こんにちは!科学コミュニケーターの毛利です。

みなさんは自分自身や大切な人の「最期のとき」を想像してみたことがありますか?「いきなり何を言うの?縁起でもない」でしょうか、「昔はなかったけど、コロナの自粛期間中に一度考えてみた」、または「身近な人がその状況にあり、普段からよく考えている」でしょうか。毛利は年のせいか、自分や家族の最期のときについては折に触れ考えます。

   

未来館では2019年の年末に、最期のときに自分らしく生きるためには何が必要か、専門家と共に考え語り合うイベントを行いました(https://www.miraikan.jst.go.jp/events/20191221132.html)。科学コミュニケーターブログでは、前後編の2本にわたって、イベントの様子をご報告します!

    

ご登壇いただいたのは、医療や介護現場の最前線で活躍される医師の西川満則さんと介護支援専門員の大城京子さんです。

西川さんは、終末期の患者さんの痛みやつらさを取り除く緩和ケア医、および、病院と地域の診療所の連携でより良い医療の提供を目指す地域医療連携室長として、国立長寿医療研究センターに勤務されています。医療現場では本人の思いが尊重されないような医療選択が多くある中で、何とか本人の思いを遂げられるような病院、地域にしたいという思いをお持ちです。

大城さんは、居宅介護支援事業所・快護相談所「和び咲び」の副所長であり、愛知県大府市を拠点に活動するケアマネージャーです。在宅で介護を受けている方を対象に、介護や医療が必要な方の課題を見つけ、それをチームで調整しながら支えていく仕事をされています。

お二人は、「医療・介護職が当事者や家族と協力して話し合っていくことで、本人の思いを未来につなげていきたい」、そのような思いを持って日々活動されています。    

   

イベントは、西川さんからの「アドバンス・ケア・プラニング(ACPまたは人生会議)について知っていますか?」という問いからスタートしました。

匿名投票システムを使って意見を集めたところ、結果は以下の通りでした。
  1.よく知っている          17% (3.3%)
  2.聞いたことはあるがよく知らない  35% (19.2%)
  3.知らない             48% (75.5%)

括弧内の平成29年度の厚生労働省の調査結果(参考資料1)と比較すれば認知度は高いですが、それでも半数の方が「知らない」と答えました。お話はACPとは?というところからスタートしました。

このトークセッションでは、匿名投票システムを使って参加者の意見を集めました。

アドバンス・ケア・プラニング(ACP)とは?

アドバンス・ケア・プラニング(ACP)とは、「前もって(アドバンス)、最期に向けて大切なことを(ケア)、話し合って伝えておくプロセス(プラニング)」のことで、「人生会議」という愛称で呼ばれることもあります。最期に向けて大切なこととは、本人の価値観や目標、治療や療養・最期を迎える場所の選択、代理決定者の選定などです。

なぜ今、ACPが重要だと言われているのかというと、患者が事前にACPを行っていると、その意思が尊重された医療・ケアを受けられる可能性が高まるからです。そうなれば、本人の心残りがなく、家族の精神的な負担も小さく、さらには本人の他界による遺族の心の傷も小さくなり、回復も早いと考えられています。加えて、医療・介護者がACPの支援に入っていると、よりその効果は高まるとされています。

まずは、ACPを身近に感じてもらいたいということで、自分や大切な人のもしものときに起こるかもしれないこととして、実際の事例の映像を2つ紹介しました。1つ目は、会話ができない本人の意思を推定し、迷いつつも決断していった家族の事例、2つ目は、本人の意思と延命治療との間で板挟みになり、決断できないまま看取りを迎えた家族の事例です。どちらの事例でも、本人ともしものときについて話し合ったことがないために、家族はとても悩んでいました。こうした葛藤に陥らないために事前にできる回避策がACPではないかと、西川先生は仰います。

     

元々ACPは終末期の医療行為の選択ということで歴史的に広がってきた経緯がありますがが、現在はそれだけではなく、人生の最終段階に至るまでの医療・介護(ケア)についても考えていこうという流れになっています。

よく似た言葉として、「事前指示書」や「リビングウィル」がありますが、これらは話し合いの結果のみを指す言葉です。一方、ACPには話し合いのプロセスが含まれることから、話し合いには第三者も関わる、周囲はその選択の理由がわかる、繰り返しの話し合いの結果その気持ちが揺れても構わないなどの違いがあります。最近、エンディングノートの作成はACPに近くなってきているそうで、医療・介護職もそれをサポートしようという流れが出てきているそうです。

その人の人生の物語の中にあるピース(思い)をつなぎたい

それでは、誰とどのようにACPをおこなえばいいのでしょうか。イベントでは、ある介護サービス利用者とその家族の事例を動画でご紹介しました。それは、「本人の意思を尊重したいという思いは皆にあるものの、家族の意思は必ずしも統一されていない。こうした状況で、本人と家族、周りで支える医療・介護職などが一緒に話し合いをすることで、本人の希望を叶える方法を探っていく」という内容でした。大城さんは紹介された事例のように、その人の人生の物語の中にあるピース(思い)をつなげる作業を大事にしていると言います。

ピースをつなげる場には、本人・家族はもちろんのこと、主治医、訪問看護師、ケアマネージャー、ヘルパー、リハビリの専門職、福祉用具の業者、デイサービスの方々、場合によっては友人などが参加します。それぞれが橋渡し役となり持っている情報(ピース)をつなぐことで、その人の価値観、目標や気がかり、譲れないことなどを皆と共有し、どうやったら本人の意思を尊重できるのかを話し合っていくのです。家族や医療職だけでなく、みんなで話し合って決断すれば、残された家族の後悔が少なくなるとも言われています。

家族への遠慮や言語化できていない気持ちもくみ取って、本人の思いをかたちにしていきます。
(提供・大城京子氏)

もしも私だったら…当事者になって考えてみる

とはいえ、多くの人にとってACPはまだまだ先のことと感じられるようで、大城さん担当の利用者でも1番多い答えが、「そのときが来たら考える」だそうです。縁起でもないことは考えたくないのかもしれませんし、大切なこととはわかっているけれども、時間を割いて不確かな未来について話し合うのは難しいと思っていらっしゃるのかもしれません。そこでACPを体験するために開発されたカードゲームと医療器具の実演を通して、参加者のみなさんにACPを自分ごととして考えていただくことにしました。

まずは、カードゲーム「もしバナゲーム(参考資料2)」です。数十枚あるもしバナカードには、心身のつらさ、医療器具、生活などについて、私たちが望むことが1つずつ書かれています。例えば、「痛みがない」「機械につながれていない」「家で最期を迎える」などです。ここでは、以下の3つカードについて、自分が最も重視するものを匿名で投票していただいた後、周りの方と語り合う時間を設け、その後再投票していただきました。

 ・清潔さが維持される      19% → 11%
 ・信頼できる主治医がいる    38% → 33%
 ・家族が私の死を覚悟している  43% → 56%

短時間の語り合いではありましたが、意見が変わった方もおられました。西川さんによると、人と話すことで自分の意見がよりまとまり、考えも深まっていくとのことでした。

    

実演は、「胃ろう」の紹介です。胃ろうとは、身体機能の低下などにより口から食事をすることが難しくなった人が、胃から直接栄養を摂るための医療措置のことです。高齢者の胃ろうについては、延命治療だと考えられており、選択に悩むことが多い治療の1つです。実演では、胃ろうで使用する「胃ろうカテーテル」の説明から、どの様に装着・使用するのか、生活はどう変化していくのかなどについて、具体的に説明していただきました。

胃ろうカテーテル一式。手術でお腹に装着します。
本物の医療器具と腹部を模した段ボールと緩衝材を使って実演していただきました。

参加者のみなさんには、判断が揺れるような条件をこちら側で敢えて設定し(実際とは異なります)、「胃ろうをする/しない」、胃ろうをするならば、「胃ろうに頼らずに栄養がとれ、外せるようになるための訓練をする/しない」の選択をしていただきました。当日は時間の都合上、会場では投票結果の共有のみだったのですが、個別に配った付せんには決断の理由も書いていただきましたので、投票結果と共に一部をご紹介します。

1.胃ろうをして訓練をする(35%)
 ・何とかして生き残りたい。多少辛くても治療を受ける
 ・自分や家族に考える時間が欲しい
 ・喉から下が元気で、やれることがあれば頑張りたい

2.胃ろうはするが訓練はしない(15%)
 ・延命してやりたいことができるのはいいが、人の助けが必要だと考えてしまう
 ・自分のやりたいことをする時間と家族が自分の死を受け入れるための時間を確保する
 ・楽して生きられるのはよいが、実演を見ると少しつらそうなので迷う

3.胃ろうをしない(50%)
 ・自分で食べることが出来なくなったら、それでいいと思う
 ・基本的には苦しい、辛い、迷惑をかけるのは嫌
 ・胃ろう経験者が身近にいるのでしたくない

    

他には、「家族の負担を減らす選択をしたい」「さらに詳しく説明を聞いてみないと判断できない」などの意見も寄せられました。このワークで「胃ろうをするかどうかの判断をせまられる」という共通の設定であっても、一人一人の思いや背景は違い、選択も違うということが一層はっきりしました。そして、あらかじめ自分の意思を周囲に伝え、大切な人ともしものときについて話し合っておくことの重要性が再確認できました。

揺れる 変わる それでいい

イベントの最後に、ある白血病の患者さんとその家族の物語の事例を紹介していただきました。この動画では、本人の気持ちが揺れ変わるのは自然であること、変わってもいいからそれを周囲に伝え、周囲も何度変わってもその度に聞くことが大切なこと、それを聴いてくれる人がいるというのは本人にとても安心感を与えることをお伝えしました。

    

ここまでが前編のブログとなります。

後編のブログでは、さらにACPについて深く掘り下げていったディスカッションと質疑応答の内容を紹介します。

後編
/articles/20201015post-382.html

参考資料

1.厚生労働省『人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書』 2019年3月、人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会(下のリンクはPDFです)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf

2.一般社団法人 Institute of Advance Care Planning『もしバナゲーム』

https://www.i-acp.org/game.html



Author
執筆: 毛利 亮子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
遺伝子がどのように生物の行動をコントロールしているかを知りたくて、線虫C. elegansやマウスの研究に没頭。子連れ留学で多様な価値観に触れ、コミュニケーションに興味を持つ。科学で人と人とをつなぎたい!子供達に明るい未来を残したい!と一念発起。研究室を飛び出し未来館へ。何よりの好物は、顕微鏡観察と科学グッズ集め。