文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)経営企画部エビデンス分析室は、世界各国の科学技術の最新動向などを、発行された有力な科学技術論文などを基に分析した解説をまとめた冊子「プラスエビデンス 2」を発行した。

9月1日付けで発行された冊子「プラスエビデンス 2」は、科学技術振興機構の中で毎週発行されている「社内報プラスエビデンス」を基に再編集した冊子であり、JST外部に配布する目的で編集・制作されたものである。また、元の「社内報プラスエビデンス」は毎週発行され、JST内で研究開発や産学連携などの研究開発費の提供業務(ファンディング)などを担当する専門家の各職員向けに多分野・他分野での最新動向や動向分析手法などを解説したもので、JST内の多分野にわたる各専門家に自分の専門分野外での最新動向などを伝え、その動向分析ツールの使い方などを示唆し、解説したものとなっている。

今回の冊子「プラスエビデンス 2」では、第一章「パンデミック下の科学界」では、科学技術界での新型コロナウイルス関連の最新動向をまとめている。2020年2月ごろから世界各国で猛威を振い始めた新型コロナウイルスによって、各国の科学技術界でも様々な緊急措置が講じられた。その中では、英国の有力な科学誌「ネイチャー」(Nature Publishing Groupが発行)は新型コロナウイルス関連の特集サイトをWebサイト上に設け、関連論文を無料で公開した。また、米国科学振興協会が発行する有力な科学誌「サイエンス」も新型コロナウイルス関連のまとめWebサイトを開設している。さらに、米国クライベイト・アナリティクスは、Web of Scienceのデータや分析ツールを無料開放していることなどを解説し、新型コロナウイルスへの緊急対応策を具体的に解説した。

こうした動きの中で、第一章では2020年1月から4月までに新型コロナウイルス関連の科学論文が8359報と多数が短時間で公表された事実を示し、この科学論文が急増した仕組みは、「査読付き科学論文誌」に投稿する前の「草稿論文」をプレプリントサーバーから公表したものだった事実を指摘している。科学技術分野での科学論文公表の大きな転換点になったことを伝えている。

新型コロナウイルス関連では、米国のNSF(National Science Foundation:全米科学財団)が新型コロナウイルス関連では、医療・臨床ケア以外の基礎科学、医療機器開発、疫学などの研究開発を支援するRAPIDという緊急支援策を打ち出し、新型コロナウイルス対策を広範囲で考える姿勢を打ち出したことの意味合いも解説している。さらに、このRAPIDでは、AI(人工知能)やビッグデータ技術関連の研究開発も多いと指摘し、数理モデリングなどの手法を重視する米国の姿勢を指摘している。

この「プラスエビデンス 2」では、クラリベイト・アナリティクスがまとめた「リサーチフロント2019」を基に、科学技術動向・科学技術論文動向を分析する内容が多い。この「リサーチフロント2019」は「2014年から2019年に出版された“トップ1%論文を対象に、共引用(co-citation)”をクラスタリングしている」と説明する。また、クラリベイト・アナリティクスが最近2カ月間の分野ごとに算出した被引用数上位0.1%の論文をまとめた「ホットペーパー」を基に、さまざまな分析を続けている。

この2カ月ごとに公表される「ホットペーパー」を基に、「社内報プラスエビデンス」では「ホットペーパー入りました」という名前のシリーズによって、それぞれを速報している。これをまとめた第3章などでは、例えば「単原子触媒」「カリウムイオン電池」などの最新動向を伝えている。こうした中では、「燃えないリチウムイオン電池」「ニッケル酸化物で超伝導」など将来の研究開発展開や実用化などで気になるトピックスを紹介し、さまざまな動向の注目点を喚起している。

エビデンス分析室は「今回は材料科学や化学などの限られた専門分野でのホットペーパーでの注目トピックスを紹介し解説ているが、こうした動向分析手法を、自分の専門分野で適用してもらいたい」と、科学技術分野でのあくまでも分析ツールの考え方・使い方の紹介として解説していると強調する、

第4章「エビデンスを集める」では、“書誌結合”(ビブリオカップリング)という手法で2018年の材料科学論文をクラスタ化すると、726のクラスタができ、その中では2D物質、計算物理、2次電池の3つのクラスタが、構成論文数4000を超し、上位3クラスタになったという。

さらに、ポストグラフェン関連のコアペーパーを、“書誌結合”によってクラスタ化し、その上で13のサブクラスタに分割し、ポストグラフェン研究の主流物質になる可能性物質を可視化している。こうした動向分析手法を学ぶ手法を具体的に解説している。

注:冊子「プラスエビデンス 2」の奥付には、2020年9月1日発行と表記されているが、事実上は2020年9月16日に開催されたJST理事長記者会見の場で、報道陣に公開され、外部への配布が始まった模様。この第1冊目となった「プラスエビデンス」は2019年12月24日に発行され、JST外部に配布された。
また、実際の表紙は「+Evidence」という英語表記になっている(日本語のプラスエビデンスは奥付けでの表記)。

  • プラスエビデンス 2

    冊子「プラスエビデンス 2」の表紙