新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、多くのテレビ番組が収録を休止し、この影響からか芸能人が次々にYouTubeに進出した。その勢いは収録が再開されても止まらず、人気動画が次々に配信され続け、日々話題を集めている。

この状況を、先日出版した共著『YouTube作家的思考』(扶桑社)で、「YouTubeの芸能界化」と表現するのが、放送作家のカツオ氏だ。テレビ番組で活躍しながら、いち早くYouTubeに飛び込んだ同氏は、両方の世界を知る立場からどう見ているのか――。

  • 放送作家のカツオ氏

■YouTubeでも“企画”が必要な時代に

「これまでは、テレビは“企画”、YouTubeは“人”という違いがあった」というカツオ氏。マスに向けて発信するテレビでは、間口の広い企画が必要になる一方、YouTubeは芸能人YouTuberに代表されるように、“その人が何をするか”がチャンネルのテーマになっているケースが多い。

そこから、「YouTubeでも企画が必要になってくる時代になってきました」と変化が。

「例えば、テレビだったら『動物』をテーマにするところで、YouTubeなら『犬』とか『猫』とか、そこからもっと細分化&深化されて『犬のトリミング』に特化したチャンネルもあるんです」と狭く深い、そしてニーズがある領域の企画で活路を見い出す例を挙げ、「もうYouTubeは飽和状態にあるので、今後はブルーオーシャン&インタレステッド(=未開拓で、かつ、実は興味ある&興味を持っている人々がいる)な企画やジャンル、およびチャンネルが必要とされてきている。その中で、僕ら放送作家の活動の場が広がるのではと思っています」と楽しげに語る。

■テレビマンが持つ“情報整理&編集能力”

コロナ禍において、YouTube界で起きた大きな出来事が、相次ぐ芸能人の参入だ。「やっぱり限られた動画視聴の可処分時間の中で、今までたくさん見られていたYouTuberの人たちの時間が、どんどん芸能人に侵食されている部分がすごくあると思います」と言うように、競争が激化することになった。これが“YouTube2.0”だという。

これに加えて起こりつつあるのが、テレビディレクターたちの参入。これが、さらに大きな変化を呼ぶとカツオ氏は予測する。

「テレビで己のクリエイションを磨いてきた人が考えるYouTubeの企画って、やっぱりちゃんとしてるし、ホントに面白いんです。その中で、(マスを相手にする)テレビでやろうと思ってもできなかった、ある意味“トガリ過ぎた企画”を、YouTubeで勝負してくる面白いコンテンツがどんどん出てくると思います」

また、テレビディレクターたちの強みとして挙げるのが、“情報整理&編集能力”だ。

「僕もあるチャンネルでゴールデンタイムのバラエティ番組を担当しているディレクターと一緒にやってるんですが、テレビって笑いがよりハネるように、全然違うところで撮った場面やセリフを前に持ってきたりして、時系列の編集になってないことがあるんです。今までのYouTubeだと、撮ったものをジェットカット(=不要な部分をカットしていく編集)でバンバン切って時系列で流していくものが多いので、そこも大きな違いですね」

学習系の動画はYouTubeの人気ジャンルの1つだが、「例えば、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)をやっているディレクターの人が本気でYouTubeを立ち上げたら、めちゃくちゃ情報が整理されて見やすく、深度もあり、すごい良質なチャンネルになって評価され、伸びていくと思いますね」と想像する。

こうしてテレビディレクターが参入してくることで、従来のYouTube動画編集者に求められるスキルが向上するのではないかと見る。

「石橋貴明さんのチャンネルをやっているマッコイ斎藤さん(『とんねるずのみなさんのおかげでした』など)もそうですが、テレビを極めたディレクターは、編集だけじゃなく企画や世界観も作れるから最強なんです。これから、ディレクターの名前でYouTube動画がブレイクしていく事例が、増えていくかもしれないですね」