Drone transport  flying with cardboard box above city, futuristic delivery concept

2019年10月の消費増税をきっかけに、普及が進むキャッシュレス決済や、今年2020年の新型コロナウイルス感染防止のために、導入する企業が一気に増えているテレワーク。日本国内におけるITの社会利用は、必要に迫られないとなかなか進まず、海外に比べて動きが遅いといわれてきました。そんな中、人工知能(AI)やビッグデータなどの先端技術を活用した都市「スーパーシティ」構想を実現する改正国家戦略特区法が5月27日に成立しました。スーパーシティとは一体どのようなものでしょうか。

地域を「まるごと」改革する、スーパーシティ

2020年3月に公表した内閣府の構想案によると、次の3要素を満たす都市となっています。

・移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーし、生活全般にまたがること
・2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること
・住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるようネットワークを最大限に利用すること

しかし、これを読んだだけでは、今ひとつイメージがわきません。

そこで、スーパーシティが完成した場合どのように街が変わるのか、想像力を働かせてみると…。

・面倒な行政手続きはオンラインで効率的に処理される。どこでもキャッシュレスで決済ができるため、現金を持たずに出かけられる。

・高齢者は自宅にいながら遠隔診療でかかりつけ医の診察を受け、子どもたちには遠隔教育で世界最先端の教育が提供される。

・街には自動運転のバスが走り、頭上には荷物を運ぶドローンが飛び交うー。

政府が思い描く未来社会はそんなところでしょうか。

少子高齢化や人手不足、過疎・空き家問題など、今の日本が抱える社会的な課題を最先端のテクノロジーによって一挙に解決しようというのがスーパーシティ構想の試みです。

自動運転にしても遠隔診療にしても、10年以上前からマスコミで頻繁に取り上げられ、それぞれ管轄する省庁の指導で実証実験が進められてきました。自動運転は国土交通省と経済産業省ですし、遠隔診療は厚生労働省です。

日本は技術大国であり、それぞれのテクノロジー自体は世界に後れを取っているとは思えません。技術的にはスーパーシティを作ろうと思えば作れるのでしょうが、省庁縦割りの弊害やさまざまな規制のせいで、実現するのは困難になっています。よって、大胆な規制改革により、特区を設けて環境を整えようというのが政府の考え方です。

街づくりにITやAIを活かして住民生活を便利で豊かにする―、というコンセプトなら、これまでもスマートシティという言葉がありました。従来のスマートシティでは、個別に規制改革が行われていましたが、スーパーシティ構想では、「国家戦略特区」として地域を限定して複数の規制を同時一括で改革しようという点が違います。内閣府国家戦略特区公式サイトを見ると、『まるごと未来都市』を強調しており、この実現を目指す思想・取り組みこそがスーパーシティであるとしています。“個別”ではなく“まるごと”なのが大きなポイントです。

スーパーシティを実現する特区の候補地はまだ決定しておらず、自治体の公募制となっています。今年度中に全国5ヶ所ほどの地域を特区に指定する方針です。全国56団体からアイデアの応募があり、その中には2025年万博開催予定地である大阪市の人口島「夢洲(ゆめしま)」も候補地に挙がっています。

スーパーシティ構想の背景には海外事例も

AIやビッグデータを活用して社会のあり方を根本から変えるような都市設計の動きは、海外でも急速に進展しています。

例えば、スペインのバルセロナではWi-Fiを街なかに張りめぐらせ、センサーと組み合わせることで、さまざまな行政サービスをスマート化しました。駐車場の満空状況をリアルタイムでスマートフォンから確認できる「スマートパーキング」や、路地の通行量を計測し街灯の明るさを制御する「スマートライティング」などです。また、通りのゴミ箱にもセンサーが付いており、重量を検知してタイムリーなゴミ収集が可能になりました。

中国の杭州では世界最大のEC(電子商取引)企業アリババ集団が行政と連携して「シティブレイン」プロジェクトが進行中です。監視カメラで捉えた道路のライブカメラ映像をAIで分析し、違法駐車や信号無視といった交通違反の取り締まりや渋滞対策に役立てています。市内では無人コンビニも展開し、スマホアプリも必要としない顔認証でのキャッシュレス支払いが可能です。

課題は個人情報の保護や利用者の環境整備など

スーパーシティ法案採決の際、野党の多くは個人情報保護などであいまいさがあるなどとして反対しました。個人情報を集めるときの本人同意や、自治体が対象地域を選ぶ際にどのように住民合意を得るのかなど具体的な手続きが明記されていないからです。付帯決議には、住民参加や個人情報管理への配慮など15項目が盛り込まれました。

政府が海外事例として挙げたカナダのトロントでは、情報収集に住民らの強硬な反対があり、事業主体だったグーグルの関連会社が5月に撤退を表明しました。日本では法案が成立したとはいえ、詳細な制度設計はこれからなので、丁寧な議論が求められます。

また、識者の中にはスーパーシティそのものに懐疑的な意見を持つ人もいます。国土交通省出身で都市計画の専門家は次のように話します。

「日本ではいまだにビジネスの現場ではハンコを押していて、せっかく始まったテレワークも根付くかどうか、まだまだ分かりません。政府の示す10領域には教育が入っていますが、情報教育についても国際的に大きく後れています。」

「この春学期から遠隔授業を行っていますが、パソコンを持っていなかったり、通信環境の整っていない学生もたくさんいます。このような状況で、地方に対してカタカナの多いきらびやかな構想を出しても、うまくいくのは一部にとどまるのではないか、あるいはうまく使いこなせるのは一部の人ではないかと思います。もちろん、会津若松のようにスマートシティ化がうまくいっている都市もあるので、今後の議論を注視する必要があります」

一部の街ではスマートシティの動きも

福島県会津若松市の例を補足すると、ここでは官民が連携してICTオフィス環境整備事業を進め、昨年4月には「スマートシティAiCT」というオフィスビルをオープンしました。1年で23社が入居し、7割が県外の企業。200人以上が働く一大拠点となりました。街のスマートシティ化により、市民生活に関するさまざまなサービスが生み出されました。

「除雪が終わり歩きやすい道はどこか」という情報や、母子手帳や学校だよりといった教育・子育ての情報などがスマホアプリで簡単に確認できるようになりました。

コロナ禍で日本経済の落ち込みは深刻です。果たして、スーパーシティ構想は経済復興のカギになるのでしょうか。そして、世界の最先端を走る未来都市は日本から生まれるのでしょうか。

執筆者:横山 渉