みなさん、こんにちは。科学コミュニケーターの廣瀬です。だんだんと夏の暑さも和らいで、秋の訪れを感じます。秋は「○○の秋」と言われるようにスポーツや読書など、いろいろなことをするには最適の季節です。
近々、世界的に注目される賞の発表がありますね。そう!ノーベル賞です!今年も日本人が受賞するのか気になりますよね!私も非常に楽しみです!何て言ったって、13年連続で受賞していますからね!

え?違うって?あれれ、どこかおかしなことを言っていますかね?あぁ、そうでした。私が言っているのはイグノーベル賞でした、大変失礼いたしました。
え?イグノーベル賞って初めて聞いた?おっと、それはもったいないですよ。

ノーベル賞を知っているなら、イグノーベル賞も知ってもらわないと!

イグノーベル賞って?

イグノーベル賞は“ノーベル賞のパロディ”などと呼ばれることもある賞で、今年で30回目を迎えます。1990年に「ユーモア科学研究ジャーナル(Annals of Improbable Research)」の当時、編集者だったマーク・エイブラハムズ(Marc Abrahams)が創設しました。イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)の名前の由来は、ノーベル賞(Nobel Prize)と英語の接頭語のig(~でない)からの命名。綴りのよく似た「ignoble」には「不名誉な」などの意味もあります。

図1 イグノーベル賞のマスコットキャラクター”The Stinker”

本家のノーベル賞と同じく、物理学、化学、平和、経済学、医学、文学賞があり、さらに、音響学賞、交通工学賞など、年ごとに変わる賞も加わって、毎年10賞があります。授賞式は例年、アメリカにあるハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われます(今年はオンライン)。ですが、ノーベル賞のような賞金は出ませんし、旅費や滞在費も受賞者自身が払わないといけません。賞を贈る側が負担をしないのはおかしいじゃないか!と思われる方もいるかと思います。でも、それがイグノーベル賞なのです。

では、なぜこのイグノーベル賞が30年も続いているのか。それは、純粋に楽しいからだ、と私は思います。もともと、私は「研究とは堅苦しいもので、実用的であるものだ」という考えが強かったです。しかし、このイグノーベル賞を初めて聞いたとき、「なんて面白い研究なんだろう」「なんでこんな研究をやったんだろう」と、とても興味をもちました。中には「これって実用的かな?」と思うような研究もありましたが、一番最初に思うことは「この研究内容って面白いな!」でした。

イグノーベル賞は本家のノーベル賞のような「おごそかさ」はありません。なんとも言えない「緩さ」があって、肩の力を抜いてくれる、そんな賞です。授賞式はとにかく「笑いをとること」に振り切っており、早起きして見る価値があります。本家ノーベル賞の受賞者をはじめとした大物科学者も嬉々として参加し、賞を盛り上げています。

イグノーベル賞を楽しむポイントは、選考基準です。それは「人々を笑わせ、考えさせる研究」というもの。過去に受賞した研究がどんなものなのか、気になりませんか?では、過去に受賞した研究内容を見てみましょう

2013年の化学賞。研究タイトルは「タマネギの催涙因子生成酵素の発見」

カレー好きな私にとって、タマネギは辛い相手なんですよね。なぜなら、切るとどうしても涙が出てしまうからです…美味しいのに調理がとても辛い…タマネギ調理をする方であれば、誰もが通る道だと思います。さて、この研究をしていたのは、ハウス食品株式会社でした。「なぜ、ハウス食品株式会社が?」と思われた方、私の話で大体の方はお気づきになるかと思います!

イグノーベル賞の受賞理由にいきましょう。受賞理由は「タマネギが人間の目から涙を出させる生化学的な過程が、科学者が以前に理解していたよりもずっと複雑だったことを発見したことに対して」

タマネギ催涙成分の酵素的生成機構(出典:ハウス食品プレスリリース「タマネギ研究でのイグノーベル賞について」1995年6月)

タマネギを切る際、涙を誘う成分(催涙成分)である②の物質が発生するのですが、実はその成分が発生する過程がよく分かっていませんでした。今回の研究によって、その成分が①の物質から自動的に発生するものではなく、LF シンターゼという「催涙成分合成酵素」によって作られることが明らかになりました。これは料理する人の悩みを解決する大きな一歩かもしれません。もし、この研究が応用されて、催涙成分が作られないタマネギがお店に並んだら、どれだけいいことか。近い将来、タマネギ相手に強がる必要はないのかもしれない。そんなことを期待させてくれる研究でした。

そして、もう一つご紹介いたしましょう。翌年の2014年の物理学賞。これも日本人が受賞しました。

研究タイトルは「バナナの皮の潤滑効果」

そして、受賞理由は「床に置かれたバナナの皮を、人間が踏んだときの摩擦の大きさを計測した研究に対して」

図3 荷重センサを用いた摩擦測定の様子(画像出典:馬渕清資「バナナの皮の科学」、実教出版、2015)

バナナの皮と言えば、お笑いやアニメでおなじみの「滑るネタ」に用いられるものです。私も未来館でお客さまと話をしているときは、よく滑っていて、バナナを超えられるかもしれないと言われたりしています。それはさておき…なぜ、バナナなのでしょうか?その研究をしていたのは北里大学の馬渕清資教授(現在は名誉教授)。人工関節についての研究をされていました。人工関節には潤滑性、つまり「滑らかで滑りやすい」という性質が求められます。馬渕教授が「バナナの皮の潤滑効果」を研究された理由は、お気づきですね?

このように、「人々を笑わせ、考えさせる研究」というのが、イグノーベル賞の選考基準であり、面白くて、楽しいところです。

最後に…

最後になりましたが、今年の授賞式は日本時間で9月18日(金)の朝7時から。日本ではニコニコ生放送が公式として日本語字幕をつけてオンライン放送します。

同僚の科学コミュニケーターと一緒に私は運営コメントでお手伝いします。

ニコニコ生放送「イグノーベル賞2020 授賞式 日本語版公式ライブストリーミング」

https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327959123

9月18日(金)開始:朝7時~、開場:6時30分~

そして!同じ日の夕方には、イグノーベル賞の世界をどっぷりとお楽しみいただける番組をご用意。

ニコニコ生放送「祝30回!イグノーベル賞を科学コミュニケーターと楽しもう」

https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327959159

9月18日(金)開始:18時~、開場:17時30分~

イグノーベル賞の世界へ、みなさまのお越しをお待ちしております!

参考文献

『めざせ イグ・ノーベル賞 傾向と対策』、久我羅内著、阪急コミュニケーションズ、2008年

『イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ!』、マーク・エイブラハムズ著、福嶋俊造訳、講談社+α文庫、2009年

イグ・ノーベル賞のサイト
https://www.improbable.com/whatis/ (2020年8月27日閲覧)

『バナナの皮の科学』、馬渕清資著、実教出版、2015年
https://www.jikkyo.co.jp/download/detail/45/9992657204.html

ハウス食品プレスリリース「タマネギ研究でのイグノーベル賞について」1995年6月
https://housefoods.jp/company/news/list201309.html

Mabuchi et al., Biosurface and Biotribology, 2, 81–85, (2016)

Imai et al., Nature volume 419, page685, (2002)

「日本食品工学会誌」, Vol. 16, No. 2, pp. 181-184, June. 2015



Author
執筆: 廣瀬 晶久(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
高校化学で、原子1つでさまざまな性質が変化する有機化合物や色が変わる無機化合物に興味をもち、その謎に迫りたく、大学、大学院と化学を専攻しました。その後、教員として学校現場で働くなかで、自分と社会との間に科学観のギャップがあることに気づかされました。そのギャップはどこから生まれるのか、どうすれば解決できるのか。自分なりの答えを見つけるべく、未来館へ。