名古屋大学(名大)、情報通信研究機構(NICT)、京都大学(京大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、電気通信大学(電通大)、東北大学、国立極地研究所(極地研)の7者は11月12日、いろいろな大きさの淡い光がさまざまな周期で明滅を繰り返す「脈動オーロラ」に伴って、オーロラ電子の1000倍以上もエネルギーの高い「キラー電子」が、宇宙空間から大気に降り込むという新しい理論を提案し、シミュレーションで実証したと共同で発表した。併せて、JAXAの「れいめい」衛星が観測した脈動オーロラ現象とNASAの「SAMPEX」衛星が観測したキラー電子の降り込み現象を説明できることを示したことも共同で発表された。

同成果は、名大 宇宙地球環境研究所の三好由純教授、同・大山伸一郎講師、NICTの齊藤慎司研究員、京大 生存圏研究所の栗田怜准教授、JAXA宇宙科学研究所の浅村和史准教授、同・三谷烈史助教、電通大の細川敬祐教授、東北大 大学院理学研究科の坂野井健准教授、同・土屋史紀准教授、極地研の小川泰信准教授、NASA ゴダード宇宙飛行センタースタッフのSarah Jones氏、米・アイオワ大学理学部のAllison Jaynes助教、エアロスペースコーポレーション シニアスタッフのJ.Blake氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米・地球物理学連合速報誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

オーロラは、太陽表面の爆発現象であるフレアによって放出された電子が、地球磁場に沿って北極もしくは南極上空で大気圏内に突入し、高度200km以上から100km以下までの大気中の原子や分子と衝突して光り輝くダイナミックな物理現象だ。ちなみに上空200km以上の赤色や、100~200kmほどの緑色のオーロラは、飛び込んできた電子が酸素原子と衝突することで生じている色。また、100km以下のピンク色は窒素分子、紫色は窒素分子イオンとの衝突によるものである。

これら大気に飛び込んでくる電子は数keV、温度に換算すると約数千万度という膨大なエネルギーを持つ。見る分にはとても美しいが、まさに太陽からの攻撃(ただし、太陽からしたらくしゃみで飛ばした飛沫のようなレベル)を地球の磁場と大気が受け止めているという、宇宙スケールの攻防の証しだ(大気はこうして少しずつ削られている)。

オーロラには複数の種類があり、数秒間に数回明滅する「脈動オーロラ」と呼ばれるタイプがある。これまで、小型高機能科学衛星「れいめい」やジオスペース探査衛星「あらせ」などによる観測から、脈動オーロラは「宇宙のさえずり」と呼ばれる宇宙空間で発生する周波数が数kHzの特殊な電波によって起こることが示されてきた。

このオーロラを発生させる電子のほかにも、1秒以内の短い時間で、しばしば宇宙から飛び込んでくる異なるエネルギーを持った電子がある。この電子は数千keV=数千億度という高いエネルギーを持っていることがわかっており、「マイクロバースト」と呼ばれている。

マイクロバーストは、地球周辺に存在するヴァン・アレン帯(放射線帯)に存在する電子が、大気に向かって降り込んできたものと考えられている。マイクロバーストを起こす電子は非常に高いエネルギーであるため、人工衛星を故障させる危険性があることから、「キラー電子」と呼ばれている。しかも、このキラー電子は衛星を故障させるだけでなく、大気に飛び込むと高度60km付近の中間圏まで深く降り込んできて、その近辺のオゾンを破壊する可能性まで指摘されている。

  • キラー電子

    脈動オーロラ発生時に大気に降り込むキラー電子のイメージ (出所:東北大学プレスリリースPDF)

今回の研究では、国際共同研究チームによって開発されたコンピューターシミュレーションを用いて、「宇宙のさえずり」と電子との相互作用の計算が行われた。このシミュレーションは、数十万個超の電子の軌跡を追跡するという内容だ。「宇宙のさえずり」との相互作用によって電子がどのように変調されて大気へと降ってくるかについて、電子のエネルギーや降ってくるタイミングを正確に特定するために行われた。

シミュレーションは、宇宙空間で観測されている「宇宙のさえずり」を模擬したデータを入力するとともに、実際の宇宙空間でのプラズマ環境を模した条件で実施されており、極めて現実的な計算だという。

  • キラー電子

    脈動オーロラとキラー電子のマイクロバーストのシミュレーション結果。このシミュレーションでは、電波が発生してから数百ミリ秒後に、脈動オーロラとマイクロバーストが起こることが示されている (出所:東北大学プレスリリースPDF)

  • キラー電子

    シミュレーションによる降下電子の時間-エネルギーダイアグラム。脈動オーロラとマイクロバーストの電子がどのような関係にあるのかを示したもので、エネルギーが高いところから低いところまで、筋としてつながっていることがわかる。これは、脈動オーロラとマイクロバーストは、実は一連の現象であることを示したもので、オーロラ電子もキラー電子もほぼ同時に地球大気へと降り込んでいることを示すものだという (出所:東北大学プレスリリースPDF)

計算の結果、脈動オーロラとマイクロバーストの正体は実は同じもので、エネルギーが異なるだけだということが判明した。すると疑問として湧いてくるのが、なぜ10keVと2000keVという、まったく異なるエネルギーのものが同時に降ってくることができるのか、という点である。

今回の研究で提示されたのが、次のような理論だ。「宇宙のさえずり」は、赤道面では比較的低いエネルギーの電子に、緯度が高い場所では高いエネルギーの電子に影響を及ぼしやすいという性質がある。このことと、「宇宙のさえずり」が磁力線に沿って赤道面から緯度が高いところに伝わりやすいという特性を合わせて考えると、以下の流れが考えられるという。

  1. 赤道面で「宇宙のさえずり」が発生し、数keV程度の電子が大気へと散乱され脈動オーロラが起こる
  2. 赤道から高緯度に伝わった「宇宙のさえずり」によって、数千keVのキラー電子が大気に向かって散乱される(マイクロバーストの発生)
  3. 散乱されたキラー電子は高度60km付近まで降り込み、その場所のオゾンを破壊している可能性がある
  • キラー電子

    今回の研究によって判明した、変化の過程を表した模式図。脈動オーロラとマイクロバーストの関係を統一的に説明できるものになるとしている (出所:東北大学プレスリリースPDF)

また国際共同研究チームは、衛星「れいめい」が特定した脈動オーロラを起こす降下電子と、シミュレーションの比較も実施。すると、「れいめい」の観測で示された特徴を再現できることが確認されたとした。

一方、キラー電子に対応する高エネルギー電子についてのシミュレーションは、「SAMPEX」衛星が観測したマイクロバーストの特徴を再現したという。これは、今回提案した理論の妥当性を示すものだとする。なお「SAMPEX」は、NASAが1992年に打ち上げ、約600kmの高度において高エネルギー荷電粒子の計測を行ってきた科学衛星だ。

今回の研究結果は、脈動オーロラが起きているときには、その下の高度約60kmの中間圏においてオゾンの破壊が同時に起きている可能性が高いことを示すものだとする。中間圏オゾンの変化は、気候変化にも影響を及ぼすことが指摘されている重要な事象だ。今回の研究成果は、宇宙からの電子の降り込みと地球大気との関係の理解につながる重要なものとしている。

また、今回の研究で理論的に示されたを脈動オーロラ中のキラー電子を測定するため、2021年12月に米アラスカ州において、NASAとJAXA、名大、電通大、東北大などが共同でロケット実験「LAMP」を実施する計画が発表されている。