井上雄彦氏が描く人気漫画『リアル』で一躍脚光を浴びた車いすバスケットボール。スピーディーなパスワークや車いす同士がぶつかり合う激しい攻防は、観ているだけでも手に汗握る迫力だ。その臨場感あふれるプレーを選手目線で体験できるのが「VR short video of ParaRing」。この映像の制作担当者である、株式会社リクルート サステナビリティ推進室 サステナビリティグループの細貝智博さんその魅力を伺った。

VRゴーグルいらず!スマホ1つで360度のスポーツシーンを体感できる

「VR short video of ParaRing」の車いすフェンシングの動画

「VR short video of ParaRing」とは、VR(バーチャルリアリティ)の技術を使い、障がい者スポーツを疑似体験できる動画のこと。しかもVR専用の特殊なゴーグルなどの機材は必要なく、スマホやPCのカーソルを動かすだけで目線を自由に変えることができ、臨場感あふれるプレーが体験可能だ。
現在、この動画を企画、制作したリクルートのYouTube公式チャンネルで、車いすバスケットボールをはじめとする6つの競技の動画を無料で視聴することができる。

VR動画の凄いところは360度、選手の視点でプレーを楽しむことができるということ。通常、スポーツ動画といえば観客席からプレーを観戦しているような動画が一般的だ。ところが、この動画は、選手の身体やテニスのネットの上などにカメラを設置しているため、通常では絶対に見ることができないさまざまな位置から、競技を「観戦」ではなく、「体感」することができる。
たとえば、車いすフェンシング。スマホを正面に置いて観ると、対戦相手の剣が自分に向かって繰り出されているように見える。次にスマホを上の方にかざすと、剣がすごい勢いで頭上をかすめていく様子を見ることができる。これはまさにVRならではの試みだ。

迫力満点!「こんな光景見たことない」を実現

「VR short video of ParaRing」のパラローイングの動画

この動画の撮影や編集に携わった細貝さんは、「こんな光景見たことない、という動画を作りたかった」と言う。そのために考えたのが「いかに臨場感を出し、観ている人がその動画に没入できるか」ということ。そこで細貝さんは、その競技の迫力が最もよく伝えられるよう、競技ごとにカメラの撮影方法や位置を工夫。テニスのネットの上や、場合によっては選手の頭の上にウェアラブルカメラを付けることで、ボールや剣の動きなどを選手が普段感じているのと同じように体感できる動画を撮影することができた。

しかし、実際に撮影した動画を見てみたところ、VR酔いをしてしまうことに気づく。そこで今度は臨場感を損なわずに、VR酔いしないような編集をすることにした。この編集作業が思いのほか大変で、何度も試作を重ねたうえ、ようやく現在の迫力ある動画が完成したのだそう。実際に動画を見ると、まるで自分が選手になってプレーしているかのような、まさに「こんな光景見たことない」という臨場感を味わうことができる。「同じ動画でも、360度観る方向によって見えてくるものが全く違い、観るたびに新しい発見があるので、観る方向を変えて何度でも楽しんで欲しい」と細貝さんは話す。

「スポーツとの新たな出会いを広めたい」動画作りに込めた想い

2019年に行われた「パラリング サポ育 仙台」でプレーをするリクルート所属の山口健二選手

この動画は、実は同社が行っている「ParaRing(パラリング)」という活動の一環だ。パラリングは、「パラダイムシフト(考え方の変化)」と「リング(輪)」の造語で、障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍できる社会の実現を目指していこうという思いから名付けられた。
実際、同グループでは、仕事とアスリート活動両立のための従業員への「アスリート支援制度」を適用。「VR short video of ParaRing」に出演しているアスリートの数人は、この制度を使って同社で働くスタッフだそう。
また、昨年はこうした所属アスリートによる「パラリング サポ育」というイベントや、「車いすバスケットボール」の競技体験会を全国各地で実施。車いすバスケットボールの体験会は、2019年5月から2020年1月までに31回も行われ、約5,500人が参加した。参加した多くの子どもが、パラアスリートのプレーに目をキラキラと輝かせていたという。このプロジェクトに携わっているリクルート 広報部 コーポレートコミュニケーショングループの中村太郎さんは、こうした活動がさまざまなことへの「きっかけづくり」になって欲しいと言う。

「ひとつはこのイベントが、子どもたちの“サポートし合う心を育てる”きっかけになったらいいなと思います。そしてもうひとつは、スポーツと出会うきっかけ。弊社に所属しているパラアスリートのほとんどが、体に障がいを持ってから、そのスポーツをはじめられているんですよ。障がいを持った若い人たちがパラスポーツに触れることによって、スポーツをすることを諦めなくていい、やれることがあるということに気づくきっかけにもなって欲しいという思いもあります」(中村さん)

ところが、こうしたイベントは場所やアスリートのスケジュールの確保が大変な上、現在は新型コロナウイルスの影響で開催が難しくなっている。そんな中、「VR short video of ParaRing」は、スマホさえあれば、誰でも、どこでも、気軽にパラスポーツに触れることができる。
中村さんも細貝さんも、この活動を東京2020オリンピック・パラリンピックの年だけで終わらせるつもりはないと言う。「VR short video of ParaRing」によって、ひとりでも多くの人がパラスポーツに興味を持ち、競技全体が盛り上がっていくことを目標にしている。そのために、現在公開中の競技以外のパラリンピック種目の動画も増やしていきたいそうだ。

現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、新しく人に出会ったり、新しい体験をしたりする機会は激減している。そんな時だからこそ、手元のスマホで、「VR short video of ParaRing」を体験してみて欲しい。今までに見たこともない光景が、あなたのパラスポーツに対する価値観を大きく変え、パラスポーツとの新たな出会いのきっかけになってくれるはずだ。

「VR short video of ParaRing」ダイジェスト版
https://youtu.be/okIE_fwMuPw

text by Kairi Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by RECRUITE