ソフトバンクの周東=ペイペイドーム

◆ 白球つれづれ2020~第43回・周東佑京

 12球団のファンが固唾を飲んで見守る注目の一大イベント、プロ野球ドラフト会議が26日に行われた。毎年、100人以上のアマチュア選手が指名され、晴れてプロの門を叩く。コロナ禍の今季は部活動が制約を受けたり、主要大会が中止に追い込まれるなど、選手にとってはプロへのアピールそのものが難しい特殊な1年となったが、それだけに人生の新たな門出を迎えて喜びもひとしおだろう。

 そんなドラフトの日に、あえてソフトバンクの周東佑京選手を取り上げた。

 今年なら、それぞれ4球団が競合した早川隆久投手(早大)や佐藤輝明選手(近大)のような“華のドラ1組”ではない。2017年の育成2位指名。最下層から這い上がってきた24歳が今、最も輝いているからだ。

 ともかく、今月に入ってからの働きが目覚ましい。

 優勝マジック「3」で迎えた25日の西武戦。初回から安打で出塁すると、自慢の快速が威力を発揮する。すかさず二盗を決めて盗塁王争い独走の45個目。これは16日の楽天戦から9試合連続の盗塁で、南海時代の73年に在籍した島野育夫に並ぶ球団タイ記録。今月は22試合で19盗塁と、こちらは同じく南海時代の広瀬淑功以来、56年ぶりの月間最多タイだ。チームは今月、まだ5試合を残しているので、いずれの記録も塗り替える可能性は大きい。

 これらの盗塁記録は1番打者として活躍しているからこそである。夏場までは先発メンバーで起用されたり、代走要員としての出番が多かった。だが、9月に入ると打撃の調子が上向き、今月は打率.330に19盗塁(※26日現在)。代走なら盗塁機会は限られるが、1番打者なら出塁すれば走るチャンスは何度でも生まれる。

 「あいつが塁に出れば二塁打と同じ」と、チーム関係者がうそぶく。初回無死一塁で二盗。2番・中村晃選手が安打で続けばあっという間に1点が手に入る。仮に内野ゴロでも一死三塁で柳田悠岐、Y・グラシアルと強打者が控える。かつて阪急の黄金時代に福本豊氏が盗塁世界記録を樹立、縦横無尽に走り回られてライバルチームはお手上げ状態に陥った。それの再現を見るような機動力野球が鷹軍団の新たな武器となっている。


◆ 「一芸主義」と優れた育成システム

 昨年までの周東の打撃と言えば非力さが目についた。しかし、スイングスピードが増した今季は速球に力負けする場面が減り、経験を積むと共に技術も進歩していった。近年のソフトバンクは今宮健太選手の故障などもあって1-2番の上位打線が固定できなかったが、そんな悩みも周東の成長で解消されつつある。まさにチームにとって一石二鳥の「周東効果」だ。

 群馬出身。地元の東農大二高から東農大北海道オホーツクを経てプロ入り。同大学は極寒の地・網走にあり、冬の練習環境は厳しい。それでも1990年代半ばから全国大会出場の常連校となり、現在プロでは井口和朋、玉井大翔投手(いずれも日本ハム)、風張蓮投手(ヤクルト)らが活躍している。そんな「最果ての原石」を発掘・研磨したのがソフトバンクの育成システムだ。

 50メートル5秒7の俊足に目を付けると、育成選手としてじっくり鍛える。1年目にファームで27盗塁をマークし、2年目には一軍でも25盗塁と走り回り、ついには稲葉ジャパンの目に止まって日本代表入りまでつかんでしまった。そして今季の盗塁王もほぼ当確だ。

 ドラフトに話題を戻せば、ソフトバンクは決してドラフト上手のチームとは言えない。ドラフト1位選手だけを見ると、昨年までの10年間で主力選手まで上り詰めたのは12年の東浜巨投手だけ。昨年ルーキーとして目覚ましい活躍を見せた甲斐野央投手だが、今季は故障で一年間を棒に振っている。こうした不振を補って余りあるのが「一芸主義」と育成システムだ。

 150キロを超す未完の原石、強肩なら誰にも負けない捕手、そして周東のような快速ランナー。おもな育成出身を上げるだけでも千賀滉大、甲斐拓也、石川柊太、大竹耕太郎、牧原大成選手らがいる。ドラフト上位指名だけが戦力になるわけではない。育成ドラフトまで含めた総合力がソフトバンク王国を作り上げている。

 今や育成出身も珍しくない時代。指名順位に関わらず、努力してチャンスをつかんだ選手だけが生き残れる。新たなスタート台に立ったプロの卵たちの本当の勝負はここから始まる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)