名古屋大学(名大)は、ベッド安静中に行った筋力トレーニングにより骨格筋量が維持され、筋肉へ霜降り上に蓄積する脂肪(筋内脂肪)が減少することを明らかにしたと発表した。

同成果は、名大総合保健体育科学センターの秋間広教授、名大大学院教育発達科学研究科の小川(矢部)まどか大学院生(現・日本体育大学 助教)、独・シャリテー・ベルリン医科大学のダニエル・L・ベラヴィ研究員(現・オーストラリア・ディーキン大学 准教授)らの研究チームによるもの。詳細は、「Physiological Report」に掲載された。

近年、皮下脂肪と内臓脂肪に加え、“第3の脂肪”と呼ばれる「異所性脂肪」が注目されている。異所性脂肪とは、本来、脂肪が蓄積しないはずの臓器や部位、例えば膵臓、筋肉、肝臓などに蓄積してしまう脂肪のことを指す。筋肉に蓄積する脂肪は筋内脂肪と呼ばれ、2型糖尿病の原因となる「インスリン抵抗性」を引き起こす可能性や筋機能に悪影響をもたらす可能性が示されている。

この筋内脂肪は、加齢や肥満によって増加することがわかっており、これまでの研究では身体活動の減少によっても筋内脂肪の増加が引き起こされることが示されている。

そこで研究チームは今回、健康な若齢者を対象に、8週間のベッドレストとその期間中の筋力トレーニングが太ももの骨格筋量と脂肪量へ与える影響についての実験を行った。

ベッドレストは、寝たきりや宇宙滞在で生じる身体適応をシミュレーションするモデルとされている。身体活動の減少(微小重力による身体への負荷の減少も含む)が身体へ及ぼす影響を調べるため、健常者にベッドで寝たきりの生活を長期間にわたって送ってもらい、活動量を著しく減少させることで調査されている。

そしてベッドレスト期間中であっても、筋力トレーニングを行うと筋萎縮が抑制されることは知られていた。その一方で、ベッドレストのみ、あるいはベッドレストとその期間中に行う筋力トレーニングが、筋内脂肪や皮下脂肪などへ与える影響は明確になっていなかった。

今回の研究では、若齢男性20名を対象に、8週間にわたる実験を実施。対象者は、8週間のベッドレストのみを行うコントロール群(ベッドレスト群)と、その期間のベッドレストに加えて筋力トレーニングを行う筋トレ群という、ふたつのグループにランダムに分けられた。筋トレ群は、ベッドレスト期間中に週3回のレジスタンス運動(スクワット、ヒールレイズ、トゥレイズなど)を実施した。ベッドレスト期間中はどちらのグループも食事は規定にしたがって摂取した。

実験では、ベッドレストの前後にMRIで太ももの連続横断画像を撮影。撮影した画像を詳細に分析し、筋骨格量と筋内脂肪量、皮下脂肪量の評価が行われた。

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    実験前後の太もも中央の横断画像例 (出所:名大プレスリリースPDF)

ベッドレスト後のMRIから、これまでの知見と同様に筋トレ群の筋骨格量は維持されていることが確認されたが、ベッドレスト群は減少していることが確認された。筋内脂肪量については、どちらも減少していることがわかった。そして皮下脂肪量はベッドレスト群は増加していることが確認されたが、筋トレ群ではその変化が観察されなかったという。

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    ベッドレストやベッドレスト+筋トレが骨格筋や脂肪へ与える影響のまとめ (出所:名大プレスリリースPDF)

同じ脂肪に属する筋内脂肪と皮下脂肪の量的な変化には関連が見られなかったが、筋トレ群の骨格筋と筋内脂肪の量的な変化には反比例関係があることが確認された。つまり、筋トレで骨格筋量が増加した人ほど筋内脂肪量が減少したことが示されたのである。

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    骨格筋、皮下脂肪、筋内脂肪の量的な変化の相関図 (出所:名大プレスリリースPDF)

このような結果から、身体活動の減少や筋力トレーニングによる脂肪の適応が蓄積部位によって異なり、骨格筋と筋内脂肪の量的な変化に相互関係が見られることが明らかとなったのである。身体活動の減少は骨格筋量を減少させるだけでなく、筋内脂肪量も減少させ、その一方で皮下脂肪量を増加させることが明らかとなった。これは加齢においても同様な変化が認められることが多くの研究で示されており、将来的に糖尿病や生活習慣病に罹患するリスクが高まる可能性を示しているという。

またベッドレスト期間中の筋力トレーニングによって、骨格筋量や皮下脂肪量が維持され、筋内脂肪量が減少するということは、身体活動の減少や筋力トレーニングによって、筋肉の量的な変化だけでなく、質的な変化が生じることを示しているという。今回の研究成果は、健康増進や、それを目的とした効果的な運動処方の確立へ役立つことが期待されるとしている。また、寝たきりの高齢者や、国際宇宙ステーションでの長期滞在や、今後計画されている火星有人探査のような長期宇宙滞在時の健康維持・増進方法の確立にもつながるものとしている。