みなさんこんにちは、未来館ノーベル賞イベント物理学チームリーダーの片平です。科学コミュニケーターと楽しむノーベル賞2020、みなさん楽しむ準備は進んでいるでしょうか。

前回の竹腰が書いた吉野彰先生へのインタビューに続き、

今回もノーベル賞受賞者にお話を伺いました(豪華!)。お話を聞いたのは、2014年「高輝度で省電力の白色光源を実現可能にした青色発光ダイオードの発明」でノーベル物理学賞を受賞した、天野浩先生です。

未来館では、科学技術に対して特に顕著な貢献をした方で、未来館へご理解・ご協力をくださった方を「名誉館員」として顕彰し、敬意を表しています。この度、新たに天野先生が名誉館員に加わってくださることになりました。そのお打ち合わせの中で、ノーベル物理学賞チームが天野先生にお話を伺うことができました。

また、もうしばらくすると、常設展示「ノーベルQ」に天野先生からの「問い」も展示されます。未来館SNSなどでお知らせしますので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。

未来館常設展示 ノーベルQ -ノーベル賞受賞者たちからの問い

はじめに青色LEDとは

天野先生のお話の前に、ノーベル賞を受賞した先生らの研究、青色発光ダイオード(LED)の開発として知られているものがどんな研究なのかをごくごく簡単にご紹介します。(詳しくは、ぜひ2014年当時のノーベル賞受賞を解説するこちらのブログをご覧ください。)

そもそもLEDとはp型n型という2つの半導体が組み合わさったものです。2つの組み合わせによって、出てくる光の色(波長)が決まります。

すでに出来ていた赤・緑のLEDに加えて、天野先生らが青色LEDを完成させたことで、光の三原色がそろい、白を含めたあらゆる色をLEDで作り出すことができるようになりました。

今日私たちの身の回りの照明にLEDが使われるようになったのはまさにこの青色LEDの開発のおかげです。今回のお話で覚えておいていただきたい、天野先生らの研究の最も重要な点の1つが、青色LEDを構成するp型半導体の材料である窒化ガリウムの結晶をキレイに成長させる方法を開発したことです。

好奇心と社会とのかかわり

さて、本題に入りましょう。今年の未来館のノーベル賞イベントのテーマでもある、「ノーベル賞研究の広がり」の視点で、受賞者自身がどう捉えているのかをお伺いしました。研究者自身は、発明当時から今のように世界が大きく変わることを想像していたのでしょうか。

天野先生の答えは、最初の思いは「ディスプレイをかっこよくしたい。」

先生が研究を始めた当時、ディスプレイと言えば白黒のブラウン管、それをもっとキレイにかっこよくしたいという思いがあったけれど、それ以上には考えていなかったとのこと。今のように照明に幅広く使われ、省エネに大きく貢献することまで頭にはなかったそうです。それよりも、まずは論文を書いて研究成果を出すことが優先で、当初のディスプレイを、という思いさえ忘れてしまうほど大変で、広がりを考える余裕なんてなかったとのこと。

ですが、少しずつ研究者として認められるようになってきたころ(先生の言葉を借りれば「徐々に生活できるようになってきて」)から、社会とのかかわりを考えるようになったと言います。お話の中でも、工学者として、自分たちの技術がどのように活かされるかという視点で研究を広げていこうと考えておられることが伝わってきました。

研究の広がり

今では、どこでも見られるLEDですが、天野先生たちの研究は、どのように広がっていったのでしょうか。

1989年、当時学生だった天野先生の学会での発表を聞いていたのは、一緒に研究をしていた師である赤﨑先生を含めてわずか4人…。そこから実際に青色LEDが開発され、世の中に広まった2012年(ノーベル賞を受賞される2014年よりも前です)。天野先生らが中心となって開催した国際学会では1000人以上が集まりました。先生たちの発明が研究の世界で大きなインパクトを与えたことが感じられるエピソードです。

また、産業の世界で見ても、青色LEDによって広がった市場は1兆円を超える規模。この広がりようを受けてか、天野先生自身がさらに次の研究を、と構想を練っていると、「産業界の方から、『青色LEDくらいのインパクトがありそうですか?』と聞かれてしまうほどです」と先生は笑って教えてくださいました。

分野を超えてイノベーションを

とは言え、先生の研究はまだまだ広がっています。先生が培ってきた、きれいな結晶を作るという技術はどんなところに応用できるか。特に、新しいものを生み出すためには、いろんな分野の専門家と協力することが絶対に必要だ、と先生は言います。

先生が現在取り組んでいる研究の1つが、青色LEDの光よりもさらに短い波長の深紫外線を放つLEDを使った水質浄化技術や空気中のバクテリアやウイルスの不活化です。最近では新型コロナウイルスに対応するため、医療従事者を守るエアカーテンの開発など、まさに社会に必要とされる研究に取り組んでいます。こうした分野では、結晶の研究だけにはとどまらず、例えば空気の広がりを考えるための流体力学など異分野の専門家と進めているそうです。先生ほどの研究者が「他の専門家から教えてもらうのは刺激だらけです」と仰っていたのが印象的でした。

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世界では今でも、5億人を超える人が安全な飲み水にアクセスすることが出来ずにいます。そうした場所で使える水質浄化技術の量産に取り組んでいるそうです。

https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_water.html

改善されていない水源、あるいは地表水を利用している人の数(2017)

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ノーベル賞のもとをたどると?

天野先生の研究は様々な分野と出会いながら、今も大きく広がっていることがわかりました。それでは、青色LEDはどんな分野が合わさったイノベーションだったのでしょう。

お聞きすると、先生は「自分の専門ってなんだろうなぁ」と言いながら、最初に専門とした結晶成長学に加えて、窒化ガリウムの結晶を作るのに必要なトリメチルガリウムという特別な分子の知識、反応するガスを制御するための知識が必要だったと教えてくれました。

加えて、現在、先生が研究しているパワー半導体の開発には、同じように窒化ガリウムを使っていても、高い電圧に耐えられることや高速でオンオフができるといった、また別の物性を考える必要もあるそうです。

パワー半導体とは、

LEDやパソコンの頭脳にあたるCPUなどとは異なり、筋肉のような働きをする半導体で、先生らの研究で開発したパワー半導体で自動車を動かすことにも成功しています。

名古屋大学 未来材料・システム研究所 プレスリリース(2019/10/24)
世界初! 窒化ガリウム(GaN)でEV車の駆動に成功
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20191024_imass2.pdf

さらに「青色LEDが出来れば、すでにあった赤色・緑色と合わせて、白色ができる、という光の三原色の知識は自然科学だけれど、これが照明に使われ、社会に広まるのは、社会科学やビジネスとの分野を超えたつながりがあるからだ、と学んだ」と言います。

さらに、先生の研究につながった元にある重要な研究とはどんなものですか?と伺うと、半導体分野でノーベル賞を受賞した2人のお名前を挙げてくれました。1人は1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏、半導体の分野において量子力学の世界の現象であるトンネル効果を初めて実証した研究で、天野先生は何度も勉強したそうです。もう1人は2000年にノーベル物理学賞を受賞したジョレス・アルフェロフ氏。彼はこれまで半導体と言えばシリコンという単一元素の結晶などという概念を変えたそうです。いくつもの材料を積み重ねるというアイデアは半導体の研究にとって非常に大きかったと天野先生は言います。

ノーベル賞のもとをたどると、またノーベル賞に出会いました。ノーベル賞だから、というよりそれだけ多くの研究にとって重要な発見だったからこそノーベル賞を受賞したと言えるでしょう。科学の世界はそんな風に、階段のように積みあがって、時にいろいろな分野が出会いながら新しい発見につながっていくことを改めて感じました。

さて、今年のノーベル賞の発表も近づいてきました。発表の瞬間を私たち科学コミュニケーターと見守って、新しい世界の広がりを感じてみませんか?



Author
執筆: 片平 圭貴(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
大学で出会った「鉄」。100トンの鉄を成分0.1%以下の精度にコントロールする、繊細かつダイナミックな現代の錬金術を追及してきました。こんなに面白いこと、みんなにぜひ紹介したい!でも、実はみんなも面白いこと、たくさん持ってるんじゃないの?そんな話をいろんな人としたくて未来館へ。