米国政府によるSMICへの制裁検討を受け、米中台の半導体業界の動きが活発化する中、米商務省は、SMICと取引のある米国半導体企業に、「米国技術を輸出する際には米商務省の許可(ライセンス)を必要とする」旨の書簡を送っていたことが明らかになった。

欧米の主要メディアである英Financial Times、米Wall Street Journal、米Bloombergなどが相次いで報道している。しかし、いずれも半導体企業がうけとった書簡のコピーでその事実を確認したとしているが、商務省に確認が取れていないという。

SMICは、米商務省から何の通知も受けてはいないとし、すでに「米国政府が言うような中国軍向けに米国の安全保障を脅かすような半導体デバイスを製造していない」との声明を発表している。一部メディアは9月28日付で「個別案件には答えない」との米商務省スポークスマンの談話を伝えているが、きちんとエンティティリスト記載や制裁措置内容などを公式発表もせずにひそかに対中制裁措置を強行する米国当局のやり方には、(もしもこれが事実とするなら)批判が出ることは必至だろう。米国半導体工業会(SIA)やSEMIは、自由貿易を阻害する米国政府の輸出規制に以前から反対表明を出している。

SMICにとって、QualcommはHuaweiに次ぐ大きな取引先であり、その他の米国ファブレスも、レガシープロセスを使った半導体チップの生産委託を行うなど、今回のSMICに対する事実上の禁輸措置に動揺が広がっている。このような措置は、米国の半導体企業以上にApplied Materials(AMAT)、Lam Research、KLAなどの米国半導体製造装置検査装置メーカーに打撃を与えるはずだが、先行してこの情報を伝えた欧米メディア各社はこの点には触れておらず、これらのメーカーに商務省の書簡が送られたかどうかまだ確認が取れてはいない。

SMICは、米国半導体製造装置が入手できなくなることを恐れて、中国には米国の主権がおよばないにもかかわらず、いままで米商務省のHuaweiへの制裁措置にも素直にしたがってきた。米国製半導体装置が入手できないだけではなく、保守サービスや装置運転に必要な消耗部材の購入ができなくなれば、SMICにとっては(開店休業に追い込まれたJHICCの前例があるように)企業そのものの存続にも関わる重大事態となるのは必至である。

Huaweiへの米国技術輸出制限が日本企業にも影響

SMICへの制裁検討に先立ち、米商務省は米国半導体製造装置を使用して製造された半導体製品のHuaweiへの輸出および販売を米国のみならず世界中の半導体メーカーに求めていたが、IntelやAMDに対して、一部半導体デバイス(5Gスマートフォンや基地局とは関係ない、パソコンやサーバー用とみられるが、商務省も両社も公式に明らかにしていないので詳細は不明)にHuawei向け出荷のライセンスを与えたことが明らかになった。

それだけではなく、9月22日に中国上海でHuaweiは、Intelのx86 CPU採用のインテリジェントサーバーをIntelと共同で発表しており、その模様は世界に中継された。Intelも同発表会にて自社のCPUの紹介もしており、Huaweiは今後ともIntelとの協業を強化するとしている。

一方で、Samsung Electronics、SK Hynix、MediaTek、Qualcommはじめ多数の半導体企業がライセンス申請をしているといわれているが、9月28日時点で韓国企業が米国商務省からライセンスを受けたという報道はなく、一部の韓国メディアが、一部の米国企業にライセンスを出しながらも韓国企業には出さない米国商務省の「2重基準」に対する韓国半導体業界の不満を伝えている。米商務省の対中制裁措置が個別対応で不透明かつ(海外企業から見て)公平感のないものとなっていることに対し、世界中の半導体関連業界から不満が出始めている。

キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)は9月28日、10月6日に予定していた東京証券取引所への上場手続きを延期すると発表。これに伴う新規株式公開(IPO)に伴う株式発行と株式売り出しを中止することを決定した。

最近の株式市場の動向や新型コロナウイルス感染の再拡大への懸念など諸般の事情を総合的に勘案したというが、米国商務省の8月17日付け通達によりキオクシアが主要顧客であるHuaweiに対してNAND製品の輸出ができなくなったことを受け、業績の先行きが不透明になったことが上場延期の主因ではないかと業界関係者は見ている。ソニーの子会社であるソニーセミコンダクタソリューションズもAppleに次いで2番目に取引の大きな顧客であるHuaweiへのCMOSイメージセンサの輸出を止めざるを得なくなっており、業績への影響が出ている模様である。このように、日本勢にも、米国政府の対中制裁措置が直接的に影響し始めている。

なお、野村証券の半導体製造装置調査アナリストである和田木哲哉氏は「野村証券ではこれらの報道に対する真偽は確認できていないが、SMICがエンティティリストに掲載された場合、今後はSMICに対し、米国政府の許可なく米国企業から半導体製造装置・部品・技術などを輸出することができなくなる。米国政府は輸出規制の実効性を上げるため、日韓欧の半導体製造装置業界にも協力を求める可能性が高い。2019年の半導体製造装置市場に占める中国の割合は23%で、地域別では台湾に次ぐ規模だった。中国の半導体製造装置市場は、外資系半導体メーカーの割合が高く、中国地場メーカーの中では、SMICが最大の半導体製造装置の買い手だったと推定される。SMICは親日的な半導体メーカーであり、ほとんどの日本の半導体製造装置メーカーがSMICおよび周辺のOSATと取引がある。SMICがエンティティリスト入りすれば、日系の半導体製造装置メーカー全般の業績にネガティブな影響があるだろう」と、日本の半導体製造装置業界に対する影響もでるとの見方を示している。