野球やサッカー、ラグビーに続き、日本人選手が海外で活躍するようになって近年ますます注目を浴びているバスケットボール。そんな人気のBリーグチームに、わずか7歳の男の子が入団したのをご存じだろうか? 子どもの夢を叶える「TEAMMATES」という活動をご紹介しよう。

本格的な入団式を経て、チームメイツとして迎え入れられた7歳の少年

2017年11月、日本のプロバスケットボールBリーグチーム「アルバルク東京」に、7歳の男の子人形櫂世(ひとかたかいせい)君が入団した。入団の際、人形君はチームメイツになる選手達に見守られながら契約書にサイン。誕生日にちなんだ背番号14のユニフォームを着て堂々と入団会見に臨んだ。
実は入団当時、人形君は股関節の部分に何らかの理由で血流が途絶え、骨が壊死し潰れる病気と闘っていた。治療中は、補装具をつけて生活しなければならず、同世代の友だちと一緒に遊んだり、走ったりすることが難しいこともある。しかも常に転倒しないよう注意して生活する必要があり、それが大きなストレスになることも。
当然、「アルバルク東京」に入団しても子どもがプロの試合に出場することはできないが、人形君はベンチからプロ選手のプレーを応援したり、選手のためにドリンクを作って渡したりとチームの勝利に貢献。そうして自分もチームの仲間であること、そして自分がチームの役に立っていると思えることが治療中の大きな励みになったという。現在、人形君は元気に動きまわれるまでに回復している。

人形君が「アルバルク東京」に入団したのは「TEAMMATES」という活動の一環だ。この活動は、長期的に治療・療養を必要とする子どもが、スポーツチームの一員として入団し、チーム活動に参加することによって、身体的・精神的・社会的に自立するとともに、長い療養生活に寄り添う「仲間」をコミュニティの中に創出することを支援している。

子どもたちが一番楽しかったこと、その意外な答えとは?

「TEAMMATES」という活動を行っているのは特別非営利活動法人Being ALIVE Japan。理事長の北野華子さんも子どもの頃に長期療養を経験したことがあるという。

「医療の現場では当然、命や治療が最優先になるので、子どもが病気で長期にわたって治療や療養する場合、友だちと遊ぶとか、スポーツをするといった“青春”を謳歌することを、我慢しなくてはいけません。でも、私もそうでしたが、元気になったら学校に行きたい、スポーツをやりたいという目標を持つこと、“青春”を実現する希望を持つことが、治療を頑張るための原動力にもなるんです。私たちは、治療しながらも子どもたちが送れる青春をつくるためにこの活動をはじめました」

と、北野さんは自身の経験を踏まえて語ってくれた。Being ALIVE Japanでは、長期治療・療養を必要とする子どもたちがスポーツと触れ合うために大きくわけて以下の3つのプログラムを用意している。

1)病院プログラム

プロ・社会人・大学アスリートやスポーツチームと一緒に病院を定期的に訪問して入院している子どもたちのために、スポーツ活動を企画提供。

2)地域プログラム長期療養児とアスリートが一緒になって行うスポーツ祭

退院後も継続的な治療・療養を必要とする子どもたちや、身体的な制限がある子どもたちが地域社会の中で 同世代の友人やきょうだいと一緒にスポーツを楽しめる機会を提供。

3)入団プログラム慶應義塾体育会野球部に入団して始球式を行った田村勇志君 

長期的に治療・療養を必要とする子どもが4~6か月間、スポーツチームの一員として入団し、定期的に練習や試合、イベントなどのチーム活動に参加する機会を提供。

このプログラムを体験した子どもたちの反応はというと。

「たとえば、入団プログラムを経験した子どもたちに、何が一番楽しかったかと聞くと、『選手のためにドリンクを作ったこと』というように、選手やチームのために何かをした経験を挙げる子が多いんです。その理由を聞くと『ありがとう』と言われたからと答えるんですね。てっきりバスケットボールやサッカーをやったことかと思っていたら、そうではないんです。普段は自分が何かしてもらって『ありがとう』を言う側だった子どもたちが、誰かのために何かをすることができる、自分もチームの一員として勝利に貢献できているという体験が、子どもにとっては嬉しいようなんです」と北野さん。

この活動の目的は、子どもたちにスポーツをさせることではない。自分には仲間がいるということを知り、仲間と一緒に何かひとつの目標に向かって頑張る、仲間のために何かをするといった喜びを子どもたちはスポーツを通して経験していく。

スポーツの持つ「繋がる力」が子どもを自立へ導いていく

この活動が影響を与えているのは、子どもたちだけではない。長期治療や療養を余儀なくされた子どもの家族は、子どもの体調や身体的な制限を考えると心配なあまり過保護になってしまうことがある。そこで、北野さんたちは、事前に子どもたちの親としっかりと話をし、家族と一緒に子どもたちができることを考え、家族も子どもたちの青春を後押しできるようにするそうだ。

「子どもを送り出す親御さんは不安もあると思います。それも汲み取ったうえで、子どもたちができることを増やすために、彼らと一緒に考え、彼らの背中を押してあげてほしい、サポートしてほしいとお願いしたりします。また、本人が、考えていることや悩みを周りの人たちに伝えるためのサポートをさせていただいたりもしています。それが、子どもたちが自分自身の可能性を切り拓き、自立する為の大きな一歩になるからです」。
子どもたちは、自分が今できる最大限のことにチャレンジできて楽しい気持ちになる。また、その姿を見た保護者にとっても長い療養生活を支えていく上で大きな力になると北野さんは言う。
「付き添いで来ていた親御さんは、最初は一瞬も子どもから目を離せないといった感じですが、次第に、いい意味で子どもたち以上にご家族もチームの活動に夢中になり、応援していることもありますし、親同志が仲良くなって、いろいろなことが相談できるコミュニティが生まれることも多いですね」

また、それまでは話題の中心が病気のことばかりだった家族の食卓が、応援しているチームや選手の話で盛り上がるといったケースもあるそうだ。
「スポーツ自体に繋がる力があると思います。スポーツを通じてチームの仲間やその家族、チームのファンといった、そのスポーツに関わる多くの人、さらには知らなかった世界と繋がることができるんです」と北野さん。

コロナ禍だからこそ、私たちにもできること

「⻑期療養児とアスリートが交流できるオンライン事業」で交流した子どもたちと、Jリーグクラブ「モンテディオ山形」の選手たち

残念ながら現在、新型コロナウイルスの影響で彼らの活動は制限を余儀なくされている。そこで、新しく取り組んでいるのが、スポーツ選手による、オンラインを使ったプログラム。入院していて家族との面会や外出に制限がある子ども、あるいは自宅療養中で外に出られない子どもたちが、「ヒト」や「社会」と繋がるための接点をつくる「⻑期療養児とアスリートが交流できるオンライン事業」を本格始動。5月より試験的な運用を実施しており、6月より事業を本格的に開始し、その第一回目ではJリーグクラブ「モンテディオ山形」に所属する選手たちと、子どもたちがオンラインで交流した。今までも実験的にオンラインを使ったプログラムは行われてきたが、今回の新型コロナウイルスの流行と長期化に伴い、今回オンラインを通じたアスリートとの交流プログラムが実現した。北野さんは、こうした試みを日本全国に広げていきたいという。

ただ、全国のどの病院にも、Wi-Fiやパソコンなど、オンラインに対応した環境が整っているわけではない。また、活動が日本全国に広がれば、それだけ場所やスタッフも必要になってくる。そこで私たちにできるのが、支援だ。寄付だけではない、場所の提供やスタッフとしての参加など、誰でもあらゆる形でこの活動を支援することができる。自分に何ができるのか、興味がある人はぜひ一度、ホームページを覗いてみて欲しい。
「いつか」ではなく、その時にしか体験できない「青春」という貴重な時間を、ひとりでも多くの子どもに体験してもらうために、大人たちにできることが、きっとあるはずだ。

特別非営利活動法人Being ALIVE Japan
https://www.beingalivejapan.org/index.html

text by Kairi Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Being ALIVE Japan