ロシア航空宇宙軍は2020年10月26日、全地球衛星測位システム「GLONASS」を構成する衛星「GLONASS-K 15L」の打ち上げに成功した。

ロシアは老朽化しつつあるGLONASS衛星の更新を急いでいるが、そのかなめとなるGLONASS-Kの打ち上げは今回が6年ぶりにして3機目と大きく遅れており、さらに性能向上を目指した改良型衛星「GLONASS-K2」の開発も遅れているなど、前途は多難だ。

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    GLONASS-K 15Lを搭載したソユーズ2.1bロケットの打ち上げの様子 (C) Roskosmos

GLONASS-K 15Lを搭載したソユーズ2.1bロケットは、日本時間10月26日4時8分(モスクワ時間25日22時8分)、ロシア北西部のアルハーンゲリスク州にあるプレセーツク宇宙基地から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約3時間半後に衛星を分離。所定の軌道に投入した。その後、衛星との通信確立にも成功し、搭載システムが正常に動作していることを確認しているという。

この打ち上げで、軌道上にあるGLONASS衛星は28機となり、今回打ち上げられたGLONASS-K 15Lは試験を行ったのち、定常運用に入る。

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    打ち上げを待つソユーズ2.1bロケット (C) Roskosmos

GLONASSの現状と今後

GLONASS(グラナース)は、ロシアが米国の「GPS」に対抗する形で運用している全地球衛星測位システムで、ロシア軍向けと一般向けの信号を送信しており、後者はスマートフォンなどを通じて、誰でも利用することができる。

GLONASSとは、全地球衛星測位システムを意味するロシア語の「Globalnaya Navigatsionnaya Sputnikovaya Sistema」の頭文字から取られている。また、個々の衛星にはロシア語で「ハリケーン」や「竜巻」を意味する「ウラガーン(Uragan)」という名前も付けられているが、最近の衛星では公式にはあまり使われていない。

衛星の開発、製造は、ロスコスモスの子会社であるISSレシェトニョーフが担当している。

GLONASSは冷戦時代の1970年代に計画が始まり、1982年に最初の衛星が打ち上げられた。この初期型の衛星は設計寿命がわずか3年と短く、さらにソ連解体後のロシアの資金難から新しい衛星の開発や打ち上げが滞ったこともあって、90年代にはGLONASSは機能不全に陥った。

2001年になって、ようやく新型の衛星となる「GLONASS-M」の打ち上げが開始。GLONASS-Mは設計寿命が7年と伸び、測位性能も向上した。今年の3月にも1機が打ち上げられるなど、これまでに45機が打ち上げられ、GLONASSのシステムの根幹を担っている。

一方、2000年代後半には、GLONASS-Mも性能が旧式化しつつあったことから、後継機となるGLONASS-Kの開発が決定。GLONASS-Mは、ソビエト・ロシアの衛星の伝統でもある、頑丈な容器に窒素ガスを充填し、その中に電子機器などを搭載する与圧式衛星バスが使われていたが、GLONASS-Kでは欧米の衛星と同じような非与圧式のバスとなり、質量はGLONASS-Mの1415kgから、935kgへと大幅な軽量化を実現。さらに熱制御システムの刷新もあって、設計寿命もGLONASS-Mの7年から、10年以上へと伸びるなどし、これによりコストが半減することが期待された。

さらに測位信号の精度も数十cm級にまで向上し、衛星を使った捜索救助システムであるコスパス・サーサットの機器も搭載するなど、信頼性や性能、機能の向上により、ロシアの衛星航法システムの安定した運用を保証することを目指している。

当初、GLONASS-Kは試験機を2機開発し、軌道上で試験を行ったあと、実運用機となる改良型のGLONASS-Kを開発し、打ち上げる計画となっていた。この改良型には、測位信号を出す機器を増やしたり、大電力に対応するため太陽電池を大型化したりといった改良が施される。公式には、両機の名前は分けられてはいないが、西側などでは改良型をGLONASS-K2と呼ぶこともある。

当初の計画では、2005年からGLONASS-Kを打ち上げ、2011年ごろにはGLONASS-Mを完全に置き換える計画だった。しかし、開発は遅れ、結局GLONASS-Kの1号機が打ち上げられたのは2011年になってからだった。その後も打ち上げのペースは上がらず、2014年にようやく2機目が打ち上げられただけだった。

また、GLONASS-K2の開発も大きく遅延。その原因について、ロシアの宇宙開発に詳しいRussianSpaceWebのAnatoly Zak氏によると、「2014年のクリミア併合後、ロシアが欧米からの電子機器の輸入を禁止されたため」だという。すなわちGLONASS-Kは、少なくとも初期の生産分に関しては、完全なロシア国産の衛星ではない可能性が高い。

その一方で、運用中のGLONASS-Mの寿命が次々に迫っていたこともあり、計画を変更し、GLONASS-Kを追加で9機発注し、GLONASS-Mの後継機にあてる羽目となった。今回打ち上げられたのは追加で発注されたうちの最初の1機である。もっとも、その製造も電子機器の輸入禁止の影響で遅れ、2号機からじつに6年ぶりの打ち上げとなった。

次回のGLONASS-Kの打ち上げは今年12月に予定されている。また、GLONASS-Mもあと1機が打ち上げられる計画となっている。

なお、GLONASS-K2の1号機の打ち上げも近いとされるが、現時点で詳しい打ち上げ日時などは発表されていない。

現在軌道上で運用に就いているGLONASS-Mのなかには、2007年や2009年、2010年あたりに打ち上げられ、すでに設計寿命を超過している衛星も多い。ロシアが今後、GLONASS-Kの打ち上げ、そしてGLONASS-K2の開発と打ち上げを速やかに進めることができなければ、ふたたびGLONASSが機能不全に陥る可能性もある。

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    GLONASS-Kの想像図 (C) JSC ISS Reshetnev

参考文献

Russian Aerospace Forces successfully launches "Soyuz-2" rocket carrier from Plesetsk cosmodrome : Ministry of Defence of the Russian Federation
https://www.roscosmos.ru/29474/
http://www.russianspaceweb.com/glonass-k-15.html
Glonass-K
Constellation status