富士キメラ総研は、2020年のディスプレイ関連市場について、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う在宅勤務の広がりにより、ノートパソコンやパソコン用モニターなどで需要が増える一方、スマートフォンや自動車で需要の落ち込みが目立つとの調査結果を発表した。

ディスプレイ市場はPC、医療向けで需要が増加

2020年上半期は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、世界的に在宅勤務が広がったことからパソコンに対する需要が高まり、パソコン用モニターやノートパソコン向けディスプレイパネルが伸びたほか、医療用モニターで特需が発生した。一方、テレビ向けは需要低迷のあおりを受け、パネルの出荷は低調となった。代わって2020年下半期についてだが、パソコン用モニターや医療用モニター関連は引き続き好調であることに加え、テレビ向けの出荷が回復しつつあるとするが、通年でのディスプレイ市場は前年比5.1%減となると予測している。

2021年以降はパソコン用モニターやノートパソコン向けの需要の減少が見込まれるほか、テレビ向けも長期的には有機ELの台頭により縮小するとみられるため、市場規模は微減で推移していくものと見ている。

スマートフォンの需要減退で車載向けが頼みの綱となる中小型TFT

中小型TFT市場については、スマートフォン(スマホ)関連が市場の60%以上を占めていることもあり、その需給動向に左右されてきた。2019年は、スマホの生産台数の減少、さらには有機ELの採用比率が高まったことから、前年同9.5%減となった。

2020年も、ヘッドマウントディスプレイ向けは好調だが、スマホに加え、車載関連も新型コロナの影響や米中貿易摩擦の影響から生産台数を減らすと見られており、中小型TFT市場全体で前年比21.7%減と2桁のマイナス成長が見込まれるという。2021年以降は車載ディスプレイが回復すると期待されるが、それでも2025年に至っても2019年の市場規模を上回ることはないとしている。

ノートPCでの採用が急拡大する大型有機EL

大型有機EL(AMOLED)市場は2020年上半期、主力のテレビ向けが低迷した一方、ノートパソコンでの採用が急速に拡大した。2020年下半期も、引き続きノートパソコンやタブレット向けが好調であることに加え、テレビ向けも回復しつつあることから、通年では前年比16.6%増と成長が期待できるとする。

2021年以降は、テレビ、ノートパソコン、タブレットそれぞれが市場を拡大させていくと見られており、サイズが大きく高単価であるテレビ向けを中心とした市場構造には変化がないものの、ノートパソコンの需要増加が市場の成長に寄与するとみられるとしている。

スマホでの採用拡大が進む中小型有機EL

一方の中小型有機EL(AMOLED)市場は、大手スマホメーカーを中心にプラスチックAMOLEDの採用増を背景に成長が続いてきた。2020年も、スマホの台数そのものは落ち込んでいるものの、液晶パネルからの置き換え需要が進んでいることから、市場そのものは前年比で微増が予想されるという。

2021年以降もスマホを中心に、スマートウォッチ・ヘルスケアバンド、ヘッドマウントディスプレイ、車載ディスプレイ向けの増加が予想され、2022年には各種製品向けにより高性能品が登場してくることも期待されるとしている。

スマートグラスに期待がかかるマイクロOLED

デジタルカメラの電子ビューファインダー(EVF)やスマートグラス、ヘッドアップディスプレイなどで採用されるマイクロOLEDは、これまでミラーレスカメラおよびデジタルカメラ(DSC)のEVF向けが80%を超す市場であったが、今後はスマートグラスの需要増が予想され、2021年にはEVF向けを超す規模にまで成長するとみられるという。特にBtoC向けのMRスマートグラスが大きな伸びが期待されるとしている。

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    2020年のディスプレイカテゴリ別市場および2025年市場予測 (富士キメラ総研のデータを元に筆者作成)

2020年の液晶関連部材主要6品目の市場規模は前年比4.8%減へ

液晶関連部材主要6品目の2020年の市場規模について同社では、前年比4.8%減との予測を出している。配向膜材料や液晶材料、シール剤、偏光板保護フィルム・位相差フィルムが単価下落により縮小している一方で、ハイエンド液晶テレビ向けパネルで採用が増加しているQDシートは前年比30%近い成長が見込まれており、今後の伸びが期待されるとする。

一方の有機EL関連部材主要9品目の2020年の市場規模については同8.4%増が見込まれるとしている。プラスチックAMOLEDのTFT基板として採用されるポリイミドワニスやフォルダブル用カバー材料、Y-OCTA用オーバーコート剤が好調だという。中でも今後は中小型AMOLEDでY-OCTAタイプのタッチセンサーが主流になるため、Y-OCTA用オーバーコート剤が大きく伸びるとみられるとしている。

このほか、液晶/有機EL共通関連部材6品目の2020年の市場規模については、各品目が前年比でマイナス成長になるとみられるが、2021年には多くの品目がプラス成長に転じると予測している。

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    2020年のディスプレイ部材カテゴリ別市場および2025年の市場予測 (富士キメラ総研のデータを元に筆者作成)

今後の注目市場、QDシートとQDインク

富士キメラ総研では、今後もっとも注目される市場としてQD(量子ドット)シートおよびQDインクを取り上げている。

量子ドット(QD)による波長変換を行うことで、豊かな色再現を可能とするコア技術であるQDシートとQDインクだが、QDシートは液晶向けですでに市場が立ち上がっているほか、QDインクもSMOLED(Small Molecule OLED)やマイクロLED向けでの市場拡大が予想されるとする。

QDシートは、液晶のバックライトユニットに採用される量子ドットシートを調査対象としているが、2019年段階では、需要の大半はSamsung Electronicsの「QLED」向けであり、QLED製品の拡販に伴いQDシートの需要は増加している。2020年はテレビ市場が縮小する中でもQLED製品は比較的好調であり、また、新興メーカーを含めた他メーカーもハイエンドテレビ向けの技術としてQDシートの採用を進めていることから、その市場規模は前年比28.6%増と高い成長率が期待されるとしている。

また、2021年には、Samsung DisplayがQD-OLEDを量産する計画であり、2021年、2022年と市場の成長が期待される。さらに、中国のテレビメーカーではミニLEDバックライトを採用した液晶テレビでHDR対応を進めるケースもみられるようになってきており、ミニLEDを搭載する液晶テレビにおいてQDシートの採用増加も期待されるとしている。

一方のQDインクは、QD材料をバインダー樹脂に分散したインクジェット用材料を対象としたQD-OLEDにおいて、光源の青色光を赤色光や緑色光に変換させるQD-CF向けの材料として検討が進められている。

Samsung Displayは2021年に青色OLEDとQD-CFを組み合わせたQD-OLEDを量産する計画であり、それによりQDインクの市場が立ち上がるとみられる。また、QD-CFはマイクロLEDディスプレイでの採用も想定され、今後はBtoBやホームシアターなどの最上位テレビに応用されるとみられることから、QDインクの需要増加も期待されるとする。そのため2021年以降、市場は順調に拡大し、2025年に416億円規模へと到達することが予測されるという。

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    2020年のQDシートとQDインクの市場規模および2025年の市場予測 (富士キメラ総研のデータを元に筆者作成)