新型コロナウイルス対策で在宅勤務が増える中、バックオフィス系業務を担う部門の出社を減らすため、業務の電子化に取り組む企業が増えている。薬局向けに電子薬歴「Musubi」(むすび)などのサービスを提供している株式会社カケハシでは、2016年の創業当時から、契約業務の電子化を考えていたという。

同社では、薬局がシステムを導入する際の契約や利用規約を電子化しているほか、社員との雇用契約にも電子サインを利用している。顧客との契約数は月間約数十件で、100件近い月もあるという。

「法律上、紙が必要ない部分はすべて電子化しています。弊社は2016年に創業し、2017年からサービスを提供していますが、創業時から社内のオペレーションを電子ベースで構築してきました」と語るのは、カケハシの代表取締役CEO 中川 貴史氏だ。

  • カケハシ 代表取締役CEO 中川 貴史氏

スタートアップ企業である同社にとって、限られた社員数の中で業務を回していくためには、電子化は必須だったという。中川氏は、「創業時、社員のほとんどはエンジニアで、給与も私が振り込んでいました」と笑う。

同社は、新型コロナウィルスが蔓延する前からオンラインで営業。数回の面談を経て契約の段階になると、相手にメールで契約書を送付し、メールの中のボタンを押下することで、契約が完了となる。導入した電子サインは、弁護士ドットコムが提供する「クラウドサイン」だ。

「薬局さんの場合、契約は紙でしかやったことがない人がほとんどなので、わかりやすい、簡単という点を重視しました」と、中川氏はクラウドサインを導入した理由を説明する。当時は、他のシステムが値段的に高かったり、UXが使いづらかったりしたことも理由だったという。

電子契約の最初の利用は、創業時の社員の雇用契約であった。その後、サービスをリリースし、契約業務で電子サインを利用するにあたっては、どういう要件を満たしていればいいのかなどを弁護士に相談したという。

現在は営業をサポートするセールスオペレーションと呼ばれる部門が、見積書作成や法務部的な業務を行っており、電子サインによる契約も同部門が行う。人員は約30名だという(同社の社員数は現在約120名)。

電子サインの導入について同氏は、「操作が簡単なこともあり、とくに業務で戸惑うことはありません。現在ではオンラインで進めることが企業文化になっいます」と語る。

  • クラウドサインの処理フロー

同社では現在、ほとんどが電子サインによる契約だが、一部紙の契約書も残っているという。

「ほとんど企業さんは電子契約で大丈夫ですが、上場している大手企業さんの場合、紙の契約でないとダメと言われるケースもありますので、その場合は、個別に製本して紙の契約書を送るようにしています」と、同社は紙との併用の運用になっている。

なお、契約書自体はクラウドサインのクラウドに日付けごとに内容別に整理され、保存されている。

「紙を倉庫で管理することもないので、管理が簡単です」(中川氏)

電子サインの導入から3年が経つか、課題は、相手が社内規約上、紙で契約しなければならない場合があり、電子契約と紙の2重管理になってしまうという点と、電子契約のやり方がわからないという薬局も多く、その場合のサポートだという。

ただ、中川氏はそれでも電子サインの導入効果は大きいと話す。

「紙をスキャンしてPDF化して保存という手順よりは、はるかに作業は軽減されると思っています。創業時、小規模であっても業務を回せたのは、電子サインを導入したからだと思います。契約書をいちいち送付して、郵便で返してもらう手順だと、契約までに時間がかかり、取れるはずの商談がとれなくなることも想定できます。電子でその場で契約できるというのは、業務の効率化だけでなく、お客さんの気持ちがさめないうちに契約できるので、事業的に大きなインパクトがあります」(中川氏)

  • 契約書受信画面

  • 契約書同意画面

今後について同氏は「市場的に、電子契約が普及してほしいという思いがあります。そうなれば、相手から『電子でもいいですよ』と言ってもらえる比率が上がってくると思います。あと、登記が必要なものはまだ紙で契約することになっていますので、このあたりも電子でできるようになればと思います」と、期待を寄せる。

また、自社システムでも、さらに電子化を図っていくという。

「オンライン診療に解禁により、患者さんへの薬の飲み方などの注意事項をオンラインで説明することが時限措置として可能になっていますが、こういった薬局さんの業務の電子化も「Musubi」の中で積極的に展開していきたいと思います」(中川氏)