大阪大学大学院理学研究科の今野巧教授らの研究グループは、室温で溶液に浸すだけで希土類水酸化物のクラスターを合成する簡便な手法を開発した。同クラスターは残留農薬を分解する固体触媒や、極低温を実現する磁気冷凍材料など高機能材料として期待できるという。

分子中に多数の希土類イオンが集積するクラスターは、磁性、発光、触媒などとしての多彩な応用が報告されている。しかし、このイオンは幾何構造が容易に変化するため、特別に設計された有機物を利用し、水素イオン濃度(pH)、反応比、反応温度を制御した上での溶液合成が不可欠だった。

研究グループは結晶中のイオンが極めて高い運動性を示す「イオン伝導体結晶」を利用し、酢酸ルテチウム(Lu)の溶液にイオン伝導体結晶を浸した。すると、4個以上のルテチウムイオンが結晶の中に入り込み、サイコロ状の錯体が新たに形成されることが分かった。

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    希土類水酸化物クラスター合成の模式図。溶液中の希土類イオン(Ln)が結晶内に入り込み、新たな錯体構造を作る(大阪大学提供)

利用した結晶は、今野教授らが2018年に開発した「水和カリウム超イオン伝導体結晶」。アミノ酸のL-システイン、金属のロジウムと亜鉛のイオン、カリウムイオン、水分子で構成し、カリウムイオンが高いイオン伝導率を持っている。今回はこのカリウムイオンがルテチウムイオンなどに置き換わった。

反応前のイオン伝導体結晶は水溶性だが、反応後は不溶性の高分子に変化した。サイコロ状の錯体は、立方体の頂点にルテチウムイオンと水酸化物イオンが4つずつ交互に配列している。ルテチウムイオンとイオン伝導体結晶の反応比を調整する必要はなく、反応の前後でイオン伝導体結晶の骨格に変化もなかったという。

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    水和カリウム超イオン伝導体結晶の構造。黄色で示した部分がイオン伝導経路となる(大阪大学提供)

ほかの希土類イオンについても合成を実施。高輝度光科学研究センターの大型放射光施設「SPring-8」で粉末をX線回折したところ、ルテチウムのほかにもイオン半径の小さい ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)の7元素についてサイコロ構造ができていた。

これらの結晶は殺虫剤や除草剤の成分であるリン酸エステル類の分解を促す固体触媒として働くほか、ガドリニウムを持つ結晶は磁場の変化で絶対温度2.6度から同1.8度に冷却され、磁気冷凍材料として機能することが確認されている。

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    合成された8種類の希土類水酸化物クラスターの構造(大阪大学提供)

錯体化学の分野では、あらかじめ合成した結晶に対して化学反応を施し、結晶状態を保ったまま新しい化合物に変換する「合成後修飾」と呼ばれる手法が幅広く研究されてきた。研究グループは、今回の結晶内合成法が合成後修飾で高機能希土類クラスター材料を作り出す新しい選択肢になるとみている。

研究グループは大阪大学と大阪市立大学で構成。研究成果はドイツの科学誌「アンゲバンテ・ケミー」国際版で13日に公開された。

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