今回は未来館の研究エリアに入居している、京都産業大学の遠藤斗志也先生が率いる研究室「ミトコンドリア生合成プロジェクト」の紹介をしたいと思います。

私たちの体は細胞からできています。私たちが健康でいられるのは、その細胞ひとつひとつが、正しく働いているから。

遠藤先生の研究室では、私たちの健康に関わっている細胞の中の器官のひとつであるミトコンドリアの研究をしています。

まずはミトコンドリアって何? というところから説明しましょう。

生物の細胞の中にはいろいろなものが入っています。下の図を見てみましょう。これは動物の細胞の模式図です。

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DNAが入っている核、タンパク質の合成などを行う粗面小胞体、不要になったものなどを分解するリソソームなど膜で区切られたさまざまな小器官があります。ミトコンドリアもその細胞内小器官の一つで、エネルギーを生みだす役割を担っています。私たちは体を動かしたり食べ物を消化したり、いろんなことにエネルギーを使っていますが、そのエネルギーのもとを生み出しているのが、ミトコンドリアなのです。このほかにもさまざまな代謝やアポトーシス(細胞死)にもかかわっており、私たちの体で非常に重要な働きをしています。

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ミトコンドリアは赤血球などの一部の細胞を除いて、ほぼすべての細胞の中にあります。一つの細胞に含まれるミトコンドリアの数は、数百から数千個といわれています。ミトコンドリアがうまく働かなくなると、老化や神経変性疾患、糖尿病、がんなどの原因にもなってしまいます。そのため、私たちが健康に生きていくためにはミトコンドリアがきちんと働いてくれることが非常に大切なのです。

ミトコンドリアは主に約千種類のタンパク質と数百種類の脂質でできていることがわかっていますが、ミトコンドリアが正しく機能するためには、ミトコンドリアの外にあるタンパク質や脂質をミトコンドリア内部に運び込む必要があります。運び込まれたタンパク質はミトコンドリアの形を作る材料となったり、ミトコンドリアが正しく働くためのエネルギーになったります。また、この外からの運び込みには、ミトコンドリアの中にあるいろいろなタンパク質も関わっています。つまり、ミトコンドリアがどのような仕組みで機能しているかを知るためには、ミトコンドリアに関わるそれぞれのタンパク質の形や働きを理解する必要があるのです。そのため、遠藤先生の研究室ではミトコンドリアの中でまだ機能がわかっていないタンパク質の解析を行っています。

それでは、遠藤先生たちの研究で働きが解明されたタンパク質を実際に見ていきましょう。

はじめに、ミトコンドリアの中をもう少し詳しくのぞいてみましょう。

ミトコンドリアは外膜、内膜と呼ばれる2枚の膜で構成されています。

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ミトコンドリアの外から運ばれてきたタンパク質や脂質を中に入れるためには、それらを外膜から内膜へと運ばなければなりません。特に謎に包まれているのが、脂質の運び込みです。なぜなら、その2つの膜の間には油(脂質)が溶けない水の区画があるからです。

しかし、「水と油」という言葉があるように、油は進んで水の方へは行きたがりません。これまで脂質が二枚の膜を移動していることはわかっていましたが、どのようにして水の中を通って目的地に運ばれていくのかは謎でした。同時に、細胞内にある数多くの脂質の中から、運ぶべきものがどのように識別されているのかもわかっていませんでした。

遠藤先生たちは、脂質を目的地まで運ぶ Ups1-Mdm35という輸送タンパク質を調べることで、初めてこの識別と運び込みの仕組みを解明したのです。

では、実際に構造解析した Ups1タンパク質を空間充填モデル(CPK)で見てみましょう。

下の図は実際の構造をもとにコンピューターグラフィックで描いたものです。

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・コンピューターグラフィックで描いたUps1-Mdm35(構成する元素によって色を分けていますので、実際のタンパク質の色とは違います。

形を外から見ただけではわかりませんが、このタンパク質のポイントは内側をのぞき込むと見えてきます。

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  • Ups1の断面図

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・脂質合成に欠かすことができないリン脂質分子(ホスファチジン酸)

この青いものが水素(H)、赤い部分は酸素(O)、黄色のところはリン(P)

なにかカラフルなものが見えてきました。その正体はミトコンドリアの外から中に運び込まれるリン脂質分子(ホスファチジン酸)です。

次に、リン脂質分子を外して、先ほどとは違う断面を見てみましょう。

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・Ups1-Mdm35タンパク質

なんだかツボのような形をしていますね。この形が、物質の識別と運び込みという二つの謎を解明するカギになります。

まず、このツボのようにへこんだ部分には目的のリン脂質を引きつける性質があり、必要なものを識別して中に引き込みます。

そして、この入れ物のようにへこんだ部分にリン脂質が入ります。この状態で外膜から内膜へと移動することで、水に溶けない脂質を運ぶことができるのです

水の区画を通って脂質を届けるためには、このような形が重要だったんですね。

このように、タンパク質の形はその働きと大きく関係しています。

遠藤先生の研究では、こうしてUps1タンパク質の形を調べることで、脂質がミトコンドリアの中にどのように運ばれるのかを解明したのです。

遠藤先生の研究室では私たちの健康に欠かせないミトコンドリアで働くタンパク質の形や機能を調べることで、ミトコンドリアの構造や働きの全貌の解明を進めています。

私たちの体の中には、およそ10万種類ものタンパク質があり、生命活動を支えています。

タンパク質は生命を構成する基本分子であり、その形や働きを調べることは、私たちの体がどのように構成され、働いているかを知る非常に重要な手がかりになります。

遠藤先生の研究が進むことによって、私たちの体の仕組みや病気の原因がわかるようになり、それが私たちの健康につながっていくでしょう。



Author
執筆: 八田 愛理奈(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
高校生の頃に、虫歯を治したい!という思いから幹細胞に興味をもちました。学生の頃は間葉系幹細胞を使った骨の研究で修士号(医学)を取得。科学の不思議や可能性について追求、共有したいと思い未来館へ。