生活習慣病、皆さんも一度は耳にしたことがありますよね。健康診断の結果にドキドキしている方も、まだ自分には関係ないかなって思っている方も、ご注目ください。実は、病気が生じるしくみには、私たちの祖先が進化する過程で身体に刻み込まれたものが係わっている場合もあるのです。そして、その身体と環境の関係に着目してみると、「私たちがなぜ病気になるのか」「どうすれば予防できるか」新しい視点が得られます。

こんにちは、科学コミュニケーターの飯田です!「生物ってなんだろう、人間ってなんだろう、自分ってなんだろう?」そんなことを、科学を含めたいろいろな切り口から皆さんと語り合いたいと思っています。

今回のお題は、生活習慣病。私も、健康診断のたびに血圧、尿酸やコレステロールの検診値が気になってしまい、前日は軽く運動してみたり、脂っこいものを避けてみたり。…ズルをしてはいけませんね。では、生活習慣病とはなんでしょう。生活習慣病とは、発症に食生活、睡眠、運動、喫煙など生活習慣が深くかかわる病気のことです。例えば、内臓にかかわる疾患のうち、患者数が多い高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症も含まれる)、がん、心疾患など(文献1)は、遺伝的な体質による部分もありますが生活習慣病とされることがあります。生活習慣病は私たち個人の死亡リスクを高めたり、QOL(生活の質)を下げたりするだけでなく、その人数の多さから社会問題となっています。誰だって、病気はつらいもの。なってしまったのは仕方がありませんが、できることなら予防したいですよね。

これまで、生活習慣病の予防には、元になる生活習慣を改善することが大事だ、と言われてきました。塩分は控えめにとか、脂っこいものは少なく、などと耳にした方もいるでしょう。とはいえ、場合によってはそれがしんどいこともありますよね。そもそも、なんで塩分控えめがつらいのだろう?どうして人は高血圧になりやすいのだろう?それがわかると、社会の側からのアプローチも見えてくるかもしれません。

塩分はこわいけど大事なもの

日本では患者数第1位の病気が、高血圧です。高血圧は、血液が血管を押す強さ(血圧)が、標準よりも増えた状態です。高血圧は、血管が硬くなる動脈硬化を引き起こし、心疾患、脳血管疾患などのリスクを高めます(文献2)。この高血圧の原因の一つとなっているのが、私たちの食事に欠かせない塩分です。塩分を摂りすぎると、体内の水が増えたり血管がきゅっと細く縮まったりすることで高血圧になると考えられています。

本来、塩分は筋肉や脳のはたらきに欠かせないものなので、私たちの身体には体内の塩分を一定に保つしくみがあります。例えば腎臓には、尿として体外に排出される塩分を少なくおさえる役割があります。塩分を摂りすぎれば、体内の塩分濃度を一定に保つため、身体は水分をより多くしようとします。これにより血液の量が増えれば、高血圧につながります。血圧の高い状態が長年続けば、血管が硬くなってさらに血圧が上がりやすくなります。

また、腎臓が塩分を節約するはたらきを強めるようなしくみが身体にはあり、そこで使われている信号の一部には、血管を縮める作用があります。ちょうど、水を流したホースの先を指でつまむと勢いよく水が飛び出すように、血管が縮めば血圧を高めることにつながります。高血圧自体の原因や、塩分に対する身体の反応については、複雑で分かっていない部分も多いのですが、高血圧の発症には塩分をため込むしくみが深くかかわっていると言えるのです(注1)。

塩分を保つしくみは進化の過程で作られてきた

塩分は身体に必須なので、体外に出る塩分を減らすしくみがあることまでは分かりますが、どうして血管を縮める作用まであるのでしょうか。その理由を、遥か遠い昔へと探しに行きましょう。

時は遡り3億6000万年ほど前、私たちの祖先は水中から陸上に進出しました。水の中では浮力が重力を打ち消してくれていましたが、陸上ではそれがありません。血液が重力で足にたまったりせずに、身体中に血液を送る力として血圧を保つ必要がありますが、それに役立つ水や塩分は陸上では必ずしもすぐに得られるとは限りません。海から淡水、陸へと進出する過程で、体内に水分と塩分を貯めるしくみの一部が発達しました。これが、血圧を維持できるようになることにつながり、私たちの陸上生活に役立ったと考えられています。

最初期に陸上に進出した動物の一種、イクチオステガ Wikipedia Commons © N. Tamura

塩をため込みやすい性質は現代人にも残っている

遠い先祖から受け継いだ、塩分を貯めるしくみ。そのしくみが現代では高血圧の一因となっている、と解釈できる結果が、遺伝子の研究から得られています。遺伝子は体質の個人差を決める要因のひとつとなります。現在は国立遺伝学研究所にご所属の井ノ上逸朗教授のグループは、私たち現代人には、ある遺伝子において塩分を貯める信号系のはたらきを比較的弱くするタイプがあることを発見しました(文献3)。従来のタイプと区別するために、ここでは従来タイプと弱タイプと呼ぶことにしましょう。近年、別のグループによって行われた解析では、弱タイプは高血圧のリスクを下げる可能性があるとされています(文献4)。

また、井ノ上教授らは、従来タイプと弱タイプの割合は人種間で差があり、従来タイプの頻度はアフリカ人(90%)、アジア人(70-80%)、ヨーロッパ人(40-50%)の順に多くなっていることを発見しました(文献5)。加えて、チンパンジーなどの類人猿を調べても従来タイプが多いことから、進化の過程でチンパンジーとの共通祖先と分かれた後のヒトの祖先集団は、そもそもは全ての個体が従来タイプを持っていたと推測しています。弱タイプは後の時代になって生まれたと考えられるわけです。こうした新しいタイプは、あるとき遺伝子の一部分がランダムに変化してしまう、すなわち突然変異することによって生じます。

突然変異によって生じたタイプがどのように集団に広まったのか、遺伝子からはそれを調べる手がかりが得られます。井ノ上教授のグループがヨーロッパ人の集団を調べたところ、弱タイプを生み出した突然変異の近くには、本来はランダムに起こるはずの別の突然変異が少なくなっていることを突き止めたのです。この現象は、ある突然変異による遺伝子タイプを持った個体が子孫を残しやすく、その遺伝子タイプを急速に集団内へ広めた際に起こると考えられています。井ノ上教授はこのことから、ヨーロッパでは塩分のため込みに関する弱タイプを持った個体が子孫を残しやすかったのではないか、と推定しています(文献5)。

井ノ上教授は、弱タイプが子孫の残しやすさを高めた理由として、妊娠時高血圧(妊娠時の母体における高血圧)の影響ではないかと推測しています(文献6,7)。別グループからは、弱タイプは妊娠時高血圧のリスクを下げるという可能性が報告されています(文献8)。妊娠時高血圧では母親と胎児の両方が危険にさらされることがあるため、井ノ上教授は、弱タイプは医療の未発達な過去ではとくに個体の生存へ有利にはたらいた、と考えているのです。

では、どうして祖先と現代人の間、または人種間には、従来タイプと弱タイプの頻度に違いがあるのでしょうか。その理由について、井ノ上教授は、以下のように環境の違いに注目した仮説を立てています(文献6,7)。まず、ヒトの祖先が住んでいたアフリカは日差しが強く、汗として塩分が失われやすい環境であった。しかし、アフリカを離れ、寒冷なヨーロッパに移動すると、発汗量が少なくなるなど、塩分を保持する能力がそれほど高くなくても困らない環境に置かれることになった。そうした状況では、塩分をため込みにくい性質が妊娠時高血圧のリスクを下げたため、弱タイプを持つ人々が生き延びやすく、弱タイプの遺伝子を広めやすかった──というものです。言い換えると、井ノ上教授の仮説から、塩分に困らない環境では、塩分をため込みやすい性質が高血圧のリスクとなる、とも考えることができるのです。

加えて、私たちには塩分を貯めるだけでなく、塩分を好むような身体のしくみが備わっています。それは、味を感知するセンサー、です。塩味にはうま味や甘味を強めるというはたらきがあります(文献9)。私も幼い頃、お汁粉を作るときに塩を入れないと美味しくならないよ、と教わったことを思い出します。

身体と環境のミスマッチ

ではいまいちど、現代の人間が摂っている塩分と血圧の関係を詳しく見てみましょう。食べ物から摂っている塩分を正確に調べようとすると大変ですが、これまでの研究から尿中の塩分量の多い・少ないからは、摂取した塩分量をおおむね正確に推定できることがわかっています。さらに、血圧を考える上では年齢による影響も考えなくてはなりません。血圧は、年齢とともに上昇する傾向があるからです。日本だけでなく、いろいろな文化においてデータをとり、加齢による血圧上昇の影響と尿中の塩分濃度をグラフにした研究があります(血圧は通常最大血圧と最小血圧の両方を測定しますが、ここでは最大血圧だけが示されています)。

出典:INTERSALT研究結果, BMJ. 1988. より、改変

1つ1つの点が、それぞれの文化におけるデータを表しています。グラフを見ると、尿中の塩分量が多いほど、1つ年齢が上がる度に増える血圧の値が大きくなる傾向があります(注2)。つまり、摂る塩分の量と加齢による血圧上昇には関係がありそうだ、と言えるわけです。

その一方で、調味料としての塩分を使わない文化の人たちもいます。彼らには、加齢による血圧の上昇も、高血圧を患う人もほとんど存在しないと言われます。例えば、熱帯のアマゾンに住むヤノマミ族は、汗で塩分を失っていそうですが、1日約1g未満の塩分しか摂らずに暮らしています。日本人の1日の平均塩分摂取量は約9.9g(文献10)であることを考えると、日本人は必要な量以上の塩分を摂っている、と言えるかもしれません(注3)。

こうした知見をまとめて、高血圧の原因について考えてみます。かつて私たちの遠い祖先が進化してきたような、塩分の保持に困る環境では、塩分を好んだりため込んだりしやすい性質は生きるために都合がよかったため、現代の私たちにもその性質が受け継がれていると考えられます。しかし、いつからかは分かりませんが、岩塩や海産物、精製した塩などによって、人間は生きるために必要な量以上の塩分を摂るようになっていったのでしょう。

高血圧には塩分の他にも運動不足など多くの原因が想定されていること、現代の私たちの暮らしには食生活だけでなく様々な生活習慣の変化があること、そして塩分による血圧への影響には個人差があること、などを考慮すると何かを一概には言えません。それでも、私たちの身体が塩分の多い環境に合っていない、このミスマッチが高血圧を生じさせる一因である、という考え方もできるのではないでしょうか。

ここで、最初の問いに戻りましょう。塩分による高血圧を減らすために、社会としてできることはなんでしょう?私たちみんなが病気になりやすい環境の中で暮らしているとすれば、病気の予防を個人の努力に任せてしまうのではなく、環境を変える、つまり、本人に負担なく生活習慣が変えられるような環境にする、というアプローチもあり得るのではないでしょうか。

例えば、イギリスでは国を挙げて、市販される加工食品に含まれる塩分を減らす取り組みを行いました。取り組みが始まった頃の2003年から2011年にかけて、イギリスでは成人1人1日あたりの平均塩分摂取量は15%減ったと推測されています(文献11)。このように、塩分をたっぷり含む食品に囲まれているという生活環境自体を変えてしまえば、1人ひとりに頑張ってもらうのとは違った方法で、減塩をすすめることができると言えそうです。

では、こうした政策を行うためのプロセスや議論すべき点にはどんなことがあるのでしょうか。ほかのアプローチはないのでしょうか。また、生活習慣病には、ほかにも環境と身体のミスマッチで起こると言えるものがあるのでしょうか。次回以降で見ていきます。

(注1)高血圧には塩分による影響が大きい「食塩感受性高血圧」と、減塩してもあまり効果がない「食塩非感受性高血圧」があり、塩分を貯めるしくみがそれぞれに及ぼす影響も異なっていると考えられています。また、塩分による高血圧の場合には、脳が体内の塩分濃度を感知し、血管が縮むような命令を出すしくみも知られています(文献12)。

(注2)塩分が血圧に及ぼす効果には個人差があるため、全ての人がこのグラフにしたがった血圧上昇を示すとは言えません。

(注3)極端な減塩については悪影響も知られているため、実際に塩分の制限を行う場合には注意が必要です。

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、取材にご協力くださった国立遺伝学研究所・井ノ上逸朗教授に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。


人の行動や身体の仕組みを進化の視点から解説している科学コミュニケーター福井の記事もぜひご覧ください。

よりぬき科学コミュニケーター相談「こころ編」
https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20190408post-851.html

よりぬき科学コミュニケーター相談「素朴な疑問編」
https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20190501post-854.html

参考文献
1. 厚生労働省「平成29年(2017)患者調査の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/05.pdf(閲覧日:2020年3月6日)
2. e-ヘルスネット「高血圧」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html(閲覧日:2020年3月6日)
3. I. Inoue et al., J. Clin. Invest., 99, 1786-97 (1997)
4. J. K. Fajar et al., Open Cardiovasc. Med. J., 9, 118-126 (2015)
5. T. Nakajima et al., Am. J. Hum. Genet., 74, 898–916 (2004)
6. 総合研究大学院大学「総研大ジャーナル」https://www.soken.ac.jp/file/disclosure/pr/publicity/journal/no15/pdf/14-17.pdf(閲覧日:2020年3月29日)
7. 井ノ上逸朗, 「病気はどこで生まれるのか 進化医学でさぐる病気のしくみ」(2012)
8. K. Ward et al., Nat. Genet., 4, 59-61 (1993)
9. 岩堀修明, 「図解 感覚器の進化 原始動物からヒトへ 水中から陸上へ」(2011)
10. 厚生労働省「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf(閲覧日:2020年3月6日)
11. F. J. He et al., BMJ Open., 4, e004549 (2014).
12. 国立研究開発法人科学技術振興機構「食塩の過剰摂取によって高血圧が発症する脳の仕組みを解明」https://www.jst.go.jp/pr/announce/20181130/index.html(閲覧日:2020年5月1日)

その他参考文献
佐々木敏, 「佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方」(2015)



Author
執筆: 飯田 綱規(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
図鑑ばかり見ていた幼い頃から、生き物の形・行動を決めるメカニズムに惹かれていました。「私とは何か」を色んな角度から考えながら、幸せに暮らすためには科学技術や自然、社会とどうかかわっていけばいいのか、お話ししませんか。趣味は読書や映画、ギター演奏。科学コミュニケーションにも物語を活かしたい。専門は膜タンパク質の機能解析。薬剤師を経て未来館へ。博士(薬科学)。