宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学(東大)、名古屋大学(名大)、千葉工業大学、高知大学、立教大学の6者は9月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」の光学航法カメラと近赤外分光計により、小惑星リュウグウの暗い表面に非常に明るい岩塊が複数あることを発見し、そのうちの6個はS型小惑星と似た反射スペクトルを持つことから、外来起源物質である可能性が高いことが判明したと共同で発表した。

同成果は、東大大学院理学系研究科・理学部地球惑星科学専攻の巽瑛理客員共同研究員、同・諸田智克准教授、同・杉田精司教授、名大大学院環境学研究科の渡邊誠一郎教授、高知大理工学部の本田理恵教授ら31名の国内外の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature Astronomy」に掲載された。

リュウグウは大きな母天体が衝突によって破壊され、破片が再集積して誕生した「ラブルパイル小惑星」だと考えられている。ラブルパイル小惑星とは、破片が集積しているためにすき間がそこかしこにあるもろい小惑星のことだ。そしてこれまでの研究から、リュウグウの表面はとても暗く、均質な物質できていることがわかっていた。

しかし、低高度運用時やタッチダウン運用時に光学航法カメラを用いて得られた高解像度画像は、cm~m程度の岩塊を識別することが可能で、リュウグウの表面には非常に明るい小さな物質があちこちにあることがわかってきた。その中で、数十cm以上のとりわけ大きな岩塊について、光学航法カメラによる撮影と、近赤外分光計を用いた反射分光観測が行われることとなった。

光学航法カメラの撮影から、21個の明るい岩塊が計測され、そのうちの6個は波長1μm近辺に吸収帯を持つ鉱物、すなわち無水の珪酸塩鉱物であることが判明。リュウグウの多くは含水鉱物であることから、これらは明らかに異なる組成だ。

さらに、その6個について近赤外分光計による反射分光観測が実施され、無水鉱物の中でも「普通コンドライト」と近い特徴を備えていることが確認された。コンドライトとは、地球などの惑星のようにコア・マントル・地殻と構造が分かれていない天体の破片のことをいう。普通コンドライトは、そうした未分化天体の破片(隕石)の中で最も発見個数が多いものであり、珪酸塩中に含まれる鉄の重量比率が少ないという特徴がある。普通コンドライトでできた小惑星は、「S型小惑星」と呼ばれる。

一方、残りの15個はリュウグウと似たスペクトルを持ち、また6個に比べれば比較的暗いことから、「炭素質コンドライト」であると推察されている。炭素質コンドライトは、元素存在度が太陽と酷似していること、炭素・有機化合物・水を多く含んでいることから、未分化天体の破片の中でも最も原始的と考えられている。炭素質コンドライトで構成された小惑星は、「C型小惑星」と呼ばれる。

リュウグウは炭素質コンドライトでできたC型小惑星だが、その表面になぜ無水鉱物があるのかは、何らかの理由で混ざったからと考えられている。混ざる過程としては、(1)リュウグウができてから無水鉱物が衝突した、(2)リュウグウができる際の母天体破壊のときに混ざった、というふたつのシナリオが挙げられている。

このうち(1)については、リュウグウ上に明るい岩塊が比較的多く存在すること、衝突体が壊れないほどの低速度衝突が必要になることから、確率的に難しいという。そのため(2)の可能性が高いと考えられており、リュウグウの母天体が、無水鉱物からなるほかのS型小惑星との衝突によって破壊された後、破片が再集積することで現在のような状態になったというシナリオが描かれた。

リュウグウの故郷は内側小惑星帯と考えられており、その一帯に大きく広がる小惑星族(ニーサ族、ポラーナ族)は普通コンドライト的なS型小惑星と、炭素質コンドライト的なC型小惑星の集合体。このことから、同小惑星族内では、C型とS型小惑星の衝突が頻繁に起こっていたことが示唆されるという結論に至ったのである。

また、リュウグウと同じ炭素質コンドライトと考えられている残りの15個の岩塊が、なぜリュウグウの表面と比べて明るいのかという点に関しては、違う温度を経験したことが理由だという。含水鉱物を含む代表的な炭素質コンドライトであるマーチソン隕石やイブナ隕石の加熱実験によれば、加熱温度によって明るさが2倍以上に大きく変化することが確認されている。温度の違いは、母天体衝突時の温度上昇もしくは母天体内部の温度分布を反映していることが考えられるという。そのどちらであるかは、回収された試料による分析で結論が導かれる可能性がある。

なお、「はやぶさ2」のライバルであり同士である米国のサンプルリターン小惑星探査機「オシリス・レックス」も、小惑星ベヌー(ベンヌとも)表面でも明るい岩塊を発見している。ただし、リュウグウで発見された岩塊とは異なり、2μm吸収帯が深く、小惑星ベスタのような玄武岩的なHED隕石ではないかという。こうした違いから、リュウグウとベヌーは異なる衝突史を経て現在に至ったと考えられ、同様の衝突から誕生したラブルパイル小惑星ではない可能性が高いとされている。

このあと、「はやぶさ2」は試料を地上に届けるため、10月中に軌道の精密誘導が実施される。そして、12月6日に試料を搭載した大気圏再突入カプセルが地上へと到着する予定だ。

  • はやぶさ2

    低高度から撮影されたリュウグウの表面。矢印が指しているのが明るい岩塊だ。なお(a)、(b)、(c)はタッチダウン運用時に撮影されたものだが、明るい点がふりかけ状に存在していることがわかる。(c) Tatsumi et al. (2020) (出所:JAXA Webサイト)