年出るかもしれない『Djesse Vol.4』では、それらすべてのコンビネーションやすべてのスペクトラムを網羅した、ミニマムなものからマキシマムなハーモニーまでを含むことになるのかもしれないね。今のキャリアの段階で、僕は好奇心を追って、なるべく多くのタネを蒔くことが大事だと思ってる。それが2年後、5年後、10年後、20年後の音楽の成長に繋がるように。今の僕の仕事は、居心地良いコンフォートゾーンに留まらず、一つの世界から外に飛び出すこと。大きくて濃密な世界だけでなく、たまにはミニマルな世界を知ることで、「最大限(マキシマム)の世界」に戻った時、改めてその良さがわかるんだと思う。

―自分でビートを作ったり、プログラミングしたりという、これまでやらなかった作業への挑戦はいかがでしたか?

ジェイコブ:興味深かったよ。ビートはアルバムに入れてなかっただけで、10年前くらいから作ってたんだ。ただ、厳密なビートというより、ジェイコブのビートというだけさ(笑)。ちょっと変わったファブリックーーハーモニーとか、変わったサウンド・テクスチャー、たくさんのリズムなどで出来上がっている。一つ気づいたのは、音楽的な観点からビートを作ってるアーティストが最近はあまりいないってこと。ビートはラッパーにとっての踏み切り板でその上に言葉を吐き出し、シンガーはその上にメロディを書く。でも、本当はビート自体がとても音楽的で、多くの意図や重力を含むことが出来る。だから最適なモメンタム(勢い)と重力を持つビートを作り上げるのは、チャレンジであると同時に喜びだった。このサウンドはこのサウンドにつながり、それはまたこのサウンドにつながる……というように、納得いく、つじつまの合う「旅」でなければならないからだ。音でテンションを作り、テンションをリリースするとこうなる、とストーリーが語れるのと一緒で、ビートにもダウンビート、アップビート、このキーではダウンビートに戻り……などというふうに科学がある。そこの部分に僕はずっと興味があった。J・ディラのようなプロデューサーはその好例だ。彼はビートをアートフォームとして捉えていた。何を選ぶかが絶妙で正確だ。そういう形のストーリーテリングができたことが『Vol.3』の気に入ってる点だよ。

―あなたは「声」の表現を大きく進化させてきましたが、今回はラップもやってますよね?

ジェイコブ:大変だったよ(笑)。でも楽しかった。エミネムやバスタ・ライムスみたいに早口にまくし立てるラッパーが大好きで、ずっとやりたかった。自分はラッパーじゃないし、なろうとしてるわけでもない。ジェイコブっていうだけ。でも、僕が大好きな音楽の一つがラップミュージックだから、何曲かで「スピード・ポエトリー」みたいなアプローチを取ってみたんだ。早口でメタファー満載で、いろんなことの万華鏡。典型的なラップじゃなくて、言葉のサウンドで実験するというのかな。ノート(音)ともコードとも一緒なんだ。ちなみに、「Count The People」のスピードポエムの下で鳴ってるビートは、庭のスプリンクラーが水を撒いてる音だよ。



大切なのは「聞く」こと、そこから自分の声が見つかる

―6月4日にあなたはTwitterでブラック・ライヴス・マターについて投稿しています。そこでは「As a white musician」「As a white man」という言葉で、白人としての自分の立場を明示し、敢えて厳しい立場に身を置いて語っていました。この時の思いを聞かせてもらえますか? 

In this most turbulent time, I stand in infinite solidarity with the BLACK LIVES MATTER movement, with all those who are raising their voices for a change so desperately needed. [THREAD] ... — Jacob Collier (@jacobcollier) June 3, 2020
ジェイコブ:すごく重要な質問だね。ここ数カ月はいろんな意味で本当につらい時期で、世界中で皆それぞれの形でそれに立ち向かってるんだと思うんだけど、あれはその中でも一番心が痛んだことだった。そこで語られていたのは何百年も前から言われてきたことだ。今はその声に耳を傾けなければならない重要な時期だった。5月、6月くらいだったよね。僕は1つ、2つの音楽を聴くタイプじゃなく、それこそ探せるものは何でも聴いてインスピレーションを受けるのが大好きだ。そして音楽だけでなく、その音楽が生まれる背景やカルチャーや人間とインタラクトする。でも、しばらくは何も言いたくなかった。人の言葉を聞きたかった。十分にノイズ(外野の声)が大きかったから、それ以上のノイズになりたくなかったんだ。でも、ある時点まで来た時に、やはり自分の声を上げるのが重要だと思った。僕が世界の誰よりも尊敬しているのはブラック・コミュニティのミュージシャン達だ。彼らの声がちゃんと人に聴かれていないのだとしたら、それは嫌だった。特に僕のようにミュージシャンとして生計を立てている者は、彼らの作って来た音楽にインスパイアされ、今があるわけだから、彼らと僕の思いは一緒だということを示したかったんだ。世界にとって必要なのは(相手の話を)「聞く」ことだ。こちらが話したり、怒ったりするよりも、相手の話を聞く。それってミュージシャンとしての重要なスキルでもあるんだよ。自分を無にして、まずは相手の声を聞く。そうすると、その中から自分の声が見つかるんだ。

6月のあの時は、自分の言いたいことが見つかった時だった。他人の意見に耳を貸したからだ。人間としての責任について、自分以外の世界について、自分の言葉を発した重要な時期だった。ブラック・コミュニティは今、世界中で大きな声となっているけど、他にも違う意味で押さえつけられているコミュニティがある。同様に優遇されている人たちもいる。そういった(これまで閉じられていた)箱を開けて、中をちゃんと見るのに今以上のタイミングはないと思う。それを「恐れることなく」やる。とても健全なことだよ。どこから自分が来たのか、どういう位置にいるのか、自分の周りの人たちはどこから来たのか……そういったことを見直し、彼らのストーリーに耳を傾ければ、そこから学べることがきっとあるんじゃないかと思うんだ。


第63回グラミー賞「ベスト・アレンジメント・インストゥルメンタル・アンド・ヴォーカル」部門にノミネートされた。「ヒー・ウォント・ホールド・ユー」

―最後に、あなたはずっとワンマンライヴをやってきましたが、近年はバンドでツアーを行い、しかもオーディエンスにも歌わせるなど、より「触れ合う」パフォーマンスになっていました。ところが、この自粛期間でまた狭い範囲に閉じ込められることになったわけですけど、今後のライブに現在の自粛期間はどう反映されるのでしょう?

ジェイコブ:アイディアはいっぱいあるよ。去年の末、初めてバンドでやり始め、今年はさらにメンバーを増やして、オーディエンスを交えたライブを計画していたから、いずれやりたいと思ってるんだ。今、歌えるバンドというコンセプトに興味があって、オーディエンスに歌わせるだけじゃなく、メンバーが全員ハーモニーパートを歌えて、演奏もできる、そんなものを目指したいんだ。従来のボーカル・ハーモナイザーやループのようなテクノロジーをただ使うのではなく、ステージの上で、オーディエンスの目の前ですべてが起こるものを作り出し、最高のサウンドを出す手段としてテクノロジーを使う感じ。お互いの音を聴くためのヘッドホンとか、ドラマーが変な音を再現するためのドラム・パッドとか。つまり、音楽を作るためのテクノロジーということだね。

かつてのワンマンショーでやっていた、機材の円に囲まれてループで全ての音を出すフィーリングも大好きだったけど、今はそこから飛び出したい。この部屋から出て、殻を一つ破って世界に出ていく、そんな感覚だね。予想はつかないけど、再びツアーに出る頃には時代が変わってしまっていると思う。僕は毎週のように新しいアイディアが浮かぶから、1年後には何百というアイディアが生まれてるはず。それを全て集めておいて、その時がきたら、どれが最もしっくりくるを選び出したいと思っているよ。





『Djesse Vol.3』
ジェイコブ・コリアー
Hajanga / Decca / ユニバーサルミュージック
2020年11月27日リリース
視聴・購入リンク:https://jazz.lnk.to/JC_Djesse3PR






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