工学院大学とポーラ化成工業(ポーラ)は11月19日、物体の動きにおいては気づきにくい0.1秒程度のごくわずかな遅れであっても、人の顔に生じる場合には感知されやすくなること、その0.1秒の遅れが頬部に生じると顔の魅力度が低下することが判明したと発表した。

同成果は、同大学大学院 情報学専攻の博士課程2年であり、ポーラ化成工業 フロンティアリサーチセンターの研究員でもある黒住元紀氏、同大学情報学部の蒲池みゆき教授らの研究チームによるもの。同研究は日本心理学会第84回大会において36件の優秀発表賞に選ばれ、黒住氏が受賞した。

長年にわたり美や魅力とは何かを探求してきたというポーラでは、そのひとつとして、顔や皮膚の動きと印象に着目した認知心理学的な研究を続けている。また目や耳といった身体器官のしくみや脳機能を理解するとともに、心理物理学的アプローチに基づき、「人間の情報処理」の解明に取り組んでいるのが認知情報学研究室の浦池教授だ。今回はその両者の共同研究ということである。

これまでポーラでは、加齢により、顔を動かしたときに頬の肌が遅れて動くことを解明した経緯がある。ただしそれらの研究は、顔の目の大きさや肌のシミなどの特徴を主な対象としており、静止したものが多く行われてきた。そこでポーラでは早くから動きにも着目しており、今回、工学院大の社会人大学院生である黒住氏により、時間を伴う「動き」を対象とした共同研究が行われた。

今回の研究では、加齢により顔を動かしたときに頬の肌が遅れて動く現象が、顔の印象に与える影響についての詳細を調べるための実験が行われた。モーションキャプチャで取得された10名の日本人女性の顔モデルを基に、頬の動きが加工された「遅延なし/遅延あり」の2種類、合計20種類の顔モデルが作成され、それらが被験者に提示された。「遅延なし」は頬が表情変化と同時に動き、「遅延あり」は頬が表情変化から0.1秒遅れて動く(50代女性の頬の遅延平均に相当)というものだ。

そして被験者は、10~20代の男女25名。作成された顔モデルを「魅力的である/魅力的でない」で評価。魅力的であるの選択率が、「遅延なし」と「遅延あり」それぞれについて算出された。その結果、遅延ありの場合において魅力度の低下が確認されたのである。

また、以下の2点も判明。ひとつは、物体の動きにおいては気づきにくい0.1秒程度のごくわずかな遅れであっても、人の顔に生じる場合には感知されやすくなること。そしてもうひとつが、その0.1秒の遅れが頬部に生じると顔の魅力度が低下することだ。

現在、ビデオ会議などが当たり前となり、画面に映された相手の顔のみ(ネット環境などにより遅延の発生もあり得る)を見ての会話なども増えている。従って、動いている顔を人がどのように認知して、どのような印象を受け取るのかを明らかにする研究は、今後ますます重要になると考えられるとしている。

  • 顔モデル

    試験時に提示された顔モデル(動作:無表情から口を大きく開ける) (c) 2020 ポーラ化成工業 (出所:工学院大学Webサイト)