相続を争族にしない|京都産業大学 渡邉教授へ取材!

「相続を争族にしない」をテーマに、京都産業大学の渡邉教授に取材しました。なぜ争族は起こるのか、そして性的マイノリティの方に起こっている相続問題について詳しく伺いました。

渡邉教授の研究テーマ

(インタビュアー:相続弁護士ナビ編集部 酒井)

酒井:まずはじめに渡邉教授の研究テーマを教えてください。

渡邉:LGBTIと呼ばれる人たちの家族の問題について主に研究しています。具体的には、同性カップルの結婚や同性カップルの親子、性別の変更、第三の性別などが認められるのかといった問題です。今日のテーマに関しては、相続法改正の際には、パブリックコメントを出しました。

争族の定義や原因

酒井:そもそも争族とはどのような状況でしょうか?

渡邉:争族は、相続にかけて作られた言葉で、遺産の取り合いになって兄弟姉妹などが争っている状態をいいます。おやじギャグの一種ですから、おじさん向け雑誌の特集テーマなどでよく使われます。

それはともかくとして、争わない相続とはなんだろうと、ふと考えてしまいます。そもそも相続では、争わないことが目的ではないですよね。もしそうであれば、誰か一人が独裁的に決定し、争えないように遺産を分割してしまえばいいのです。しかし、それが相続の正しい姿とは言えません。争わないように話し合いの場を設け、お互いが権利を主張するだけではなく、互いに譲歩しながらも遺産分割協議を行うことがいいのだと思います。

酒井:なかなか定義が難しいところですね。争族は増えているのでしょうか?

渡邉:はい。平成に入ってからは遺言を書きましょうとよく言われるようになり、争族は減ったのかと思いきや、むしろ増えているのです。というのも、昔は長男が両親の財産の多くを相続することが多かったのですが、今では長男以外の兄弟姉妹が自分たちの権利を自覚して、相続権を主張するようになっています。その中で、例えば長男にすべての財産を与える遺言があると争いの種になることが考えられます。

酒井:そういった背景があるのですね。

渡邉:その他には、相続人以外の第三者が遺産分割協議に間接的に関与することが挙げられます。私が実際に聞いた事案としては、相続人である妻自身は相続で争う気はないけれども、借金のある夫から遺産をもらってこいと言われた、というものがありました。この場合、妻は兄弟と争ってまでして、多くの相続財産をもらうことを望んでいるのではありません。かといって夫のことをないがしろにするわけにもいかないので、妻は板挟みになってしまいます。

このように第三者が直接出てこなくても、相続人の後ろから関与して遺産分割がより複雑になるといったことは起きます。

争族を避ける方法

酒井:争族を避けるためにはどうすればいいでしょうか?

渡邉:争うのを避ける方法は、実はありません。法定相続によって遺産分割を行うと、争いを減らすことはできるかもしれません。法定相続は単に人数で割るわけではなく、相続人が得た贈与、被相続人に対する寄与なども踏まえて決められるので、平等を目指すのであれば良い方法と思われます。とはいえ、この場合でも、過去に被相続人からもらった財産や、被相続人への寄与について争いが起こることはありえます。

酒井:なるほど。続いて被相続人と相続人それぞれの立場でできることを教えてください。

渡邉:被相続人ができることは、やはり遺言を書くということです。遺言を書くことで、法定相続人以外の第三者、あるいは法的に認められていない同性のパートナーに遺産を与えることもできます。

酒井:争族を避けるために遺言の存在がとても大きいということですね。

渡邉:ただし、きちんとした遺言でなければ意味がありません。例えば、親が様式を守らずに無効な遺言を書いてしまった場合、争族は余計に酷くなってしまいます。遺言で相続が少なくなる人は遺言が無効だから平等に分配しようと主張しますし、反対に遺言によって相続が多くなる人は、遺言が無効になったとはいえ、遺言の内容に沿った分割が親の遺志に合うと主張します。

このように、無効な遺言をきっかけに様々な立場の人の意見が衝突して、争族に陥ってしまうこともあります。だからこそ、きちんとした遺言を書く必要があるのです。他にも、子どもの1人が自分に有利な内容を考えて、親に遺言を作成するように強要するならば、それも争族の原因になってしまいます。そのために、遺言を書く人が、弁護士に相談して、確実に正しいものを作るというのが現状一番良い方法だと思います。弁護士に相談する際には抱えている問題、状況などの情報も同時に伝えることをおすすめします。

酒井:正しく遺言を書くということが重要なのですね。

渡邉:遺言には今でも誤解がついて回っています。例えば、公正証書によって書かれている遺言のほうが正当性を強く感じてしまうなどです。実際には、自筆の遺言も、公正証書の遺言も、どちらが強いかということはありません。また、親が公正証書遺言を作成したけれども、実際は子どもの1人が考えた文面で作らされていたということも起きています。

酒井:では次に、争族を避けるために相続人ができることを教えてください。

渡邉:相続人がすべきことは、きちんとした話し合いのルールの中で遺産分割を行うことです。兄弟姉妹が抜け駆けして、自分の都合の良い遺言を書くよう親に頼んでいたのでは、親が何通も遺言を書いてしまい、最後の遺言が有効になるといっても、争族になってしまいます。相続が始まる前から、争族が始まっているようなものです。そうならないように、兄弟同士で真摯に話し合いをする場を設ける必要があります。

争族になった場合、どのように対処すべきか

酒井:争族になった場合、どのように解決すればいいでしょうか?

渡邉:一番解決に近い方法は調停の場で話し合いをすることだと思います。調停をすることで全員が納得した形で終われるかどうかはわかりませんが、調停委員という第三者が入ることによって話し合いの内容が整理されます。より納得のいく、公平な形で終わることができるかもしれません。

調停でなくても、公平な第三者を入れてみるのもいいかもしれません。兄弟姉妹だけだと感情がむき出しになってしまいがちですが、第三者がいることで少し冷静に話し合えることが期待できます。まあ、この場合には、間に入る第三者が本当に中立で、どのように話し合いを進めるのかが重要になりますが。

相続法改正における性的マイノリティや事実婚などの方について

酒井:相続において、LGBTの方はどのような問題を抱えているのでしょうか?

渡邉:相続に限らず、婚姻制度とか同性登録パートナーシップ制度というものがない状況において、性的マイノリティの方々を保護することは簡単ではありません。地方自治体で導入されているパートナーシップ登録や宣誓によって具体的な権利を得ることはできません。そのため、現状では法定相続権がない事実婚の間柄の方や同性パートナーの方には、他に法定相続人がいる場合に、遺言を通して遺産を得る方法しかありません。

特に内縁の事実婚のカップルが死亡によって事実婚を解消した場合、離婚のような財産分与の規定も適用されないので、遺言の重要性がより増してきます。

酒井:様々な問題があるのですね。相続法改正には性的マイノリティの方への配慮が足りていないという話もありますが、どういった問題がありますか?

渡邉:今回の相続法改正では「特別の寄与」という新しい制度導入について問題となりました。これは無償で療養や介護、その他労務を提供した者に、相続人ではなくても一定の財産を得ることができるものです。この制度の検討段階では、法律の規定となった案とは別に、親族に限定しないで内縁配偶者やパートナーも対象とする案も出されており、LGBTの当事者団体などもそちらの案を推していました。それは内縁の妻や同性パートナーも特別な寄与を受けられるようにしたいことを主張する意図もありました。しかし、最終的には、最小限度の改正として、「特別の寄与」は相続人ではない親族に限定されてしまいました。

酒井:渡邉教授はどのような策を講じれば、性的マイノリティや事実婚の方の相続問題が解決するとお考えですか?

渡邉:同性婚が法的に認められたら、相続もより簡単になります。そうすれば別に新しい法律を作る必要もないですし、相続に限らず現状の枠組みを利用することができます。同性婚が認められていない現状で、例えば同性カップルが遺言で配偶者の相続と同じようにするというのは、大きな負担です。婚姻にはよい面だけではなく、不利益な側面もあるかもしれませんが、同性婚を導入すれば男女カップルと平等になるでしょう。

最後にメッセージ

酒井:それでは最後にメッセージをお願いします。

渡邉:争族にしないための簡単な方法は存在しません。遺言を書けばいいと言う話ではないですし、そもそも遺言を正しく書かなければ争族の原因となってしまいます。

実は相続というものは思った以上に複雑で、法律に詳しくない人にはわかりづらい制度でもあります。ですから、何をしたいのか目的がはっきりしていれば、まずは弁護士に相談して、どのように実現するのかを考えて、アドバイスを受けるのがよいでしょう。