今、症状がなくてもマスクをする、対面を避けてオンラインで会議や授業をする、人との間隔を空けるなど、私たちの生活様式は大きく変化しています。このような変化に対して、たとえば目が見えない人や耳が聞こえない人が困っていることはないでしょうか? 身体的・能力的な「ちがい」から生れる課題、あるいは可能性について、気鋭の研究者たちと意見を交わしながら探ってみようとニコニコ生放送で実施したのが、「いま研究者と考える、「ちがい」を乗り越えるテクノロジー」(2020年5月23日)です。

お越しいただいたのは、2020年4月に未来館の研究エリアに新しく加わったJST CREST xDiverstiy(クロス・ダイバーシティ)プロジェクトの5人。プロジェクトの代表を務める落合陽一さん(筑波大学准教授)、菅野裕介さん(東京大学准教授)、遠藤謙さん(ソニーコンピュータサイエンス研究所、株式会社Xiborg代表取締役)、本多達也さん(富士通株式会社)、島影圭佑さん(株式会社オトングラス代表取締役)。人工知能(AI)やロボット技術など、コンピュータ技術を使った研究にとりくむ若手研究者です。

イベントでは、コロナ禍における「ちがい」から生れる課題に、xDiversityとしてどのように取り組んでいくのか、また、これから未来館の研究エリアで一般の人々を巻き込んで何をしていきたのかを議論しました。このブログでは、ファシリテーションを務めた科学コミュニケーターの川﨑が、5人それぞれのユニークな活動を紹介するとともに、当日の熱い議論の一部を抜粋してお伝えします。

トークセッションの様子。写真左上から、落合陽一氏、菅野裕介氏、遠藤謙氏、本多達也氏、島影圭佑氏、川﨑文資

1人目はxDiverstiyプロジェクト代表の落合さん。落合さんがxDiverstiyのなかでいま力を入れているものの1つが、「次世代の車いす」の開発です。ひとりの介護者が何台もの車いすを一度に動かすことができる「Telewheelchair (テレウィールチェアー)」では、例えば介護施設で入居者をいっせいに誘導することが可能になるため、介護の負担を大きく軽減することが期待できます。

また、Telewheelchairからスピンオフし、落合さんの大学発ベンチャーで開発を続ける自動運転の車いす「xMOVE (クロスムーブ)」では、車いす利用者がボタンやスマートフォンによる操作で目的地を指定するだけで、好きなときに、好きな場所に行くことができるようになるなど、社会実装が進んでいます。

落合陽一氏(筑波大学准教授、JST CREST xDiverstiy研究代表)
写真左から「Telewheelchair」(画像提供:筑波大学) 、「xMOVE」(画像提供:ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)

他人が真似できて、遊び方が多様なものをつくる

落合さんが今回のイベントでとりあげたのは、コロナ禍で聴覚障害者がかかえる課題です。オンラインでの会議や授業は、音声での会話ができない聴覚障害者には参加しづらいといいます。そこで、音声認識による文字起こしを用いた解決例を紹介されました。ビデオ会議中の発言を、Googleが提供する音声を自動で文字に変換する機能を使ってリアルタイムで字幕化し、画面に表示してくれるというもの。Twitterで公開すると大きな反響があり、このシステムを真似する人が現れたり、さらに改良したものをシェアしたりする動きがありました。

ビデオ会議中の発言をリアルタイムで字幕として表示するシステム(画像提供:落合陽一氏)

次に紹介したのが、落合さんの大学の研究室(デジタルネイチャー研究室)で開発されているという、手でドアノブを触るのを避けるために足でドアを開けるツールキット。3Dプリンターで印刷できる部品と、ホームセンターで手に入るネジやボルトで組み立てられるもので、ドアノブに取りつけて使います。同様にTwitterで公開しましたが、反響は大きかったものの3Dプリンターを持っている人が少ないこともあって、自作する人も現れましたがその数は数人でした。

この2つの事例からわかることはなんでしょうか。音声字幕のように、技術が人々の注目を引き、大勢の人が使ったり、自分で改良したりする動きが生まれ、社会にあるちょっとした不便が少しずつ解決していきそうです。しかしそのためには、他人が真似しやすいものを作ったり、遊び方が多様でついシェアしたくなるような仕掛けを入れたりすることが必要だと落合さんは語ってくれました。

3Dプリンターで作ったドアを足で開ける装置(画像提供:落合陽一氏)

2人目の遠藤さんは、先天性四肢欠損の乙武洋匡さんが歩くために膝に動力をつけた「ロボット義足」の開発や、走ることに特化した「スポーツ用義足」の開発に携わっています。

遠藤謙氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所、株式会社Xiborg代表取締役)
写真左から「ロボット義足」(画像提供:(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所) 、「スポーツ用義足」(画像提供:遠藤謙氏)

オンライン化の流れは義足メーカーとユーザーを直接つながりやすくする

遠藤さんのお話は、義足の購入をめぐる変化についてです。義足は安全上の理由から、義肢装具士がメーカーから買ってユーザーに届けるのが一般的ですが、人を介したサービスがしづらくなっている今、義足の購入が難しくなっています。しかし、診断書があれば眼鏡をネットで買えるように、義足も診断書があれば義足メーカーから直接ネットでも買えるようにできないでしょうか。それが可能になれば、たとえばふだんは歩くための日常用義足しか使っていないユーザーも、走るためのスポーツ用義足にアクセスしやすくなります。その結果、義足で走ることがもっと身近になるかもしれません。オンライン化が加速するコロナ禍の情勢を受けて見えてきた可能性だと語ってくれました。

3人目の本多さんは、振動と光によって音の特徴をからだで感じることができるデバイス「Ontenna(オンテナ)」の研究開発をされています。耳の聞こえない子どもがこのデバイスを装着することで声を出すようになったり、太鼓の音のリズムや強弱がわかるようになったりとさまざまな成果があり、全国のろう学校でも実際に使われています。

本多達也氏(富士通株式会社)
音の情報を振動と光に換えるデバイス「Ontenna」。髪の毛や耳たぶに装着する(画像提供:富士通株式会社)

ろう学校の様々な課題をテクノロジーで解決する

いま本多さんが気になっているのは、休校中のろう学校の状況です。あるろう学校では、大量の宿題プリントが郵送で送られてくることがあったとのこと。子どもによっては自分で一日のスケジュールを管理しながら計画的に学習をするのは難しいかもしれません。また、ろう学校に遠方から通学している生徒が多いため、授業がないと友達に会えなくて寂しいそうです。一般の学校の中にはオンライン授業を取り入れているところもありますが、今あるオンラインツールを使ってろう学校で授業するのは難しいようです。しかし、先ほど紹介した落合さんの音声字幕の技術を既存のツールに組み合わせることで、ろう者にも参加しやすいオンライン授業の仕組みをつくることはできるでしょう。コロナ禍で生まれた聾学校の課題に、テクノロジーで解決できる可能性が見えてきたと語ってくれました。

4人目の島影さんは、文字を代わりに読み上げるメガネ「OTON GLASS」を仲間とともに発明されました。

島影圭佑氏(株式会社オトングラス代表取締役)
写真、左から、目の前の文字を読み上げてくれる「OTON GLASS」、「FabBiotope」の取り組みを発表した展覧会の様子(画像提供:株式会社オトングラス)

若い世代で新しい福祉を

OTON GLASSを開発するきっかけは、父親の失読症だったという島影さん。脳梗塞を発症し、言語野に傷がついてしまったことで、文字を読むことだけができなくなったそうです。そこで、父の読みをサポートするために、仲間とともに開発したのがOTON GLASSです。現在、島影さんの父親はリハビリによってほとんど回復したそうですが、OTON GLASSの開発を通じて、文字を読むことが難しい弱視者や、彼らを支援する眼科医療福祉関係者と出会いました。現在はOTON GLASSを“ツールキット”として捉え、当事者でありつくり手である、弱視者とエンジニアが協働し、発明をし続けるプロジェクト「FabBiotope」に取り組まれています。イベントでは、昨年実践した、全盲のプログラマーや弱視の建築家の方とエンジニアが協働し、OTON GLASSを再発明した事例について触れられていました。これらの活動やxDiversityでの活動を通じて、島影さんが改めていま重要だと思っているのは、新たな福祉のムーブメントを起こすことだといいます。xDiversityのメンバーをはじめ、若い世代が今までとは異なる角度から福祉の領域で実践していくことで、新たなムーブメントをつくり、その結果として、新たな福祉のイメージや社会構造自体をつくっていくことができれば、と語ってくれました。

5人目の菅野さんは、人工知能(AI)技術の一つである機械学習やコンピュータビジョンに関する研究者です。AI技術を既存のデバイス、例えば本多さんのOntennaと組み合わせると、騒音のなかから自分が聞きたい音だけを感じられるようになるなど、できることの可能性が広がっていきます。

菅野裕介氏(東京大学准教授)

当事者と研究者が一緒になって課題を解決していく

コロナ禍で明らかになった課題は、技術的課題ではなく情報格差などの社会的課題だというのが菅野さんの見解です。コロナ禍でさまざまな情報が飛び交い、何が正しい情報なのかわからず混乱した人も多いのではないでしょうか。また、言語や生活環境などのちがいにより、必要な情報が届きにくい方もいます。「このような社会課題の解決に必要なのは、最先端のテクノロジーだけではなく、今ある技術をうまく組み合わせると何ができるかを多様な人々が話し合うことではないか」と菅野さんはいいます。確かに技術でできることはいろいろあります。しかし、「研究者は当事者のニーズをすべて把握していないし、逆に当事者は技術のすべてを知らない。ですから、技術の多様性を知っている研究者と、ニーズの多様性を知っている当事者とが、一緒に課題を解決していくことが重要なんです」。そのためには、今後はさまざまな人を巻き込んで研究を進めていきたい、と語ってくれました。

最後に

イベント中は、視聴者の皆様からたくさんの意見や質問をいただきました。ありがとうございました! 例えば、「未来館にふらっと遊びに行ったら、“巻き込む相手”に入れてもらえますか?」というコメントに菅野さんは、「(機械学習って聞くだけで敬遠されることがあるけど)怖がらずに研究に踏み込んできてほしい」と力強く語ってくれました。落合さんは、「当事者からニーズを聞いたり、それを周りで支えている人やxDiverssityの活動に興味がある人にも研究に参加してもらって、一緒に議論しながら問題を解決していくような場をつくりりたい」とのこと。どうやらプロジェクトの研究者たちが未来館の研究エリアで取り組みたいことと、視聴者の皆さんの関心は合致しているようですね! 今後、オンラインイベントだけでなく、Ontennaやオトングラスを体験したり、機械学習を自分なりにカスタマイズしてみたりと、未来館での実証実験なども予定しています。

機械学習はおろか、プログラミングにすら触れたこともない非テック系の科学コミュニケーター川﨑もいますので、気軽に楽しんで、皆さんと一緒に研究を進められたらと思います! 皆様のご参加お待ちしております!

番組の視聴はこちら https://www.youtube.com/watch?v=XEigYH-8DQQ

xDiversity HP https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111094/1111094_11.html



Author
執筆: 川﨑 文資(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
子どもの頃から人と話すことと、科学が好きでした。大学院で科学コミュニケーションに出会い、自分の好きなことを組み合わせると、より良い未来をつくるためのアプローチの1つになることに興味をもちました。毎日の暮らしや教育のことなどと同じように、科学技術のことも自然と語り合える社会になるためにはどうすればいいかを考えながら、未来館に。