国民年金の保険料をうっかり納付し忘れてしまったり、納付できなかったりした場合は、どのような問題が起こるのでしょうか。国民年金の保険料が未納だとどんな不利益があるのか、未納を解消するにはどうすればいいのかを解説します。

年金保険料が未納だとどうなる?

国民年金法により、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満の人は、国民年金に加入するものとされ、年金保険料の納付が義務づけられています。年金保険料を納めなくても罰金を科されたりすることはありませんが、下記のようなデメリットがあります。

(1)最後には差し押さえを受ける場合がある

国民年金法では、95条に保険料の徴収は「国税徴収の例による」との規定がありますので、年金保険料を滞納した場合は、国税の徴収と同様の手続きがとられます。具体的な流れは次のとおりです。

1. 納付督励

日本年金機構より委託を受けた業者から、文書や電話、戸別訪問による納付の督励があります。

2. 特別催告状

未納状態を続けていると、特別催告状が届きます。

3. 最終催告状

特別催告状を受けても未納状態を続けていると、最終催告状が届きます。この指定期限までに納付しないと「納付督促」が発送されます。

4. 督促

督促状である納付督促が届きます。これは、最終催告状よりも重く、指定期限までに納付できなければ、財産の差し押さえが行われることを伝えるものです。

5. 差し押さえ通知書

納付督促の期限までに納付がないと滞納処分開始となり、差し押さえ通知書が届きます。

6. 差し押さえ

財産が差し押さえされます。差し押さえまでの間には何度も文書や訪問での納付督励があり、いきなり差し押さえが行われることはありません。

(2)年金が未納だと受け取れる年金額が減る

将来、受け取れる国民年金の額は、年金保険料を納めた期間が短ければそれだけ少なくなります。未納の場合、どうなるのか見ていきましょう。

・納付期間が10年に満たない場合は、将来年金が受け取れない

国民年金(老齢基礎年金)を受け取るには、保険料納付済み期間と保険料免除期間を合計した受給資格期間が10年以上あることが必要です。10年に満たない場合は、年金を受け取れません。

・障害年金や遺族年金が受け取れない場合がある

国民年金には、65歳以上が受け取れる「老齢基礎年金」のほか、ケガや病気で障害認定を受けた際に受け取れる「障害年金」、被保険者が亡くなったときにその遺族が受け取れる「遺族年金」の3つがあります。保険料を滞納していると、もしものときに障害年金や遺族年金が受け取れない場合があります。

  • 年金の納付をきちんとしましょう

    年金の納付をきちんとしましょう

国民年金保険料の未納率は約30%

近年では、国民年金の未納率の高さが度々問題になっています。厚生労働省によると、2019年度の国民年金保険料の納付率は69.3%でした。日本年金機構が徴収体制を強化していることもあり、2011年から8年連続で数字は上がってはいるものの、納付率は70%には届いておらず、30%以上が未納状態です。

未納の理由としては、「年金保険料の負担が大きく、経済的に納付が困難」との答えが多くなっています。国民年金・厚生年金を問わず、公的年金は被保険者の保険料納付が義務づけられていますので、たとえ嫌でも払わないというわけにはいきません。未納状態が続くと、最終的には財産の差し押さえを受ける可能性があります。

■私的年金への加入は任意

一方、国民年金・厚生年金以外の年金は、すべて「私的年金」となります。私的年金は任意加入のため、利用するかしないかは個人の判断にゆだねられています。 主な私的年金として、国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)、確定給付企業年金、民間の保険会社が販売する個人向け年金商品などが挙げられます。

毎年誕生月に年金の納付状況を知る方法

自分の年金保険料の納付状況は、毎年誕生月に日本年金機構から郵送されてくる「ねんきん定期便」や、ウェブサイト「ねんきんネット」から確認することができます。

■ねんきん定期便を利用する

通常のねんきん定期便は、はがき形式で直近1年間の納付した情報と、これまでの加入実績に応じた年金額、年金見込額が書かれています。35歳、45歳、59歳を迎える年に限り、全期間の年金記録情報が書かれた書類が封書で届きます。

■ねんきんネットを利用する

日本年金機構が運営する「ねんきんネット」に登録しておけば、いつでもウェブサイト上で自分の年金記録を確認できます。

  • 政府のサイトを活用して納付状況を確認しましょう

    政府のサイトを活用して納付状況を確認しましょう

年金保険料の納付方法は3種類

年金保険料の納付を忘れてしまう人は、納付方法を見直してみましょう。年金保険料の納付方法には、口座引き落とし、クレジットカード払い、納付書による現金払いの3つがあります。

■口座振替

手間をかけずに、年金保険料の納付忘れを防ぐには、銀行口座から自動で引き落とされる口座振替を利用するのがおすすめです。その際、通常より1カ月早く引き落とされる「早割」にすると、年金保険料が約0.3%割引になるのでお得となります。

6カ月、1年、2年分を前納することもでき、口座振替で2年分を前倒しした場合、1万5,840円分の年金保険料が割引されます。

■クレジットカード払い

年金保険料は、6カ月~2年分を前納するなら、クレジットカードで納付することが可能です。納付の前に申請手続きが必要ですが、2年分前納すると最大1万4,590円分の年金保険料が割引になりますし、カード会社のポイントも貯まります。

■納付書による現金払い

年金保険料は、コンビニ等で納付書を使って納付することも可能です。6ヵ月~2年分を現金で前納でき、2年分を前納すると、1万4,590円分の保険料が割引になります。

年金保険料が納付できない場合の対処法

年金保険料の納付が難しい場合は、「国民年金保険料免除制度・納付猶予制度」を利用することができます。制度の申請が受理されると、年金保険料の免除や納付猶予が認められた期間は、年金の受給資格を判断するうえで「納付していた期間」とみなされます。

年金保険料の納付が厳しい場合は未納にしておくのではなく、これらの制度を利用してみましょう。

■国民年金保険料免除制度

所得が少なく、本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合は、年金保険料の全額または一部が免除されます。年金保険料が免除となる所得の基準は下記のとおりです。なお、免除された保険料に応じて、将来受け取れる年金受給額は調整されます。

保険料免除となる所得の基準

所得の基準
全額免除 本人・世帯主・配偶者の前年所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円」の範囲内
4分の3免除 本人・世帯主・配偶者の前年所得が「78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の範囲内
半額免除 本人・世帯主・配偶者の前年所得が「118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の範囲内
4分の1免除 本人・世帯主・配偶者の前年所得が「158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等」の範囲内

※日本年金機構(2020年10月時点)
※「扶養親族等控除額」と「社会保険料控除額等」は、年末調整・確定申告で申告された金額です。

■国民年金保険料納付猶予制度

20歳以上50歳未満の人で、本人・配偶者の前年所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円の範囲内」の場合、年金保険料の納付猶予を受けることができます。 納付猶予期間は年金の受給資格期間に算入されますが、老齢基礎年金の受給額が増えることはありません。

■失業等による特例免除

失業した方や、事業を廃業または休止の届出を行っている方が、「失業等による特例免除」の申請を行うことで、年金保険料の納付が免除になったり、猶予されたりすることがあります。申請には、雇用保険の被保険者だった場合は、雇用保険受給資格者証の写し、または雇用保険被保険者離職票等の写しが必要です。

また、事業の廃止または休止の届出を行っている方は、厚生労働省が実施する総合支援資金貸付の貸付決定通知書の写しおよびその申請時の添付書類の写しなど、さまざまな書類が必要ですので、書類や手続き方法については、日本年金機構のウェブサイトを確認しましょう。

■学生納付特例制度

学生本人の本年度所得が「118万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等」の範囲内であれば、申請すれば、在学中の年金保険料の納付が猶予されます。納付猶予期間は年金の受給資格期間に算入されますが、老齢基礎年金の受給額には反映されません。

■国民年金保険料の産前産後期間の免除制度

国民年金保険料の産前産後期間の免除制度は、住民登録している市区町村の役所に届け出ることで、出産予定日または出産日が属する月から4カ月間の年金保険料が免除されるというもの。年金保険料の免除期間は年金の受給資格期間に算入されるうえ、年金保険料を納付したものとして、老齢基礎年金の年金額にも反映されます。

■配偶者からの暴力による特例免除制度

配偶者からの暴力(DV)により家を出て、配偶者と住居が異なる方は、配偶者の所得にかかわらず、本人の所得が一定以下であれば年金保険料の全額または一部が免除になります。免除に該当する所得は、上記表の国民年金保険料免除制度と同じです。

■新型コロナウイルス感染症の影響による免除制度

2020年2月以降に、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少し、所得見込み額が保険料免除制度の基準相当まで落ち込むと見込まれる場合は、年金保険料の免除申請が可能です。免除期間は、2019年度分が2020年2月分から6月分まで、2020年度分が2020年7月分から2021年6月分までとなります。

なお、免除された年金保険料は、10年以内であれば後から納めることができます。免除された期間があると、将来の受給額は少なくなりますので、後から納められるなら納めたほうがいいでしょう。

  • 場合によっては免除制度も活用しましょう

    場合によっては免除制度も活用しましょう

年金保険料の未納を解消する方法

年金保険料の納付ができない状況でも、免除制度・納付猶予制度の申請を出すのと出さないのでは、将来受け取れる年金受給額が全く変わってきます。ここでは、年金保険料の未納を解消する方法を見ていきましょう。

■年金保険料が未納の方は年金事務所に相談

免除制度・納付猶予制度の申請方法がわからない、または現在すでに未納状態にあって、催告状等に書かれた期日内の納付が難しい場合は、年金事務所に相談してみましょう。

免除制度・納付猶予制度の申請を行っておくことで、未納状態を回避し、将来の年金受け取り資格を守ることができます。

■年金保険料は、過去2年間はさかのぼって納付できる

年金保険料は、納付期限に遅れてしまっても、納付期限から2年以内なら納付することができます。余裕ができた場合は、さかのぼって納付することで、未納状態を解消できます。

  • まずは年金事務所に相談しましょう

    まずは年金事務所に相談しましょう

年金保険料は、免除制度・納付猶予制度を活用して未納を回避しよう

年金保険料を未納のまま放っておくと、最終的には財産の差し押さえを受ける可能性がありますし、将来において老齢基礎年金が受け取れないこともあります。さらに、もしものときに障害年金や遺族年金が受け取れなくなるかもしれません。

納付が難しい場合は、免除制度や納付猶予制度を利用することで、未納状態を回避できます。年金事務所からの納付のお知らせは放置せず、まずは年金事務所に相談するようにしましょう。