9月27(日)にオンラインイベント「2050年、みらいのお月見! ちきゅうをながめながら、何食べる?」を開催しました。未来の宇宙の食に詳しい、一般社団法人 SPACE FOODSPHEREの田中宏隆さんと菊池優太さん、そしてわたくし科学コミュニケーターの中島朋が未来館からお送りしました。さらにスペシャルゲストとして、はまぎん こども宇宙科学館の鈴木啓子さんにもオンラインでご参加いただき、事前アンケートの結果発表や宇宙での食事に関する来館者からの質問をご紹介いただきました。このブログでは、番組のハイライトをお届けします!

なお、当日と同様に、ひろさん(田中さん)、きくにぃ(菊池さん)の愛称でお呼びしたいと思います。

イベントの前半は、未来館のシンボル展示「ジオ・コスモス」に月を投影した画像を背景にお送りしました
右) 田中 宏隆 氏 (株式会社シグマクシス ディレクター / 一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 理事)
中央) 菊池 優太 氏 (JAXA 新事業促進部 J-SPARCプロデューサー / 一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 理事)
左) 中島 朋 (日本科学未来館 科学コミュニケーター)

お月見弁当 投票結果発表!

イベントに先立って行われたお月見弁当 人気投票「2050年、地球をながめながら月面でどのお弁当を食べたい?」では、全国2850名のみなさんに投票いただきました!

気になる結果は・・・

「ちきゅうべんとう」と「うちゅうべんとう」の絶大な人気は一目瞭然!高くても食べ慣れた味を求めて「ちきゅうべんとう」を選んだ方、また、アレルギー対応がしやすそうという理由で「うちゅうべんとう」を選ばれた方もいました。

一方、バッタフライのイラストがリアル!虫が苦手!という声も多く寄せられたこともあり、「月べんとう」は王座獲得ならずという結果に。今回はこのような結果でしたが、ひょっとすると30年後の未来には、「月べんとう」が売れ筋No.1になっているかもしれません!

未来の食ってどんなもの?

宇宙での食事について事前に寄せられた質問やオンラインイベント中に視聴者のみなさんから届いた質問を、ひろさんときくにぃに時間いっぱい答えていただきました。ブログではその一部をご紹介します。全貌が気になる!という方は、ブログ最下部の関連リンクから動画をチェックしてみてくださいね。

質問:宇宙で食べものを育てることができますか? (東京都 4歳 まちに森ひとに愛さん)

ひろさん 地球から月へ食べものを運ぶとなると莫大な輸送費がかかるので、将来的には月で食料生産を行うのが一般的になると思います。といっても、地上のように月面で牛や豚などの動物を飼育するのは難しいので、それらに代わるお肉(代替肉)の開発が進められています。たとえば、牛や豚の細胞を増やして作る「培養肉」は、50~70ものベンチャー企業が開発に取り組んでいます。広大な農場で、数年間たくさんのエサや水を与えて育てる牛とは異なり、工場で数か月という短い期間でお肉を作ることができるので、環境への負荷が少なく地球環境にも優しいといわれています。

野菜に関しては、植物工場の開発が進んでいます。レタスをはじめとした葉物野菜を効率的に栽培でき、栄養素をコントロールすることもできます。たとえば、特定の栄養素を高くした野菜を粉末にしてスムージーに入れることで、効率的に栄養補給が可能です。宇宙では資源が限られるので、形が崩れた野菜や使わなかった部分も捨てずに使いたいですね。シート状に加工することで、無駄なく食べることもできます。

野菜もお肉も、地産地消ならぬ、月産月消(げっさんげっしょう)です。

培養肉が当たり前になった未来では、新しい農場の形が生まれそうです

中島 月の土であるレゴリスは、地球の土のように植物を育てられますか?

きくにぃ レゴリスは、有機物や様々な栄養素を含む地球の土壌とは異なり、植物の栽培には適していません。何かを育てるというよりは、建物を作る材料として使われると思います。今のところ、宇宙に持ち込めるものには制限があり、さまざまな菌を含む地球の土をそのまま宇宙に持って行くことはできません。もちろん、多くの人たちが月に行く時代がやってきたら変わるかもしれませんが、月での植物の栽培は、月にあるとされる水を使った水耕栽培の可能性が高いです。

地球と月の比較。最近の研究で月にも水があることがわかってきました

ひろさん 土といえば、虫から肥料や飼料を作る技術も開発されています。こういう技術を使うことで、月でも肥沃な土を作り出すことができるかもしれませんね。そして、「月べんとう」にはバッタフライのような昆虫食が登場していましたが、昆虫をそのままの形で食べるのではなく、たとえば蚕を粉にして、ケーキやパンに織り込んで食べるという商品もあります。そうすることで、昆虫の見た目に抵抗感がある方でも、昆虫の豊富なタンパク質を摂取することができます。

きくにぃ 月では、飼育するためのエサや場所に限りがあるので、効率的に飼育ができたり、さまざまな用途にもなったりする虫が大活躍する時代が訪れるかもしれませんね。

昆虫のさまざまな可能性に驚き!

中島 視聴者から、「月に行った人のうんこは土にできますか?」との質問が届きましたが、いかがでしょう?

きくにぃ できますか、ではなく、するんです!まさに今、その研究も始まっています。国際宇宙ステーションでは、宇宙飛行士の尿をろ過して飲み水や生活用水にするなど、水をリサイクルさせて使っていますが、大便のリサイクルはまだされていません。大便を肥料にすることは現在の地球でも用いられている方法なので、いずれ宇宙でも利用できる技術を確立し、全てのものを循環できるようにしたいと思っています。

質問:未来の普段の食事はどうなっているのでしょうか? (はまぎん こども宇宙科学館 来館者より)

鈴木さん 来館者の方から、「将来、月に住むようになった時の普段の食事はどうなっているのだろう?」という疑問の声を多くいただきました。いかがでしょうか?

きくにぃ 今回のイベントは「2050年のお月見」ということでしたが、わたしはひろさんと共に、少し手前の未来である「2040年の月面での生活」をイメージし、その時に必要となる食についてたくさんの人と一緒に考えています。きっとその頃には、100人ほどが暮らす基地ができ、食堂が必要になるでしょう。その食堂には自動ロボットがいたり、個々人の健康状態がすべてデータ管理され、各々に合わせた料理をシェフが振舞ってくれたりするかもしれません。また、お祭をして盛り上がることもあるでしょう。この図はお正月のようすで、餅つきの臼の横にいるのはアバターのロボットです。このロボットを操作している人は、地球にいます。地球と月で、距離は離れていますが、このようにロボットを通して月で活動をする日がやってくるかもしれませんね。

重力が1/6の月面では、餅つきもダイナミック!

ひろさん 現在、さまざまなフードロボットが実用化されています。たとえば、自動でハンバーガーを作るハンバーガーマシーンは、アメリカのサンフランシスコで、クレープの生地を作るクレープマシーンは、千葉県の舞浜のお店で使われています。実際にそういったお店に足を運んで、未来の宇宙を想像しながら、今あるフードロボットのような技術を体感してほしいと思います。

質問:やっぱり人には食事が必要ですか? (神奈川県 38歳 かりんさん)

ひろさん 深い質問ですね。歴史をたどると、2000~3000年前における食事には、宗教や政治、儀式などのいろんな意味があったといわれています。現代では、食事を効率的にサクッとすませる人も多いですが、食事を娯楽として楽しんだり、誰かと一緒に食べることで幸せを感じたりする人もいるでしょう。また、料理を作っている人と一緒にいると、話しづらいことが話しやすくなるということがあるそうです。栄養補給以外の食事の必要性は個々人で異なりますが、食事はより豊かな人生につながっていくとわたしは思います。

きくにぃ 国際宇宙ステーションでは、食事は大事なコミュニケーションの時間です。また南極では、メンバー全員がそろっているかという点呼の意味合いもあるそうです。この先、いろんな人が宇宙に行けるようになった時、美味しく楽しい食事が人の心を穏やかにし、基地内の安全にもつながると思います。

未来の月での食を考えることは、地球の未来を考えること

ここまで、未来の月面での食事や最先端のフード技術についてのお話を紹介してきました。一見、宇宙での食に関するお話ですが、お二人によると「未来の月での食を考えることは、地球が抱えている食の課題の解決にもつながる」そうです。そこで、お二人が所属されているSPACE FOODSPHEREの取り組みについてもお話を伺いました。

きくにぃ 月で暮らすとなると、資源が非常に限られているので、乗り越えなければならない課題が数多くあります。そこでわたしたちは、課題の解決に向けて、主に2つのテーマに挑戦しています。1つ目が、月で育てた食材をすべて無駄なく調理し、完全リサイクルする技術の開発。2つ目が、食事が持つ価値を再認識し、心身を健康に保つための新しい食事スタイルの検討です。これらは、人口増加における食糧危機や災害時の食事をどうするかなどの、現在の地球における課題の解決にもつながります。つまり、月での食を考えることは、地球の未来を考えることでもあるのです。

ひろさん わたしは、非常食に注目しています。非常食は、一般的に災害時にのみ食べるイメージだと思いますが、近頃そのイメージを変える「フェーズフリー」という考え方が登場しました。それは、平常時と災害時の境目をなくすというものです。災害が起こった時、避難所に行って食べる食事が普段と変わらない、もしくは家よりも美味しいものが食べられたらどうでしょうか。イタリアでは、避難所にトラックが停車して、ワインやビュッフェスタイルの食事を楽しむこともできるそうで、不安な気分が落ち着きそうです。このようないつどこでも美味しい食事を楽しめるような商品・サービスづくりはさまざまなところで注目されており、こういった商品や考え方は、地球とは環境が大きく異なる月面でも利用することができます。

宇宙の食を考えるといいながら、明日の地球の食にも関わることなので、共に活動している仲間たちは本当に楽しそうに取り組んでいます。

左半分は地球、右半分は月での暮らし

さて、いかがでしたでしょうか。夢のような話が現実になりつつあるということに驚きましたし、とても楽しそうに話されるお二人の姿も大変印象的でした。番組は、下の関連リンクからご視聴いただけますので、まだの方はのぞいてみてくださいね!

また、今回のお月見弁当人気投票にご協力いただいた館をはじめ、全国の科学館では新型コロナ感染症対策を行い、みなさんのご来場をお待ちしています。ぜひ、お近くの科学館にも足を運んでみてください!



Author
執筆: 中島 朋(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
高校生の時に宇宙飛行士が話す講演会に参加し、宇宙と宇宙飛行士に魅了される。その後、宇宙に関する研究をしたくて大学では物理学を専攻するも、なぜか放射線検出器の開発をすることに。そこで小さな電子部品の可愛さを知る。多くの方々とともに、科学と社会のより良いあり方を考えたいと、高校理科教諭を経て未来館へ。趣味は、宇宙飛行士のおっかけと有人宇宙開発に関する情報収集。