新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中、半導体市場はさまざまな需要を背景に成長を続けている。TrendForceの調査によると、中でもファウンドリ業界は強気で、2020年のその市場規模は前年比23.8%増と予測され、これは過去10年間の当該市場における成長率の中でももっとも高い値になるという。

TrendForceでは、ファウンドリの注文状況調査を踏まえ、現在のタイトな供給状況は、少なくとも2021年上半期まで続くと予想している。中でも10nm未満の先端プロセスは、TSMC、Samsungとも、ほぼ生産能力の限界というフル生産の状況にある。また、4nmプロセスが2021年に、3nmが2022年にそれぞれ提供開始される予定となっている。

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    ファウンドリ業界の市場規模および前年比増減率の推移 (出所:TrendForce)

28nm以上の成熟プロセスも供給ひっ迫へ

必ずしも最先端プロセスを必要とはしていない既存のアプリケーション(CMOSイメージセンサ、SDDI、RFフロントエンド、TV、Wi-Fi、Bluetooth)および新興アプリケーション(Wi-Fi6、AI、メモリ・ヘテロジニアス集積)に対する需要の高まりを考えると、28nm以上の成熟したプロセスのウェハの供給も徐々に逼迫してきている。

また、8インチ(200mm)ウェハの生産能力も2019年下半期以降、不足が続いている。2020年現在、200mmウェハ対応の半導体製造装置を新品として提供している製造装置メーカーはほとんどいないことから、200mmウェハ対応の中古製造装置の価格は高騰しており、加えて200mmの生産能力を拡張しても、費用対効果に乏しいこともあり、生産能力の増強には慎重な姿勢を見せている。しかし、PMICなどの需要の増加は5Gの普及などを背景に増加しており、一部の製品を12インチ(300mm)に移行させることで、対応を図ろうとしているが、短期的に200mmの生産能力不足が解消されることはなさそうだという。

積極的な5nmの増強でSamsungを突き放すTSMC

2020年11月時点の最先端プロセスである5nmだが、TSMCの同プロセスを先行して利用していたのはHuaweiの子会社であるHiSiliconとApple。しかし、HiSiliconは、米国の制裁により、チップをTSMCから入手できなくなった。Appleは自社のSoCやCPU、アクセラレータなどをTSMCに生産委託しているが、5nmの生産能力を完全に埋めるほどではなく、その結果、2020年下期の5nmラインの稼働率は85~90%程度に留まると推定されるという。

とはいえ、2021年後半から2022年にかけて、MediaTek、NVIDIA、Qualcommが5/4nmプロセスでの量産を開始し、AMDがZen 4 CPUの製造を強化する可能性があるほか、IntelもCPUをアウトソーシングする可能性があり、TSMCは将来的なこうした需要に対応するべく、5nmの生産能力の拡張を進めている。

さらに、Appleが5nmのシュリンク版である4nmプロセスを用いて次世代A16プロセッサ(仮)の製造を行う可能性もあり、5nm関連の生産能力はあっても不足することはない状況と言える。

一方のSamsungも、NVIDIAのGPUの継続的な製造委託に応えることを主目的に、2021年に5nmの生産能力を拡大することを計画している。ただし、Qualcomm Snapdragon885とSamsung独自のExynos SoCの生産を合わせても、2021年末時点でSamsungの5nm生産能力はTSMCを約20%下回ったままであると予想している。

なお、Qualcommは、Snapdragon 895の製造にTSMCの4nmプロセスを採用する可能性が高く、そうなるとSamsungの5nmを活用する主要クライアントはNVIDIAと自社のシステムLSI事業部門のみである可能性がでてきたといえる。

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    TSMCとSamsungの5nmプロセスによる四半期ごとの生産能力の予測 (単位:1000枚/月) (出所:TrendForce)