世界が壊滅的な気候変動を防ぐという課題に取り組もうとする中、発電産業は炭素排出をなくすための最も重要なセクターとして認識されています。

そのため、米国ではカリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州などの大きな州を含め、半数以上の州が再生可能エネルギーによる電力供給を義務付けており、EUの再生可能エネルギー指令でも同様の目標が掲げられています。再生可能エネルギー資源の統合は、特に風力発電や太陽光発電が断続的で変動性があるため、電力会社にとって大きな課題となっています。

風力および太陽光発電のコストは過去10年間で急激に低下し、多くのケース、特にグリッドスケールで導入された場合は、化石燃料と競合するまでになっています。ウォルマート、ターゲット、アマゾンなどの企業が倉庫や小売店に大量の太陽光パネルを設置していることからも分かるように、商業的規模および工業的規模での設置もきわめて経済的です。また、洋上風力発電や浮体式太陽光パネル技術の絶え間ない進歩に伴い、再生可能エネルギーの適地も拡大しています。

住宅用太陽光発電容量の拡大に加え、電力会社にとってのもう1つの課題は自社の管理下にない分散型エネルギー資源の統合です。米国の州によっては、ネットメーターやBehind-the-Meter(需要家側)発電に対する固定価格買取制度(feed-in tariffs)を義務付ける規制があり、これが管理をより複雑にし電力会社の収益にも影響を与えます。

もう1つの大きな課題も気候変動に関係するグリッドインフラの安全性と信頼性です。最近の米国カリフォルニア州での山火事やPG&Eの破産は、異常気象や気候変化が電力網にどのように影響を与えるかを示す初期の指標となっています。PG&Eは現在でも設備、顧客、森林を保護するために送電停止を計画しています。

これに追加すべき他の設備がエネルギー貯蔵です。エネルギー貯蔵には、揚水、大規模フライホイール、海底加圧ブラダー、あるいは巨大なコンクリートブロックを持ち上げるクレーンなど、多くの形態があります。これらの選択肢の多くは、経済性を高めるために非常に大きな規模で建設する必要があるなどかなり特殊な地理的特性を必要とします。

最も顕著で急成長しているエネルギー貯蔵技術が蓄電池です。蓄電池は非常に拡張性に優れ、家庭規模から発電所規模まで使用することができます。また、従来の発電所サイトで考慮しなければならない膨大な環境評価、インフラ構築、地域規制を必要とせず、ほぼすべての場所に配備できます。

最後に、様々な企業が、最短半年で大規模な蓄電池を導入できることを実証しています。これは化石燃料発電を計画して返済するのに必要な数十年に及ぶ投資期間とはきわめて対照的です。

エネルギー貯蔵は、特に断続的再生可能エネルギーと組み合わせることで、多くの利点が得られます。エネルギー貯蔵の最も明白な利用法はエネルギーの裁定取引です。電気料金が安いときにエネルギーを貯蔵し、電気料金が高いときに送電網に再放出します。太陽光発電(PV)源からの過剰発電が起こる晴れた日には、蓄電素子に電力が流れ込み「必ず引き受けるべき」資源を最大限に利用することができます。夕方、太陽光発電が停止すると、ベースロード発電が増加している間に、蓄電池が失われた電力を供給します。そのため、太陽電池ファームには多くの大規模蓄電池設備が併設されています。

火災の危険性が高いときにPG&Eが顧客をブラックアウトした場合、家庭や企業は蓄電池&太陽光パネルを活用して停電を乗り切り、重要なプロセスが中断したり食品が腐ったりするのを防止できます。さらに、電力会社は現在、需要に応じて電力を生成、貯蔵、放出する「仮想発電所」として分散型エネルギー資源を協調制御しています。場合によっては、これにオフピーク時に電力負荷をシフトさせるデマンドレスポンスも含まれます。

風力、太陽光、蓄電池資源を電力グリッドに連結する重要なインタフェースがインバータです。簡単に説明すると、インバータは直流電力をグリッドの60Hz周波数に同期する交流電力に変換します。図1はグリッドに接続されたソーラーパネルを、インバータ構造を中心にして簡略化したものです。インバータには、単方向、双方向、マルチレベルインバータの複数のトポロジーが存在し、それぞれに長所と短所があり状況に応じて使い分けることができます。インバータの主要デバイスは電源スイッチで、図では絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)として示してあります。

  • グリッド接続ソーラーパネル

マイクロプロセッサ、適切なセンシングとフィードバック、適切なアルゴリズムにより、インバータは電気エネルギーの蓄積と放電にとどまらず、グリッドに様々なサービスを提供することができます。その一例として、電圧サポート、周波数調整、高調波低減を通じた電力品質の維持が挙げられます。分散型エネルギー資源は、電気エネルギーが生成される場所の近くで使用されるため、送電網や配電網の負荷を軽減することができます。これはグリッドの歪みや混雑を軽減し、電力線の更新を延期することさえ可能です。

大量の電力がインバータを通過するため、インバータは非常に効率的に交流電力と直流電力間の変換を行う必要があります。実際、市販されているインバータの最大効率は96~98%です。しかし、グリッド運用業者は、効率のわずかな変化も大きな電力になるため、特に発電所規模において、さらに高い効率を求めています。

これらの効率レベルを達成するには、パワーデバイスの損失がきわめて低くなければなりません。現在のところ、IGBTがこれらのアプリケーションに最適なスイッチです。驚くべきことに、数百Aを流し、数千VをブロックするIGBTは、電話やデータセンター用高性能コンピューティングチップの製造に使われるのと同様のプロセスを使用して、シリコンから製造されます。

しかし、新しい材料は、より高い性能、効率の向上、信頼性の向上を実現することを約束します。具体的には、シリコンカーバイド(SiC)が未来の材料です。SiCパワーエレクトロニクスデバイスは、類似のシリコンデバイスよりも伝導損失およびスイッチング損失が低くなっています。この移行の第一段階では、図1に示すように、IGBTに逆並列接続されたフリーホイールダイオードが使用されます。シリコンダイオードをSiCダイオードに置き換えることで損失が減少し、スイッチング時のオーバーシュートが減少しインバータへの負担が軽減されます。SiCダイオードはシリコンダイオードよりも高価ですが、ヒートシンクおよびシステム全体の小型化によって、総システムコストを削減することができます。

SiC MOSFETが移行の次の段階です。SiC MOSFETは、シリコンIGBTよりもはるかに高速にスイッチングできるため、太陽光発電システムの昇圧段階でさらに大きなメリットをもたらします。一般に、ソーラーパネルの出力電圧は、DC-DCコンバータを使用して昇圧させます。SiC MOSFETは、高速でスイッチングさせることによって昇圧段にあるインダクタなどの高価な受動素子のサイズを小型化し、効率も向上させます。

オン・セミコンダクターは、インバータの各種電圧および電流要件に対応する幅広いIGBT、SiCダイオード、SiC MOSFETを提供しています。最も人気が高いのがパワーモジュールで、多数の異なるパワースイッチとダイオードがパッケージ化されているため、小型で設計しやすく、効率的な放熱を実現します。オン・セミコンダクターは、主要のパワー電子デバイスに加え、ゲートドライバ、ガルバニック絶縁、高性能オペアンプなどをシステム用として揃えています。

まとめ

再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵技術が向上しコストが低下するにつれて、グリッドの「インバータ化」がますます加速しています。インバータは炭素の排出や汚染を排除するだけでなく、消費者と生産者の境界線が曖昧な、より弾力のある参加型グリッドを可能にします。適切な制御と調整により、電力会社は電力品質を向上させ、アップグレードコストを削減し、より信頼性の高いサービスを提供することができます。パワーエレクトロニクスは重要な発電設備の刷新を可能にする鍵となる技術です。

著者プロフィール

Ali Husain
ON Semiconductor
Senior Manager, Corporate Marketing & Strategy, Industrial & Cloud Power