京都大学(京大)は9月16日、時間的に変化する量子状態を推定できる「連続適応量子状態推定」を提案、シミュレーションおよび実験で、物理学の限界の精度で推定できることを実証したと発表した。

同成果は、京大大学院工学研究科野原紗季博士課程学生、同・岡本亮准教授、同・竹内繁樹同教授、大阪大学藤原彰夫教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国際学術誌「Physical Review A」オンライン版に掲載された。

電子や光子といった量子の振る舞いを制御する量子技術の研究が進められており、中でも光子は長距離伝送が可能で、また室温でも量子状態が保存されることから、有力な担体として期待されている。

光子などの量子は、粒であり波である不思議な性質を持つ。そして、人が観測するまでは異なる状態の重ね合わせ状態を取っており、観測されるといずれかの状態として検出される。いわゆる、“シュレーディンガーの猫”である。そのため、1回の観測ではどのような重ね合わせ状態にあるのかはわからない。複数回観測する必要があるが、できるだけ少ない回数で正確に状態を推定することが重要だ。

研究チームはこれまでに、量子1つひとつの計測結果に応じて毎回測定方法を最適化する適応的な推定方法の「適応量子状態推定」を、光子を用いた実験にて実証していたが、その用途は時間的に変化しない量子状態に限られていたため、生体分子のように時々刻々と変化する対象には用いることができなかったという。

そこで今回の研究では、まず従来の適応量子状態推定を拡張し、時間的に変化する量子状態でも計測することが可能なアルゴリズムが考案された。適応量子状態推定は、過去の光子の測定結果をすべて記録し、その全情報から次の光子の最適な測定手法を決定するというものだ。しかし、これでは古い記録に影響を受けてしまうため、時間的に変化する量子状態を正しく推定することが叶わなかった。

そこで今回は、より直近に測定された光子の情報のみを用いるようアルゴリズムを改造。「連続的量子状態推定」では、時間的に変化する量子状態でも計測できるようにしたという。

そして、改良した結果が有効であることを検証するためのシミュレーションと実験が行われた。直線偏光を持った入力光子の偏光角度を時間的に変化させ、その偏光角度を推定したのである。

従来の適応量子状態推定では、変化に追従することができず、徐々に推定した偏光角度と真の偏光角度の間が大きくなっていってしまっていたという。それに対して連続的量子状態推定では、変化に追従できることが確認されたとした。さらに、推定に用いた光子の個数に対する、理論的な測定精度限界に到達することも実証できたとしている。

今回の連続的量子状態推定により、より少ない個数のサンプルで正確に量子状態を推定することが可能となった。これを用いれば、微弱な信号や、高速な現象を捉えることが可能になるという。そのため、量子コンピュータ内の量子ビットの時間的な変化や、量子暗号の通信路が量子ビットに与える影響の時間的な変化を高速かつ高精度に追跡できるようになることが期待されるという。

さらに、生体計測の分野でも生体分子などから発生される限られた光子から、その状態を読み解けるようになることが期待されるとした。研究チームは今後、生体計測を初めとする、さまざまな研究分野への連続的量子状態推定の応用を目指すとしている。

  • 京都大学

    連続的量子状態推定のイメージ図 (出所:京都大学プレスリリースPDF)